20 この白いもやはですね
もしかするとどなたかお気づきかも知れませんが、前最新話を次話ってタイトルで投稿してしまうというミスをやらかしました。すぐに気づいて慌てて修正しましたが、いやはやお恥ずかしい。
ディアside
最近は、寝る前に必ず魔力に意識を集中する訓練をしてる。目を瞑って瞑想して、体全体を巡ってる魔力に集中する。それが出来たら、今度は目を開けて、確認しながらそれを少しずつ人差し指に集める。ここまではいつもと一緒だったんだけど、今日は、少しだけ違った。
人差し指に魔力が集まったのを確認した時、お兄ちゃんがおでこに手を当てて苦しそうな顔をしてたのを見てしまった。その瞬間、私の頭の中から魔力の訓練中っていうのは飛んでしまって、代わりにあるのはお兄ちゃんの事だけ。
「お兄ちゃん? 頭、痛い?」
すぐに近寄って、お兄ちゃんのほっぺたに手を添えて覗き込む。お兄ちゃんが座っていたから、手が届く。少し驚いたように瞑っていた目を見開くと、いいやって首を横に振った。
「頭痛はない。心配を掛けてすまなかった。魔力操作の練習はもう良いの……」
ぴたってお兄ちゃんが固まる。ぱちぱちと瞬きした後に、私の手をほっぺたからそっと外して私の方をまじまじと見た。
「ディア、その体から出ている白い靄のようなものは何だ」
目線は大体私の右手の人差し指の方向。お兄ちゃんの視線を辿って自分の人差し指を見ると、魔力を集めた状態が、目に映った。さっき集め切った量より、少なくなっている気もする。それ以外は別に何もない、と思ってふと、疑問が湧いた。
「え、お兄ちゃん、白い、もや?」
そうだ。お兄ちゃんは人間で、魔力が見えないはず。それなのに、今白いもやって言った。確かに、私は聞いた。
「そう、だ。白い靄。これは、何だ?」
お兄ちゃんも、かなり動揺しているみたい。すぐに答えを導き出せるくらいに頭が良いお兄ちゃんが、冷静に考えて今の状態を理解できない、なんてことはないはずだもん。
「お兄ちゃん、白い、もやが見えるんだね? そのまま、見てて」
人差し指に残っている魔力を、集中して小指に移動させる。
「小指に、移動した。ディア、まさか」
ここでお兄ちゃんは理解した、らしい。
「お兄ちゃん、白いもやは、私の魔力、だよ」
そう言うと、お兄ちゃん私の小指を撫でた。触れてみようとしたのかも知れない。それか、別の理由があるかもしれない。私に分かったのは、お兄ちゃんには触れられなかったってことだけ。
「私は、魔力が見えるようになったのか? いや、そんな急に見えるようになるものなのだろうか。ディアの魔力が一箇所に凝縮された結果見えるようになった? 違うな。それならばもっと前に見えておかしくない」
お兄ちゃんは動揺しすぎて普段の静かさが全くなくなってた。考えてることが全部口から出てきちゃってるけど、大丈夫かな。
「お兄ちゃん? おにーちゃーん?」
私が声をかけると、はっ! って顔をした目が私に焦点を合わせるのが分かった。真面目なだけに、疑問が沸くと止まらないみたい。
「今日はもうねよ。私、もう眠たいよ」
そう言うと、苦笑いをしてそうだなって返ってきた。どれだけすごいことなのかっていうのは正直分からないけど、魔力が見えても、見えるだけだろうから、あんまり悩まなくても良いんじゃないかなって私は思う。見えてる私がなんともないんだからきっとお兄ちゃんも大丈夫なはず。そう思って、思い切って眠たいフリをしたけど、欠伸したら、本当に瞼が重たくなってきた。体の力が抜けてきて、自分の体が支えられない。
あ、倒れる。
そう思ったとき、お兄ちゃんが私の体を支えてくれたのを感じた。
「ごめ、おにーちゃ、おやすみなさ」
少し笑ったような声でお兄ちゃんのお休みが降ってきたのを聞いた私は、そのまますぐに寝てしまった。
朝目が覚めたら、私はちゃんと横になってて、しかもお兄ちゃんに抱きついてた。そう言えば、おやすみなさいって言ったときに、お兄ちゃんのお洋服を掴んだような気もする。お兄ちゃんを起こさないとって思ったけど、良く考えたら今日は学校がお休みの日。今起こす必要はないかもって思った私は、起こしかけていた自分の体をそのまま横たえて、お兄ちゃんにくっついて目を瞑った。
ふへへ。たまにはこういうのんびりした日があっても、良いよね。おやすみなさい。
あ、ぃあ、ディア。
次に意識が浮上してきたのは、お兄ちゃんに呼ばれたときだった。重たい瞼を上げると、お兄ちゃんが困ったように私を見てる。私が掴んでいたから、無理に引き剥がせなかったみたい。ごめんね、お兄ちゃん。
「ディア、昼食が終わってから、もし良ければ寝る前じゃなく、魔力操作の訓練をもう一度やってくれないか?」
そう言われてちょっと考える。魔力に意識を集中して思ったように動かすっていうのは、結構疲れる。でも、ご飯の後でなら、それもお兄ちゃんのお願いなら、喜んでやるよって思う。お願いされるなんて、くすぐったい。お兄ちゃんに頼られてるみたいな気がして嬉しい。
「もちろん良いよ、お兄ちゃん。それよりも、もうお昼ご飯の時間なの? いっぱい寝ちゃった」
ぷあって小さく欠伸が出た。そのすぐ後にお腹がくぅくぅ鳴り始める。
「身だしなみを整えたら、すぐに昼食へ行こうな。部屋にいるかどうかは分からないが、誰か誘ってみるか?」
そう聞かれたけど、私は首を横に振る。
「ううん。お兄ちゃんと二人でご飯食べるの楽しみ!」
そう言ったら、嬉しいけど、喜んじゃいけない、みたいな不思議な顔をしたお兄ちゃんが私の頭を撫でた。あれ、何か変なこと言った?
その日のお昼ご飯も、すごくおいしかった。本の写真で見たことあるラザニアみたいな食べ物だった。ひき肉の入ったソースを平べったい生地の間に挟んだお料理。スープとセットになっていて、本当においしかった。温かいご飯が食べられるって本当幸せ。
今日は、口の周りをベタベタにしないで食べることが出来たのも嬉しかった。スプーンじゃなくて、フォークで落とさないように食べるのって難しい。最初恐る恐る口に運んでたら、お兄ちゃんがこっそり笑ってた。一度に乗せる量が多すぎるからだって教えてくれたから、その後はとっても上手に出来たと思う。さすがお兄ちゃん。勉強になります。
お腹いっぱいでほくほくした気持ちのまま、お兄ちゃんに抱っこしてもらって廊下を進む。
ご飯いっぱい食べたし、気合入れてお兄ちゃんのために魔力集めるんだ! って思いながら。




