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彼と、彼のお寝坊さん  作者: ともむら
26/45

22   ぴゃっ! って跳ねる

 今回はディアちゃんのターン。


 ディアside

 図書室で本を借りて、お兄ちゃんの言うお花畑に連れて行ってもらった。本を借りる時、汚さないように気をつけて下さいって司書さんに言われたから、この本は絶対に守り抜こうと決めて本をぎゅっと抱きしめた。


 張り切って向かった先――と言っても、お兄ちゃんに抱えられているので自力で向かった訳ではないけど――にあったのは、精霊の箱庭という名前の場所。実習場よりはかなり小さい、いつも授業を受けている教室2つ分くらいの広さに、緑が広がっていた。


「うわあああ! すごいね、お兄ちゃん。とってもきれいだね」


 それ以外の言葉が見つからなかった。本の中にある緑よりも、ずっと生き生きとした緑が広がっていた。赤や黄、白と様々な色のお花もぶわっと咲いている。お兄ちゃんに降ろしてもらって箱庭のすぐそばのベンチに座る。ここは公園みたいなものなんだろうか。目をいっぱいに見開いてその様子を眺めていると、目の端に何かが動くのが映った。


「ん?」


 不思議に思って動いたものを目で追うと、そこに居たのは、私よりずっと小さな女の子。


「その子達は、スプライトだ。この箱庭に住んでいる」


 お兄ちゃんによれば、ここは学校内で唯一自然発生した精霊が存在する場所らしい。よくよく目を凝らしてみると、1人だけじゃない。何人か見える。その内の1番近くにいた1人の女の子と目が合う。


「あ」


 そう口に出した時には、ぴゃあーって草の合間に逃げ隠れてしまった。


「図鑑でスプライトの事は調べたか?」


 お兄ちゃんにそう言われて思い出す。スプライトさんは、植物の精霊で、とても小さいこと。それから、滅多に人の前に姿を現さない恥ずかしがり屋さんだっていうこと。


「本当に恥ずかしがり屋さん、なんだあ」


 目が合うまでは気にせずに箱庭の中を動き回っているのに、目が合った瞬間に、ぴょん、と跳ねるように驚いて瞬く間に隠れてしまう。何だかとっても可愛らしい。


「彼女達がこの箱庭を育んでいるそうだ。何故ここに彼女達が居るのか、というのは残念ながら知らないのだが、私がルイーデに入学するよりずっと前から彼女達はここにいるらしい。ここは危険が限りなく少ない為か、私達の前にも現れるのだが、目が合うと恥ずかしいらしく、いつもあのように隠れる」


 ちなみに、普通に外でスプライトさんに出会うことは滅多にないんだって。目が合うまで目の前で動き回るここのスプライトが特別なんだとか。

 そこでふと、当初の目的を思い出す。お花、見に来たんだった!


「綺麗なお花。スプライトさんが大事にしてるお陰なんだね。小さいのに、すごいな」


 あんまり生きてるお花を見たことはないけど、葉っぱもお花もすごくつやつやしてる。きっと、スプライトさんがお花1つ1つを大事にしてるからなんだと思うと、本当にすごいと思う。

 尊敬の眼差しで箱庭を眺めながら呟くと、その声が聞こえたらしい通りすがりのスプライトさんが、目を合わせないまま少し胸を張ったように見えた。やっぱり、スプライトさん可愛い。

 じーっとただひたすら箱庭を見ていると少しずつ周りが暗くなってきた。そこでやっと思い出す。大事に抱えてる図鑑のこと。


「うっ、暗くて図鑑が読みにくい」


 慌てて開いてみたけど、ちょっと読みづらい。わたわたしていると、お兄ちゃんが笑いながら私の頭を撫でた。


「図鑑は部屋に帰ってから読もう」


 そう言われて、頷く。本当は図鑑と見比べながらお花を見るつもりだったのに、すっかりお花とスプライトさんに骨抜きにされてしまった。


「お兄ちゃん、ありがとう。素敵な所に連れてきてくれて」


 そう言って、隣に腰掛けていたお兄ちゃんに横から抱きつくと、優しく抱き返してくれる。


「また、箱庭へ来よう」


 我が儘かなって思って口に出せなかった言葉を、お兄ちゃんが言ってくれた。嬉しくなって、ぐりぐりと頭をお兄ちゃんのお腹に擦り付ける。


「さあ、今日は部屋へ帰ろう」


 お兄ちゃんが、私を抱え上げながらベンチから立ち上がる。くるっと反対を向いてそのままその場を立ち去ろうとするお兄ちゃんに、ちょっと待ってって言って止まってもらった。


