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彼と、彼のお寝坊さん  作者: ともむら
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31   伯爵さん、伯爵さん、お話ください

 大変遅れてしまい、申し訳ありません! 大変な難産でございます。流れが決まっているのにのほほんが私を誘惑します。ずっとのほほんを書き続けたい衝動。


 アルside

 バナスパティ・ラジャ、通称バロン改め伯爵――ディアが何故爵位を名として付けたのかは分からない――は、今大人しくディアの匂い袋に収まっている。守護精とは愛し子に対して一人ないし一匹しかいないのだ。未だ伯爵が精霊なのかそれ以外の何かなのか分からないが、精霊の可能性もある以上――愛し子という概念を除けば、魔石から現れる所が守護精に似ていると感じている――彼を他人の目に触れさせる訳にはいかない。ディアと伯爵には悪いが、彼の立場が確定するまでは、というより、出ても守ってやれる環境が用意出来るまでは、外に出るのは控えて貰う事になるだろうな。


「うわあ、いつも可愛い髪型してるけど、今日のそのお団子、猫耳みたいでとっても可愛いね! あ、そのリボンはこの前あげたやつだね、良く似合ってるよー!」


 朝食を取る為、食堂へ着くと、一足早くテーブルを確保していたポーレットとクララが手を振って挨拶を寄越した。今日のディアの髪型は、ポーレットから見ても耳に見えるらしい。髪型を褒められて喜んだディアが、お兄ちゃんはすごいのです! と何故か胸を張っていた。

喜ぶ所はそこではないと思うぞ、ディア。


 クララからも褒められたディアは、終始嬉しそうに朝食を摂った後、ご機嫌で教室へ向かうと、愛らしいながらにきりっとした表情で授業に臨んでいた。どうやら、首元の香り袋の中に居る伯爵の事を意識して、良い所を見せようと張り切っているらしい。もしかすると弟が出来たような気持ちなのかも知れない。微笑ましい気持ちで見守りつつも授業を受け、昼食の時間になると、いつものメンバーとブライアンを誘う。


 全員が席に着いた所で、昨夜ディアと話した魔力の放出実験について話をした。全員を誘ってみると、意外な事にブライアンも含めた全員が、頷く。どうやら、実習時間の時に話した内容が気になっていたらしい。ドームを借りられるのがいつになるかは未だ分からないが、特に予定が無ければ全員参加で行う事となった。

 ちなみに、ブライアンは寝ながら器用に食事を摂っていた。船を漕いでいるにも関わらず、口の周りを汚さずに食べてのけるその姿に感心するやら呆れるやら。ディアとカーシーは凄いと感心しきりだったが、褒める事ではないと、直ぐクララに窘められていた。

 午後からの授業の後、先生が教室を退室する前にドームの予約の話をすると、そのまま職員室へ向かった。予約表の確認をすると、今週は空いていないとの事。再来週なら一時間出が出来るという事だったので、その時間に予約をする。来週実験という訳にはいかなかった為、箱庭での食事に関しても、夕食の際に提案しようと考えた。


 授業も夕食も恙無く終わり、実験に関しても全員が快く了承してくれた。ドーム空いててよかったねー、とはポーレットの言葉だが、確かにそうだと思う。大型の守護精を持つ愛し子達にとっては、その大きさ故に、出す場所が限られている。部屋で出す訳にはいかない為、静かに守護者と対話したい者は、やむなくドームを借りるしかないのだ。実習場であれば外に出る事は可能だろうが、周囲にも人が居るため、静かとは言えないのである。その結果、ドームの予約が埋まっているという事もざらにある。

 箱庭での食事に関しては、人が多いとラーが外に出せないという理由から、昼ではなく、午前中から移動しようという事でこれまた全員が同意した。箱庭の周りは、ラーが出るだけの広さはあるが、人が多いとそれだけのスペースを取る事も出来ないのだから、それが一番良いのではないか、という話になったのだ。

 自室へ戻ってからは、ディアが直ぐに伯爵を呼び出した。小さな伯爵を一頻りカシカシと掻いた後で、じっと見つめる伯爵を隣に置いて魔力の訓練を始める。特に問題もなく、魔石も作らずに訓練は終了したが、全ての工程を見続けていた伯爵が、ディアを小さな前足で突く。


「伯爵、どうしたの?」


 ディアが不思議そうな顔をして伯爵を手に乗せ目の前に抱え上げると、どう伝えたものやらと伯爵がきょろきょろし始めた。


「何か言いたい事がある、という様子だが。ボディランゲージだけでは難しいな」


 伯爵も少し困った様子でおろおろとしている。ディアもうーーん、とうなっていたが、あ、と声を発した。


「ねえ、伯爵。文字は読める?」


 残念ながら、伯爵に文字はわからないようで、小さな小さな頭を傾げるだけだった。


「言葉は分かるんだから、文字だけ教えてあげれば、筆談みたいなことが出来るんじゃないかなあ?」


 そこからは、ディアの眠気との戦いだった。ディアが以前書いたノートを開き、伯爵には大きすぎるその文字を辿って一つ一つ、音の説明が始まる。一巡して確認した所で、少しまだあやふやであった為に、もう一巡。最後の音を言い終えて確認をする段階で、ディアが音を上げた。眠気に抗えなくなったらしい。結局、伯爵が何を伝えたかったのかはわからないまま、その日は寝てしまった。伯爵は、ディアにはとても素直で従順だが、私に対してもそうかと言われれば少し違う。ディアの代わりに伝えたかった事を訊ねようと思ったのだが、伯爵には首を横に振られてしまった。仕方がないので、文字表をもう少し小さくしたものを書き上げ、その日は直ぐに寝た。


 伯爵が文字を完全に覚えたのは翌日の夜であった。少し小さく仕上げた文字表を見せてやると、形状に違和感を覚えたらしく、小さな頭を傾ける。私が用意した文字表は、扇の形をしていた。全ての文字をばらばらに書く事はその小ささから不可能だった為に、五文字ずつ配置した。これならば伯爵が同じ位置から指し示し、叩いた数で全ての文字を示す事が出来るだろうという考えである。本当は、サインのような方法で表現出来れば良いのだろうが、人間の手とは違い指でものを表現するのが難しい。やはり文字を示すしかないだろうと思ってこのような作りにした。一通り説明してやると、成る程分かった、という顔をしてミイと鳴いた後、ディア、と文字を指し示した。


「わ、すごいね! ディア、だって。お兄ちゃんも伯爵もすごい!」


 この事で喜んでいるのは、伯爵自身ではなく、ディアなのであろうと思う。伯爵も心なしか満足気に鼻をふすふすを鳴らしているので作って良かったのだろう。即席で作ったものであるため、直ぐ壊れてしまう事を考え、これが壊れる前にもう少し丈夫なものを作ろうと心に決めた。


『ディア、すき』


 言葉には続きがあったらしい。ミイ、と鳴いてディアの注意を引いた後、仕切り直してディア、と文字を指し示したかと思えば、続きがあったのだ。すき、という事が伝えたかったらしい。伝えられた本人はそれはもう喜んで私も! と言っていた。

 一人と一匹の好きの交換が何度か行われた後、ディアは眠気に抗えなくなったらしい。うとうととして来た所で伯爵にお休み、と文字を示され、辛うじて見えていたディアは、お休み、と回らない呂律で話してうんともすんとも言わなくなった。

 伯爵は、ディアが眠ってしまうと、直ぐに魔石に戻る。私にもミイ、と恐らく挨拶をした後、器用に香り袋へと潜り込んで魔石に戻った。


 お休み、ディア、伯爵。

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