27-2 魔法の事を教えて下さい(後編)
今回は引き続き、アルのターンになります。少し進展、しているでしょうか。
アルside
これからが本番だ。ポーレットの質問に対して、ここでフー様――長命であるという事なので、私もそう呼ぶ事とする――が反応した。嘴をカチカチと鳴らしながら、ゆったりと頷いたのだ。
『皆が口に出してる訳じゃないと思うけど、声に出すと、魔法が使いやすいかも?』
ラーが考えるようにして口を開く。そう言えば、フー様は魔法行使の時口ぱくぱくするよねー、とポーレットがフー様の嘴を撫でた。
『口ぱくぱくっていうか、え、声、出てるよな?』
ボルトの一言で、時が止まった。
「え、声、出てるの?」
「ぱくぱくしてるだけじゃないのっ?」
「聞いた事ねーけど?」
乗り遅れたが、私も初めて知った。声、出てたのか。
『魔力を出すのと同時に、声も出ている筈だが、そうか、人間には聞こえていないのだな』
我もそれは知らなんだ、と納得したようにガールが頷いている。精霊にとっての普通と人間にとってのそれとが食い違っていたが、今まで問題が無かったせいか、お互いに知らなかったようだ。
「そもそも私達には魔力というものが感知出来ない、という事が改めてよく分かったわね」
『まさか声も聞こえてねーとはなー』
聞き取れない声と魔力、これが一つになると魔法行使が出来るのだろうか。
「魔力は、言葉に乗せる事で魔法を行使出来るのだろうか」
ここで初めて、口を開いてみる事にした。もしかすると、学長の隣で魔法行使を見ていたディアは知っていたのかもしれないが、私には分からなかった事であるから、情報は多い方が良い。
『そうですの。正しくは、魔力で声を出す、と言うべきでしょうか』
こうですの、と言いながら、鼻を少し上げて口を開いて見せてくれたが、全く、何も聞こえない。
『ラーよ、それでは人間には聞こえぬと先程分かったばかりではないか』
やれやれ、とガールが首を振る。あら、ですの。と少しのんびりと驚いてみせるラーに、ブライアンが肩を揺らしながら静かに笑っていた。
ところで、魔力で声を出した今、魔法が行使されたような様子はない。魔力で声を出すだけでは、魔法は成り立たないようだ。やはり、学長の言う〈自然が理解する言葉〉が無ければ意味はないらしい。
「魔力で声を出すっていう事は、魔力を通さないと、その声は出ないってことなのかな?」
ポーレットが不思議だねえ、と首を傾げている。確かに不思議だが。人間の言葉は、空気の振動によって引き起こされているというのだから、違う媒体によって声というものが発生しても不思議ではないのかもしれない。ディアは、その声を出せるのだろうか。後で、自室に戻ったら聞く事にしようと決める。
『出し方がわかんねーからなー。そう思ってもらって間違いじゃねーと思うぜ』
『そうであるな。音が伴わないただの吐息では魔法にはならぬ』
魔力を込めずに声を出すというのはそれ程その行為に必要なものであるらしい。
「聞こえないんじゃあ、魔法を行使する為の言葉が聞けないね。ちょっと聞いてみたかったなー」
ポーレットが残念そうに肩を落とすと、隣に居たクララの相棒、もといボルトが、尾で彼女の頭をぽむぽむ、と叩いて慰めていた。
魔法の言葉を聞く、というのを聞いて、私の頭に過ぎった映像がある。魔力を見たあの現象だった。ディアのあの魔力を帯びた状態なら、もしかすると、目以外の機関でも感知出来るのではないか、そう思ったのだ。試してみる価値はあるかも知れない、頭の中に記憶した。
「ねえ、魔力って、どんな色してるの?」
ブライアンが、少し前のラーの言葉を掘り返してきた。気になっていたらしいが、眠気と戦った結果、今この場での発言となったらしい。
『ブライアン、当ててみるの』
ラーは、少し嬉しそうにしている。会話が成り立つ事は、この様子だとあまり無いのかも知れない。主にブライアンの眠気が原因で。
「ラーは青って言ってたよね?」
『そうですの』
「じゃー、黄色は?」
そうブライアンが言うと、ガールが前足を器用に上げて挙手? 挙足? をした。
『我の魔力は黄色であるな』
風魔法の魔力は黄色、か。これは余りイメージが湧かないが。
「じゃあじゃあ、緑は?」
『この場にはおらんが、植物にまつわるものは、大体そのような色をしている』
ふむ。
「それっぽいと言っていいのかどうなのか。じゃーボルトは何色なんだー?」
『ふふん、俺様の色はな!』
『紫ですの』
何故か最後まで言わせて貰えなかったボルトはでろんと力を失ってだれていた。
「この流れで行くと、赤は火かな?」
『ブライアン正解ですの!』
そこのまったりコンビは非常にラーが嬉しそうだ。会話が出来るのが嬉しくてたまらないという様子のラーに何となく皆目が行って和んでしまう。
「フー様って何色なんだろ。フー様は癒しの魔法が使えるよね! あれって何に語りかけてるんだろ」
『癒しの魔法とは珍しく、詳しい事は秘匿としている種族が多いが、色ならば分かるぞ。何故か透明なのだ。海月のようなものをイメージして貰えれば良いだろうか』
ガールの発言にフー様がその通り、と頷いた。フー様、本当に喋らないのだな。
「ならば、白や黒もあるのかしら」
『勿論あるが、黒は兎も角白は非常に珍しいぞ』
クララの疑問に答えたのはガールだ。白は珍しい、というのはどういう事なのだろうか。
『黒っていやー、隠匿とか索敵とかに適した夜の魔法の色だよなー。索敵が何で黒なのかって言われちゃー、俺様答えらんねーから聞くなよ』
「じゃあ、白は何の魔法なの??」
ポーレットがそう聞くと、一同が静まり返った。
何故静まる。
『白色の魔法というのは、知っているが知らないと言うか』
『見たことがあるけどないって言ったらいいんですの?』
『正直言って、外に出る段階で白っていうのは有り得ねえよなー』
つまりどういう事だ。
『透明というのは特殊なので置いておくが、白というのは、何者の色でもあり、何者の色でもないのだ』
ガールが眉間に皺を寄せるようにして唸る。
『体を巡っている魔法にしない魔力は、全部白、なんですのよ』
成る程。ディアの魔力は魔法になる前のものだから白、という事か。
「それは、魔法にするために言葉を紡ぐと色が着くという事だろうか」
そこが疑問だ。白からどの段階で色が変わる。
『それは、試した事ねーから分からねえ。外に出すと色が着くのは確かだけどよー』
『外に出すというのはつまり魔法を行使するという事だからな。ただ外に出すだけ、という行為はした事がないしな』
これも、学長と検証する必要があるだろうか。誰かに試してもらうにせよ、許可が出ていない授業の合間に魔法行使と取られかねない魔力の放出は避けるべきだろう。注意だけで済めばいいが、折角の授業を中断させる結果に繋がり兼ねない。
そう頭の中で計画を立てている内に、先生から収集がかかった。実習授業の終了の合図である。
さて、ディアに魔法の言葉について聞かなくてはならないな。




