25 袋はしっかり持ってらっしゃる
遅くなり大変申し訳ありません。ぎりぎりです……。
アルside
驚くべき事になってしまった。確かに魔石が精霊石に似ているとは思ったが、まさかユグドラシルが出て来るとは思わなかった。一部、宗教上の神として崇める人間も居る程の多重の意味で大きな精霊の実に似ている、という学長の発言は、私の想像を遥かに上回っている。
あの後、学長室を出て食堂へ向かった。通常の食事では時間が不足する為、軽食を頼む。ディアは好き嫌いがなく、基本的に何でも喜んで食べる為、問題は、ないだろう。
「おやまあ。今日はちょっと遅いやねえ。ちゃんとお昼食べないのかい?」
いつもディアにデザートをくれる女性だった。彼女が居ない時は、一つしかないデザートはディアのものだ。喜んでくれるのだが、それと同時にほんの少し、申し訳なさそうな顔もしている。私は甘味に固執している訳ではないので、正直そんな顔をしなくて良いと思うのだが、どうやら、彼女にしてみれば、美味しい物――この場合は甘味だ――を毎回譲るというのは、ハードルの高いものであるようなのだ。それに気付いてからは、焼き菓子など、いくつか皿に乗っているものに関しては、必ず一つだけ食べて残りを渡すようにしている。
一つ摘むと、彼女の顔が綻ぶ。その後は安心したように私が差し出したデザートをそれは幸せそうに食べるのだから、全て差し出せば良い訳ではないのだと学んだ。共有する事が喜びなのだろう。美味しいね、と小首を傾げる様子がとても愛らしいと思う。
「今日は、少し用事がありまして」
「それで軽食つまむのかい。それだと夕食まで持たないんじゃないかい? これも持っていきな」
そう言って差し出されたのは、一つの袋だった。
「おばさん、これなんですか?」
すんすん、とディアの鼻が鳴る。袋に興味を示しているようだ。袋の中からは甘い香りが漂っている。
「あらあら。あたしの事はマーサさんってお呼びよ。袋を開けてごらん?」
職員の方はマーサさんと言うらしい。こちらに熱い視線を送ってくるディアへ、マーサさんから預かった袋を渡してやる。縛ってある紐をディアが引っ張り、袋が開くのをディアが待ちきれない様子で覗き込んだ。
「ディア、何が入っている?」
中身を覗いた瞬間に、声もなく感嘆したような表情で固まったディアに問いかける。ふと我に返ったように何度か瞬きをしたディアは、私の方を向いた。
「お兄ちゃん、クッキーみたいな、クッキーじゃないみたいな、食べ物!」
全く分からない。
どうやら、初めて見た食べ物らしい。実物を見ようと袋の中を覗き込むと、その中にあったのは、マカロンだった。
「お嬢ちゃん、それはマカロンっていう食べ物さ。壊れやすい食べ物だからね。零さないように気をつけて食べるんだよ」
これは、確かにディアが食べた事のないデザートだろう。そして、この甘い香りと愛らしささえ感じさせる丸いフォルムが、ディアの期待を膨らませているようだ。
「これ、もらって良いんですか?」
そう言いつつも、袋はしっかり持っている。気持ちの上では口に放り込みたいのだと目が語っている。それを見たマーサさんは、はっは、と豪快に笑って頷いた。
「持って行きなって言ったろう? 夕食分の腹さえ空かしておいてくれるなら、その中身はお嬢ちゃんのもんさ。二日位持つから考えて食べるんだよ。時間がなくなるからそろそろ行きな。また、デザート用意して待ってるよ」
そう言われ、ディアと私はマーサさんに感謝の意を伝えると、慌ててテーブルに座って軽食のサンドウィッチを食べた。休憩時間毎に食べては夕食をしっかり食べられないだろうと思い、袋に入っていた五つの内、二つをディアに私、自分も一つ手に取る。
残り二つは明日食べようと約束してディアに袋を預けた。
昼食後の授業は、実習授業だった。移動中にカーシーやクララ、ポーレットと合流し、実習場へ向かう。
今日は、自分の守護精の魔法上限回数を調べる実習だ。但し、一度の授業時間で全員調べる事は不可能である為、今日から実習授業は5回同じ内容となる。
授業は魔法上限回数を実際に魔法の行使によって測るチームと、それ以外のメンバーに分かれて行われ、チーム以外のメンバーは、測定を同じタイミングで行うチーム同士でレクリエーションを行うのだ。守護精も含めての交流会だ。魔法の行使は禁止。怪我の危険性が低いゲームであれば良く、内容は事前に先生に事前許可を取る必要がある。
交流という意図の為、チームは自由に組んで良い事になっていた。ただ、人数は五人と決められている。私とディアは、実質この実習を行う事が出来ないのだが、この事は今の所学長しか知らない為、チームの内の一人としてカウントされた。
私とディアの入ったチームは、カーシー、クララ、ポーレット、それから、ブライアンという男子生徒により構成されている。私達の交流内容は、会話、である。正直、守護精達の大きさも、性質も様々である為、鬼ごっこのようなゲームはあまり向いておらず、この内容で交流を図るチームが殆どだ。私達はシートを引いて、円になって座った。右回りに、私、ディア、カーシー、ブライアン、ポーレット、クララの順だ。少し広めに場所を取り、座る際に皆守護精達を精霊石から呼び出す。
「やっぱ、この中じゃー俺が司会進行役だよな。んじゃ」
「とりあえず、それぞれの守護精の紹介をしましょうか。名前と種族は最初の授業で紹介したから皆知っているけれど、性格や好みは知らないのだから」
仕切ろうとしたカーシーの進行を半ば無視するようにクララが進行を始めた。え、クララがすんの? え? と言っているカーシーには同情するが、クララを止めようとは思わない。残念だった、と目を向けると、カーシーは仕方ねえなあ、と諦めたように肩を竦めた。
「そうだね! じゃあじゃあ、カーシーの所からだね!」
ポーレットが楽しそうに左右に揺れながら、話を繋ぐ。何故かカーシーが最初だと断定するが、誰も反対意見はないらしい。カーシー自身も不満は無かったようで、ガールの紹介を始める為、口を開いた。
このメンバーで、一体どのような話をする事になるのだろうか。クララが進行を務めるのならば、学びも多く得られるだろう、と少しの期待をして耳を傾けた。