「お花さん、スプラウトさん、またね」


 恥ずかしがり屋さんで、振り返してくれないだろうな、とは思ったけど、手を振る。すぐ傍にいたスプライトさんはぴゃって跳ねてお花の影に隠れちゃったけど、2,3秒後に思い直したみたいに、2人が草の影から出て来る。私の方はあんまり見ないようにして、小さい手で3回、手を振ってくれた。

 うわあ! と嬉しくなる。でも、驚かせちゃうから声は大きな声は出しちゃいけない。

 お兄ちゃんは、私が嬉しそうにしてたのに気付いたみたいで、どうした? って聞いてきたけど、スプライトさんが手を振ってくれたんだよって自慢したら、そうかって1回笑って、そのままお部屋に帰った。


「へぇ? 今日見かけないと思ったら箱庭行ってたのかー。ふーん?」


 お部屋に帰った後、夢中になって植物図鑑を読んでたらあっという間に夜ご飯の時間になった。それで、夕飯のお誘いに来てくれたカー兄に箱庭に連れて行ってもらったと話すと、お兄ちゃんに向けてにまにまと笑ってる。今現在、進行形で。


「アルの休日サービスするパパっぷりにカーシーさんビックリ! 女の子達にデートのお誘いされても悪い、とか断るとか言う返事しかしない男がそんな可愛い所になー」


 現在進行形で、にまにましてる。何ていうか、ちょっと、悪い顔。


「箱庭、きれーだよねー! 皆勉強か実習場で守護精と過ごすかとかで、意外と人いないけど、私もあそこ好きだなー」


 ポーお姉ちゃんだ。カー兄の後ろからにょきって現れて、カー兄を驚かせてる。その後ろには、クララさん。へへ、いつもと一緒、お兄ちゃんとだけのご飯も美味しいけど、皆と一緒に食べるご飯もすごく美味しいよね!


「うお、ビックリした。ポーレット、変な登場の仕方すんなよなー」

「箱庭、私も綺麗な所だと思うわ。ディアさん、スプライト達は見たかしら?」


 カー兄がまた驚いてる。なんでか、うお! じゃなくてひっ! だったけど、その違いは何だろう。


「見たよ! 小さくて、恥ずかしがり屋さんで、すごく可愛かった!」

「だよねだよねー。隠れてないのに、目が合うと飛び上がるの、凄く可愛い。しばらくしたらひょっこり出て来るんだよねー」


 ポーお姉ちゃんもスプライトさんが好きみたい。仲間だ。


「ではディアさん、スプライトとはお喋りしたかしら?」


 ほよ? お喋り、ですか。


「えっと、隠れちゃうからお話は出来なかったけど、お花を褒めたらちょっと嬉しそうにしてたよ」


 その姿が、とっても可愛かったから覚えてる。そうだろー! って言うみたいに腰に手を当てて胸を張ってる姿が忘れられない。


「そうなのよね。会話は成り立たないのだけど、反応が時々返ってくるのよね」


 な、仲間!! クララさんも、可愛いスプライトさん達が好きみたいで、嬉しい。


「え、何それ! 初めて聞いた。ディアちゃん、今度3人で箱庭見に行こうよ!」


 ポーお姉ちゃんは、初耳だったみたいで、クララさんに話を聞いてたけど、口で説明するものではないと一蹴されてた。3人って、多分ポーお姉ちゃんと、クララさんと、私、だよね?


「ポーお姉ちゃん、お兄ちゃんが一緒に行ってくれないと、私行けないよ?」


 そう言ったら、はっ! って顔をしてお兄ちゃんの方を向いた。お兄ちゃんとクララさんが気づかなかったのか、みたいな顔をしてるのを見て、すごく気まずそうにしてる。


「じゃ、じゃあ、4人で行こう! 何か軽食でも持ってさ!」


 話はそうやって盛り上がって、じゃあ来週にでもってことになったんだけど、うーん、何か忘れているような?


「なあ、俺は?」


 あ! カー兄!!

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