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彼と、彼のお寝坊さん  作者: ともむら
28/45

24   学長がお待ちです

 気付けばもう6万字。1万文字が遠いと思っていたのはつい先日です。


 ディアside

 朝、目が覚めたら、お兄ちゃんにぎゅって抱き締められた。その後に聞いたのは、魔力を使いすぎると疲れてしまう、ということ。


「ただ集中させて分散させる訓練とは違い、魔石として外に出してしまう事で魔法を使ったのと同じような現象が起きているのではないかと思っている。ディアの体の魔力を消費してしまっているのではないか、という事だ。自分の魔力の底が分からない内に、魔力を使い過ぎないよう、気をつけて欲しい。昨日は、眠ったというより気絶したようだった。私は肝が冷えたよ」


 お兄ちゃんがほんの少しだけ、眉を吊り上げて怖い顔をして見せる。心配してくれたのが伝わってきて、全然怖くないのだけど。ちょっと、切ない気持ちになった。


「ごめんなさい」


 首にぎゅってしがみつく。ほっぺたとほっぺたをすりすり擦りつけた。


「魔力量の限界は、自分で分かるか?」


 お兄ちゃんがぎゅって抱き締めてくれる。頭を撫でてくれる手が、優しい。


「初めてで分からなかったけど、もう、大丈夫。分かるよ。もう、心配かけない」


 そう言うと、そうじゃないって言われた。


「無茶をして倒れたりしないなら、それで良い。私はディアが大切だ。心配は、させて欲しい」


 お兄ちゃんの言っている意味はよく分からなかったけど、大事にしてくれてるっていうのはすごく伝わってきたから、うんって頷いて応えた。


 結局、その日学長先生に呼ばれることもなく、問題なく1日を過ごした。

 そう言えば、昨日から今日にかけて、少しだけ、目線が高くなった。お兄ちゃんが気づいてるかは分からないけど、背が伸びてるみたい。まだほんの少ししか変わってないから、誰にも気づかれなかったけど、このまま、伸びてくれたらいいと思う。


 今、精霊の図鑑をたくさん読んでいってるけど、精霊が大きくなるっていう話は、今の所何処にも載ってない。今は風の精霊図鑑を読んでるけど、それにも載っていないみたい。精霊図鑑を一通り読み終わったら、次は大精霊の本を読もうって思ってる。大精霊だけは一種につき1冊の本があって、情報量が多い。長く存在している分、分かっていることも他の精霊より多いんだとか。

 ちょっと質問すると、司書のシルバーさんが読みたい本を探してくれるから、すごく、助かってる。お兄ちゃんは、魔法のことを調べてるから、あんまり進展はないみたい。魔法を専門に書いた本はたくさんあるけど、魔法と魔力の関係性だとか、発動の原理だとか、そういうものは推測の域を出ないものばかりで、しかも詳細に書かれたものが殆どないんだって。


 そうやって前と変わりなく授業と調べ物をして数日過ごしたある日、お兄ちゃんが先生に声を掛けられた。


「本日の昼食の時間、学長室へ向かいなさい。学長がお待ちです」


 学長先生の時間が、出来たみたい。何か、分かると、いいな。



「失礼致します」


 カー兄達の昼食の誘いを断って、お兄ちゃんと、学長室に来た。


「遅くなってごめんなさいね。ディアちゃんについての相談という事だけど、早速話して頂けるかしら」


 お兄ちゃんは、私の魔力に多く触れたことで一時的に魔力が見えるようになったことと、私の魔力から、精霊石と似た色合いの石、魔石について話をした。話の途中、魔力の訓練の所で感心したり、お兄ちゃんが魔力を見た時のことを聞いて驚いたりしたけど、学長は1回も話を止めることはなかった。

 説明が一通り終わると、お兄ちゃんが、魔石を見せるように、私に言う。


「呼び名が無いのも不便なので、名義上、私達は魔石と呼んでいます。今、ディアが取り出しているのが、実際にディアの魔力から発生した魔石です。何度か実験しましたが、形や大きさに違いはあれど、発生条件は同じでした」


 数日の間に増えた分を含めて、全部で5つの魔石を袋から出して自分の手に広げた。


「ただ、魔法と近しい原理なのか、体の外に出てしまう事でディアは魔石を作った後、体内の魔力がほぼ枯渇して疲れてしまいます。毎日作らせるのはやめ、また、一番大きなものを作った時より少ない魔力で作っています。いくつかあるので、もし必要ならばサンプルとしていくつかお渡ししようと思いまして」


 そう。お兄ちゃんと私は、魔石のことを調べるのに、もしかすると魔石がいくつか必要かも知れないってことを考えて、学長に呼ばれるまでにいくつか作った。お兄ちゃんの言いつけは守って、気絶しないよう、あまりたくさん魔力を集めずに。


「学長は、何か知っていらっしゃいますか?」


 緊張する。学長先生が何も知らなかったら、どうして良いか分からない所だ。どうだなんだろう。学長先生は、何か、知ってる?


「正直言って、殆ど分からないと言っていいでしょうね。」


 そう聞いて、お兄ちゃんの肩が少し下がるのが見えた。


「魔力そのものが人に影響を与える、というのは、今まで試された事がないでしょうから、難しいでしょうね。魔法行使以外で魔力を使おうという発想が、私達にはそもそもないのだから。ただ、魔法としてなら、索敵関係の魔法に、近いものがあります。ただし、あれは精霊をフィルターにして覗いているような状態です。全く同じとは言えませんが、一度それについて深く調べてみるのが良いでしょう」


 魔法! 魔力そのものが、魔法のような現象を引き起こしているってこと?


「それから、その貴方達の言う魔石ですが、以前、似たようなものを、1度だけ見た事があります」


 え?


「「本当ですか?!」」


 思わず、お兄ちゃんと私が前のめりになる。息もぴったりなのに驚いて顔を見合わせた。その様子を見てくすくすと笑う学長先生が、話を続ける。


「普通の精霊がそれを作り出すというのは、聞いた事がありませんが。大樹の精霊、ユグドラシル様が精霊石のようなものを作り出したのを、見た事があります」


 大樹の精霊、ゆぐどらしる?


「ユグドラシル、ですか」

「ええ、そうです。世界樹ともされるユグドラシル様のつける実は、魔力の塊であり、生命の石でもあります。あの石からスプライトが生まれるとも言われています。人間が目にかかる事は、滅多と無いでしょうけどね」


 ユグドラシル様は、とてつもない魔力を持っているらしい。命の木と呼ばれることもあるそうで、実は精霊石のようにきらきらと輝いているんだとか。


「それは圧倒される美しさです。ユグドラシル様の宿る樹そのものも巨大ですが、ユグドラシル様本人も、とても大きく、私達では比較にならない魔力を持っていらっしゃる」

「その実に、似ていると、学長はそう仰るのですか」


 私は、そんなにすごい精霊様でもない。最近精霊石からやっと出て来たばかりのヒヨっ子。


「とても信じられない話ですが、ユグドラシル様のつける実の輝きは、ユグドラシル様の魔力の輝きにとてもよく似ているのです。その点も、類似しています。これは、私だけでは分かりかねます。申し訳ありませんが、数日猶予を下さい。もっと詳しい方に相談しなくては」


 は、話が大きくなってきたような。私とお兄ちゃんは、一体どうなってしまうのでしょうか。

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