29 どなたでしょうか
犯人はだれだ、という訳で答え合わせお願いします。
アルside
その音、正しくは声だろうか、それはとても近くから聞こえた。ディアは、どこかまだ重そうな瞼をぱちぱちと瞬かせて私を見た。ディアの声でもなく、かと言って私の声でもない。一体何処から聞こえたのか、と周囲をさっと見渡すが、いつもの自室の様子と変わりがない。
声の感じから考えて、とても近い所から発せられたものだと思うのだが。そう考えいると、ディアがふ、と私から両手を放した。慌てて抱き締める腕に力を入れて彼女の体を支える。何か見つけたのか?と様子を見てみると、彼女の目線は下を向いている。空いた両手で首から下げられた香り袋を服から引き出した。香り袋が、少し歪な形でもぞもぞと動いている。
「お兄ちゃん、これ、温かいよ。袋の中、動いてる、よね?」
それは、疑問というより確認だった。戸惑いは感じられるが、怯えのような類の感情は見えない。温かいかどうかは触れていないので分からないが、袋がもぞもぞと緩慢な動きを見せているのはディアの見間違いでも何でもなく、事実だ。私の目にも見えている。
「◎%#っ」
その時また声が聞こえた。少し潜もった音が、袋の中から聞こえるのを、確かに二人で確認した。私はディアから片腕を放し、香り袋の片端を摘んだ。特に合図も何もしなかったが、ディアが反対の端を摘む。互いの額が触れる程近くに寄って、袋の真上を二人で覗き込む。準備が整ったのを感じると、ゆっくりと、袋を二人で開けた。
「ミィ」
袋の中から現れたのは、袋の大きさとほぼ同じ位の大きさしかない猫だった。袋の中から覗いている顔は赤い。鼻と耳は見えているが、その他は袋の影になって見えない。私達を見上げ、袋が開いた事に気付いた猫は、大人しくその場に座った。
「え、猫さん?」
彼女にも、猫に見えたらしい。彼女と猫の目が合う。ぱちりと瞬きを一つして、猫はことりとミィ、と鳴いた。
「何故こんな所に猫が」
大きさにも色にも疑問がある。このような猫は見た事がなかった。生まれたての仔猫よりももしかすると小さい猫が、瞳をくりくりと開いている等、とても普通ではない。
そう考えていると、先程とは打って変わってちらりと薄目でこちらを見た猫は、フイ、と直ぐに目を逸らした。ディアと私の反応の違いを感じたが、一瞬の出来事であった為に、気のせいという事にして違和感を無視する。
「猫さん猫さん、どこから来たの?」
ディアにとって、一番の疑問点はそこだったらしい。じいと見つめるディアの質問に、猫はことりと首を傾げた。
「可愛いっ!!」
確かに、大変愛らしい動作だと思うが、そこで思考を停止する訳にはいかないだろう。一先ず袋から出してみるか? と考えていると、スっと猫が袋から飛び出した。
「ひゃっ?!」
ディアが驚いて袋から顔を離す。同じタイミングで私も離れた。袋から飛び出した猫は、ディアの手首の辺りにちょこんと座っている。細い腕に座るとは起用だ、と考えていると、キラリと光るものが目に映った。
「あれ?」
ディアもそれに気付いたようだ。目線が猫の耳の間へと注がれている。
「王冠だ。あれ、この王冠……」
猫の耳の間にあったのは、ディアが王冠と例えていた、一番大きな魔石だった。
「王冠、乗せてるの?」
ディアが人差し指を伸ばして魔石とつんつん、と突く。振動に違和感を感じたのか、猫はぶるぶると顔を振ったが、魔石は落ちない。
「まさか、着いているのか?」
私も触れてみようと指を伸ばすと、スイ、と避けられた。
「ん?」
もうもう一度試してみるが、結果は同じ。試しに、もう少し目的の場所を下げて、眉間の辺りへ指を伸ばすと、今度は避けられず、かしかしと掻くのを甘受した。もう一度、その上を目指すと、今度はスっと細めた目で此方を見る。それが、触れたら許さない、と言っているように見えて、直ぐに指を眉間へと戻した。目を瞑って眉間を掻かれる様子を見ると、愛らしいその様子に状況を忘れて和んだ。
「魔石がくっついた猫ちゃんって、どういうこと、なんだろ」
