32 お手紙が届きましたよ
お待たせしております。足を運んで下さる皆様、申し訳ありません。次話は明日更新の予定です。
目が覚めたら、朝だった。いつも、途中で眠気に耐え切れなくなって寝てしまう。子供だから仕方ないのかな、と考えると、いやまてよ、と思い直した。精霊に、子供とか大人とかという区別はあるのだろうか。
「ディア、起きたか。歯磨きをしよう」
先に起きて歯磨きを終わらせたお兄ちゃんが、私の歯ブラシを渡してくれる。
「うぉにいひゃん? ふぇいえいっへ、ねうお?」
ダメだ。歯磨きをしながらだと全く喋れない。苦笑いしたお兄ちゃんにまっへ、と伝えて歯磨きに専念する。最近は洗面所に踏み台を用意してくれているので、1人で歯磨きが出来るようになった。ただ、蛇口が少し遠くて届かないから、お兄ちゃんがコップに入れて置いておいてくれる。全部はまだ一人で出来ないけど、お兄ちゃんに言わせれば、それは出来た内に入ってるらしい。いつかどうにかして蛇口を攻略したいです。
がらがらぺ、をして、お兄ちゃんを呼ぶ。蛇口に手が届かないから、1人で顔を洗えない。後、髪の毛を括らないと、顔を洗えない。軽く一つ結びにしてもらって、蛇口をひねってもらう。お水がもったいないから、洗顔の間は、お兄ちゃんが後ろで待っていてくれる。洗顔後に蛇口を止めるために。顔も洗い終わって、洗面所に跳ねた水をタオルで拭いたら、お兄ちゃんにありがとうのぎゅうをして踏み台から降りる。踏み台を洗面台の隅にずらせば、洗面所でする準備は終了。
髪を結ぶのも、本当は私がするべきなんだろうけど、お兄ちゃんが、そこは譲れないって言ってくれたから、甘えることにしてる。髪を梳いてくれるのも、編んでくれるのも、お兄ちゃんが私を好きって言ってくれてるみたいですごく好き。今日の髪型は、昨日もしてくれた、猫耳風お団子。今日は、髪を残さずに、全部をお団子にしてくれた。
「お兄ちゃん、ありがと!」
挨拶と、お礼の言葉には大体ぎゅうがセットになってる。私が温もりに飢えているだけなのだけど、お兄ちゃんが嫌な顔1つしないで抱き返してくれるから、ついつい嬉しくて、すぐにぎゅうしてしまう。
「お兄ちゃん、精霊って、そもそも寝るものなの?」
先程歯磨き中で上手く発音出来なかった事を繰り返す。私の知識は偏っていて、精霊とか魔法とか、そういうもののことはほとんど分からないから、聞いて、調べて覚えるしかない。お兄ちゃんも、この世界の常識と私が住んでいた場所の常識の違いがはっきりとは分からないから、私が分からないことを聞くのが一番手っ取り早い。
「もちろんだ。植物に関わるような精霊なら夜は眠る。夜や星に関わるような精霊なら昼眠る。普通の生き物と変わらない。ただ、月の精霊や、水の精霊等、例外は存在している」
特別な精霊以外は、普通の生き物と同じってことか。じゃあ、私が寝るのも、多分人間に近いからっていうことなんだよね、きっと。私が何の精霊かっていうのは、今も分かってなくて、人間みたいな精霊っていう、私の中では変な括りになってる。私の種族が分かる時って来るのかな。魔法が行使出来ない以外に困ってることはないから、良いけど。
「そうだ、ディア。私の母から手紙が届いたのだ。もう直ぐ夏期休暇に入るから、家へ帰ってきてはどうかと」
え、お兄ちゃんのお母さんから? 前のめりになって話に耳を傾ける私に少し笑って、お兄ちゃんは話を続けた。
「それが、まだディアが外へ出て来た事を報告していなくてな。ディアさえ良ければ、夏期休暇の間、どこかで私の実家へ帰らないか。ここまで来たら、手紙で知らせるよりも、直接会って驚かせてやらないか?」
お兄ちゃんのお家に行ってお母さんに会うっていう事だよね。素敵!
「うん! お母さん驚かせちゃう! 夏期休暇っていつからなの?」
まだ学校では話に出てきてない。夏期っていう位だから、夏だよね。
「夏期休暇は一月後から始まる。一ヶ月もの休暇が与えられ、学校から実家が遠い者でも故郷へ一時帰る事が出来るようになっているんだ。家は学校から二日程の近い距離にある」
1ヶ月後かあ。楽しみだな。あ、でも。
「お兄ちゃん、私のことがまだよく分かってないから、お外に行かないようにしてたんじゃないの?」
直接言われたことはないけど、何となくわかる。何も分かっていない状態で外に出て、急に魔法を行使出来るようになって危ないことになったり、逆に私が守護精だって誰かに気付かれて危険なことが起きても私を護る魔法がないから、今まで学長先生が護ってくれるこの学校から出なかったってこと。お兄ちゃんは、私の心配をして外に出さないようにしてきたんだから。
「それが、ポーレットやクララに怒られてしまって。彼女達もディアの事を話した訳じゃないが、ディアを外に出してやらないのは過保護過ぎると言われてな。ディアは精霊石に入る事が出来ないが、そもそも言わなければ守護精だとバレない見た目なのだから人間として一緒に行動してやれば良いのだと注意された」
過保護。それだけ心配してもらえるのは、私にとってはすごく嬉しいことだけど、同時に、今までほとんどお外へ出た記憶がないから、お外には、すごく興味がある。
「私は少し神経質になりすぎていたようだ。魔力操作の訓練を私の家では行わない事と、伯爵を外では絶対に出さない事を約束してくれるか?」
伯爵がお外に出られないのは、少し可哀想だと思った。伯爵は、私みたい。特別だから、見つかってはいけない。伯爵が、普通の猫ちゃんみたいだったら、伯爵もお外に出してあげられるのにな。
そう思いながら、返事をできないまま胸元にある香り袋を服の上からぎゅっと握ると、ミイ、と声が聞こえた。
「伯爵?」
お外に出してないのに反応するなんて、珍しいな。どうしたんだろう。
「ディア、そろそろ朝食に向かう時間だ。帰ったら、また話の続きをしよう」
そう言われて、ついさっきまでの疑問が、ご飯のことで頭がいっぱいになって頭の隅っこに行ってしまった。
ご飯、ご飯! そう思いながら、少しだけもやもやするような気がした。
お兄ちゃんの心変わりの理由とポーレット・クララ二人の進言に関しましての作者の考えを活動報告に上げます。流れについていけないぜ、という方がいらっしゃいましたら、覗いてみて下さい。




