21 そのまま顔に触れて欲しい
なんだかサブタイトルがあれだなって思いましたが、良いか、と開き直ってそのままです。
アルside
折角友人が出来たというのに二人で食事したいと言ったディアに、正直喜びを感じたが、それと同時に人と付き合うのに疲れているのだろうか、という心配も感じながら食事を行う事になった。
彼女に特に深い理由はなかったと思うし、もしかすると私を気遣って手間をかけさせたくない、というものだったのかもしれないが、考えれば考える程深みに嵌りそうなので思考を中断させた。
幸せそうな顔で食事をするディアに癒され、どことなくこれからの事を考えて緊張していた心に少しの余裕が出来た気がした。これから自室で行うのは昨夜自分の身に起きた現象と、その証明だ。どちらかと言うと頑張るのはディアであるのだから、私が緊張しても仕方がない。もう少しどんと構えておけば良い、と思い直しながら自室の扉を開けた。
「ではディア、いつものように魔力操作の訓練を始めて欲しい」
私がそう言うと、椅子に降ろしたディアが、目をきらきらをさせて張り切っている。
「うんっ! いっぱい魔力集めるね!!」
少し張り切りすぎているような気もするが、問題はないと思いたい。
手順はいつもと同じだった。目を瞑り、集中して少しすると目を開ける。この時点で、私に魔力は見えていない。それからまた少し経つと、満足気に顔を上げ、ディアが私の方を見上げた。
「魔力、集まったよ? お兄ちゃん、魔力見える?」
そう言われ彼女の手を見つめるが、昨日のような白い靄は全く見えない。魔力が凝縮されたから人間の私でも見えるようになった、という事ではないらしい。では、次の段階に移行する事とする。
「いや、見えないな。ディア、魔力を集めたままの状態で、私の顔に触れて貰えるか」
ディアの頭がコトンと傾く。そ、それはそうだろうな。私だって急に顔に触れてくれだなどと言ったりはしない。普通は。
「分かった?」
ディアが首を傾げたまま何故か上手い事頷く。語尾にも疑問符がついており、全く意味が分かっていないながらも、私が言うならばと、跪いた私の顔に手を伸ばした。ぴた、と昨夜と同じように両手で私の両頬に触れる。小さな手では覆うという程までは行かないが、それに近い様子だ。
「有難う、ディア。もう手を離して良い。もう一度魔力が集中している所を見せてくれるか?」
そう言うと、素直に両手を離して、右手の人差し指を見せてくれる。白い靄だ。心なしか、昨日よりも量が多いように見える。ディアが張り切って集めた結果だろうか。
「ディアは、魔法を行使したのではなく、魔力を集めただけ、そうだったな?」
これは確認だ。私に魔力が見える理由を知る為の。
「そうだよ。魔力を使って魔法を行使する方法を知らないから、私がしたのは、私の中にある魔力を集めることだけ」
この魔力が見えるという現象は、彼女の魔力が私の顔に流れた時に起こる一時的なものであるらしい。顔以外の部分を触れられても見えるようになるかどうかはまだ分からない。そして、すぐに見えなくなる事はないが、少なくとも、半日は持たない。そこまで分かった所で、いくつか疑問が沸く。
これは、魔力というものが引き起こす現象なのか。それともディアの能力によるものなのか。集められた魔力により引き起こされる現象ならば、ディアではない他の守護精、若しくは精霊にも出来る事である筈だ。そうでなければ、彼女の魔力が特殊であり、一種の魔法のような能力を持つという事になる。
これは、私だけでは答えが出せないな。
「ディア、有難う。もう魔力を分散させて良い……ん?」
そう言いながらディアの指を改めて見ると、先程と何か差異を感じた。何が、違うかと目を凝らせば、彼女の指に集まった魔力という白い靄が、水が滴るように、重力に従うようにしてぽたりと、一雫落ちる様子が見えた。ディアの指が纏っていた筈の白い靄は、先程よりかなり、具体的に言うとほぼ見えなくなっている。
「あ」
ディアもその様子を見ていたようで、不思議そうに自分の指を見つめている。それから、一雫、落ちた所へと視線が下りる。
「あ」
今度はディアと同じように視線を下ろした私が発した音だった。一雫落ちたであろう場所に、小さなものが光っている。
思わず、顔を上げてディアを見た。同じような反応をしたらしいディアも、私を見ている。
「お兄ちゃん、まりょくがおちちゃった」
ディアにもよく分かっていないのだろう。いつもより少し辿たどしい口調で見た事をそのまま口にしている。
「ああ、私も見た。これは、物質になっているのか?」
そう言いながら、こじんまりと輝いているものへ手を伸ばす。かつん、と。爪が輝いているものへと触れて音を立てた。もう少し手を伸ばすと、それは、直径5mm程の、雫型の形を持っていた。
「それ、お兄ちゃんさわれるの? え、まりょく、なのに?」
ディアの頭の中には疑問符が大量発生しているようだが、私も人の事を言う事が出来ない。答えを持っていないのだ。何より、輝きが眩しくて直に姿を見る事が出来ない今、どのようなものなのかも手の感触でしか探る事が出来ない。
「触れている、な。光が眩しくて見る事が出来ないが、どうやら、落ちる寸前に見たような雫型の固形物らしい。ディアも触ってみるか?」
そう言うと、ぱちぱちと瞬きをしながらも、うん、と頷いたので手のひらを上にさせ、その上にそっとソレを置いてやった。
「ほんとだ。しずくのかたち」
言いながら、ディアは不思議そうな顔をしている。魔力から生まれたであろうソレは、白く輝いている事から、そのものが魔力を持っているだろう事は分かる。ただ、分かっているのはそれだけだ。
「時間が経てば、私の魔力が見える目のように無くなるのだろうか」
そう呟くも、答えは見つからない。ディアにも今まで経験がなかったようで、ずっと頭が傾いている。
「まあ、良いか。これは、何かに入れておこう。ディアが首から下げておくか? 香り袋のようなものに入れておけばもって置けるだろう」
悩んでも仕方がないと思い、そう提案してやると、ディアが、きょとんとした顔のまま、うん、と頷いた。たまたま、最近流行っているらしい香り袋の首飾りを母が手紙に添えて贈ってくれたのを思い出し、それに入れてやる。本当は、良い人にあげなさい、みたいな事が書いてあったのだが、生憎そんな人はいない。優しい花の香りだったので、ディアに似合っていると思い、そのままにしておく。
「良い香り! これはお花の匂い? 何ていうお花なんだろう」
ディアが喜んでいるので、それで良いと思う。花の名前を知らなかったので、残念ながらその問いには答えられなかった。次回母へ出す手紙で聞こうと心に決める。
疑問を解決する為に行った検証だったのだが、疑問を増やして終わってしまった。私だけでは解決しそうになかった為、明日にでも先生方に聞こうと決め、気持ちを切り替える事にする。
「ディア、学校の敷地内でよければ、今から散歩しないか。草花が好きならば、沢山生えている所を知っている。私の頼みを聞いてくれたお礼だ」
私がそう言うと、ディアの目の輝きが増す。今日は外出届けも出していない為、学校外に出る事は出来ないが、敷地内ならば開放されている場所に限り、自由に行動出来る。折角外に出たのだ。図書室に通うのではなく、外の景色も見せてやりたいと思った。
「行く! お兄ちゃん、小さいお花の図鑑、ないかな。お花の名前たくさん知りたい!」
ディアの一言により、まずは図書室へ向かうのだった。息抜きのつもりだったんだが、ディアが喜ぶなら、まあ、良いか。