ディアの言葉に急に引き戻された。そうだった。この猫の正体を調べなければならないのだった。
「この場所には守護精以外の精霊は、学長と箱庭のスプライトだけの筈だし、動物が現れたという話も聞いた事がない。一体何なのか」
匂い袋から出て来たのは、そもそも何故なのか。
「王冠が本体、なあーんて」
まさか、だよね。とディアが言ったその時だった。ミィ、という猫の鳴き声の後、フォン、と音が立ち、猫が光る。眩しくて一瞬目を閉じた後、光が収まるのを瞼のおくで感じて目を開けば、ディアの腕の上には、あの王冠型の魔石がポツンと、乗っていた。
「あれ、猫ちゃんは?!」
きょろきょろと見渡すがあの猫が居ない。その時、ミイ、と声が聞こえた。
「ん?」
もう一度、ミィ、と声が聞こえる。声の発する先は、あの、魔石だった。
「まさか、本当に魔石が正体だというのか?」
呟いた瞬間、応えるようにミイ、と声がする。再び魔石が眩しい光を放つと、目を開けた先には、先程の猫の姿。
「わあ、猫ちゃんだ! 猫ちゃんは王冠だったんだね!」
ディアが目を輝かせて王冠を人差し指で突くと、再び返事をするようにミ、と口を開いた。ディアが触るのは許されているらしい。ディアが特別なのか、それとも私があまり好かれていないのか。否、そこではないと頭を振って、猫の方を見た。
「君は、その魔石から出て来たのか?」
その私の問いに、表現しがたい顔をされた。先程から私達の言葉に反応している様子だったので思い切って質問をしたのだが、思い違いだったか?
「ちょっと違うって顔してる。じゃあ、魔石が猫ちゃん、とか!」
ディアの言葉にミイ、と言葉を返す。言葉は理解していたらしい。魔石が猫、とはどういう事だろうか。
「では、魔石から生まれたという事か?」
そう聞くと、大筋で合っているが厳密には違う、というような複雑な顔をされた。
「お兄ちゃん、その魔石は私の魔力だから、猫ちゃんは私から生まれたって言いたいのかも?」
ディアの言葉にまたミイ、と返事を返す。良く分かってる、というようにディアの肩に飛び乗ってめいいっぱい足を伸ばし、彼女に頬ずりしている。
「くすぐったいよ」
ディアも満更ではない様子で、擽ったいと良いながらも、嬉しそうに顔を綻ばせていた。
そうか、あの王冠型の魔石が猫に、と考えると、ふと、一つ疑問が湧いた。
「何故、一番最初に作った雫型の魔石ではなく、王冠型の魔石が猫に?」
呟いた私の言葉が聞こえたのか、猫が私の方を見る。少し考えるようにした後、猫が頭を前足で抱えた。ように見えたが、どうやら頭にある魔石を指しているようだ。
「その王冠がなーに?」
ディアの反応に応えて、今度は後ろ足で器用に立ち上がった。
「うわあ、猫ちゃんすごい!」
ぱちぱちと拍手して喜ぶディアだが、猫の目的はそこではないというようにそのまま立ち上がっている。よたよたとしていたが、座るように腰を下ろして自分の体が安定した所で、前足を上へと動かした。どういう事だろうか。
「なんだろ。最初は魔石、でしょ? その後にその動き。お兄ちゃん、私が猫ちゃんの真似してみるから、考えてみて!」
ディアはそう言って猫を肩から下ろすと、立ち上がって、両手をいっぱいに広げた。
「大きい、という表現、か?」
猫の時には分からなかったが、ディアが実際にやるとそのような動作に見える。ベッドに下ろされた猫をそう言って見ると、ミイ、と鳴いた。
「質問が、何で最初の魔石じゃない王冠型の魔石が最初に猫ちゃんになったのかっていうのだったのに対しての猫ちゃんの反応だから……。猫ちゃんの魔石が、大きいからって事になるのかな?」
そうか。魔石が大きいから、と猫は答えたかったのか。確かに魔力量の違いが影響する可能性はあるかも知れない。
「ミイミイ」
そうそう、と言うように頷く猫に成る程、と納得したが、一つ疑問が解決した所で根本的な疑問が解決していない事に気付いた。
何故、ディアの魔力の塊から精霊のようなものが現れたのか、という事を。




