18 それでは皆さんご一緒に
遅くなり、申し訳ありません。ディアちゃんがうちに来ないかなって思っている今日このごろ。
ディアside
私は、ご飯の用意が終わるまで、お兄ちゃんのくっつき虫になった。おともあち、だけでも恥ずかしいのに、なりひゃいでふって、何なんだ、私。珍しくカー兄は笑わなかったし、お兄ちゃんとクララさんは噛んだことには全く触れずに少しクララさんのお友達と会うまでの時間をくれた。ぐりぐりとお兄ちゃんに頭を擦りつけると、宥めるみたいに背中をぽんぽんと叩かれる。規則的なその調子に、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。
ご飯の注文は、2種類から選ぶだけだし、どっちを選んでも美味しいから、お兄ちゃんが適当に選ぶ。今日はA定食みたい。背中の後ろ側から、おや、今日はお嬢さんは眠っちまったのかい? って聞いたことのある声が聞こえた。前、私にプリンをくれた人。お兄ちゃんが、いいえ、起きていますよって答えたら、じゃあ今日もデザートあげようねえって言う声が聞こえたすぐ後、お盆の上に、ことりとお皿を乗せる音がした。
その後すぐ、お兄ちゃんがありがとうございますって言ったのが聞こえて、慌ててお兄ちゃんの胸をぽんぽん叩く。少し体を離して私の顔を少し見てから、くるんって私の体を反対向きに抱えてくれた。
「おばちゃん、ありがと」
ちょっと声が小さくなっちゃったけど、おばちゃんがいいのよおって笑ってくれたから、聞こえたみたいで良かった。前のプリン美味しかったですって言ったら、嬉しいねえ。そりゃあ私が作ったんだよって教えてくれた。デザート改め、おばちゃんお手製のデザートが、お盆の上で輝いてる。今から食べるのが楽しみになって、きらきらしてるゼリーをじっと見つめた。
「ディア、そんなに下ばかり見ていると落ちてしまうぞ」
テーブルにお盆に置く時にお兄ちゃんにそう言われるまで、ずっと見てたのは、ゼリーが美味しそうなのが原因です。へらって笑ってお兄ちゃんの方を見たら、ご飯全部食べたらゼリー食べようなって頭を撫でられた。食べるよ、ご飯も美味しそう!
お兄ちゃんに椅子に座らせてもらって、息を吸う。
「いただきm…‥ん?」
何か、忘れているような。そう思って周りを見たら、クララさんとお話したことのない女の人が、目の前で苦笑いしてた。一拍おいて、カー兄がはえーよって笑う声が右隣から聞こえる。
あ。ゼリーに夢中で忘れてた。
「ごめんなさい! えっと、ディアです、よろしくお願いします!」
慌ててお辞儀をすると、勢いをつけすぎたお盆の手前のテーブルの部分でおでこを強く打った。
気のせいじゃなかったら、ゴッ! って感じの音がしたよ、今。
「ディア?!」
お兄ちゃんの慌てた声が隣から聞こえるけど、それどころじゃない。痛みに耐えるので精一杯な私は、顔を上げることもできなかった。
「ディア、なんでそうなった」
カー兄の声が聞こえたけど、笑いと、少しの心配がごちゃまぜになったみたいなその微妙な調子に、言葉を返すだけの余裕もない。
うーうー唸ってると、お兄ちゃんが隣からひょいって私を抱え上げた。向かい合わせになるように、膝の上に乗せられる。
「痛かったな…血は、出ていないか?」
首を横に振る。その瞬間、お兄ちゃんがほっと吐き出した息が私の頭に降ってきた。
「アルヴィン、これ使って」
聞いたことのない女の人の声が聞こえて、お兄ちゃんのありがとうっていう声がした後、下の方から、おでこに冷たいものがあてられた。
「ディアちゃん、それでおでこ冷やして。あんまり腫れなかったら良いんだけど」
気持ちが良い。この冷たいものは、女の人が用意してくれたものらしい。ずきずきと響くみたいな痛みが少し薄れて、落ち着いてくる。冷たいものを支えてくれてたお兄ちゃんの手からそれを受け取って、自分で支えて声のする方へ顔を向けた。
「ありがとうございます。冷たくて、気持ちいいです」
「良かったー! 凄い痛そうな音したもんね。その即席氷嚢、温くなったら新しい氷貰おうね」
そう言われて頷いたら、女の人がはっ!! て顔をした。というか、はっ!! って言った。
「自己紹介もしないでごめんね! 私は、ポーレットって言います。クララちゃんのお友達で、ディアちゃんとお友達になりたいなって、思ってます。よろしくね」
くしゃって笑うポーレットさんは、なんだかほっとする人だと思った。座ってるお兄ちゃんより少し高いくらいの、小さなお姉さん。
「ポーレットさん、よろしくおねg」
「あ、そのポーレットさんって、ちょっとこそばゆいから、ポーちゃんとか、もっと、気軽に呼んで欲しいな」
ほっとするような雰囲気の人だけど、押しが、強いかも知れない。
「えっと、ポーお姉ちゃん?」
「あ、良い! お姉ちゃんだなんて、凄い嬉しいな! 皆小さいからって誰も読んでくれないんだよね」
ポーお姉ちゃんが、すごく喜んでる。
「ディア、額はどうだ? まだ痛むか?」
自己紹介が一段落した所で、お兄ちゃんが聞いてきた。
「うん、もう平気。心配かけてごめんなさい」
そう言うと、おでこから氷嚢を外して、お兄ちゃんにおでこを見せてみる。
「赤くなって少し腫れているな。食事が終わったら、しばらく氷嚢を当てておいた方がいいかも知れないは」
そっと触れるか触れないかくらいに優しく私のおでこを一撫でして、元の席へと私を戻してくれた。
「えっと、ポーお姉ちゃん?」
「なあに、ディアちゃん」
嬉しそうににこにこと笑い返してくれる。
「私達は、ご飯の前に、することが、あります」
「え?」
今度はきょとんとした顔で私を見た。本当に、ころころと表情が変わる。とっても素直な人みたい。
「大地の恵みと命に感謝して言う言葉です。それでは皆さんご一緒にって言ったら、いただきますって言ってください」
ポーお姉ちゃんが、ぱちぱちと瞬きをした後に、ほへー! って、よくわからない返事をした。これは、ここで、そういう習慣がないってことを知って、お兄ちゃん達に説明した時から、それは良いって言って始まった私達だけの決まり。
「今日は、私が音頭を取る番ね。それでは皆さんご一緒に」
今日はクララさんが音頭の番。ポーお姉ちゃんの不思議な返事は、分かったよってことだったらしい。お友達のクララさんが進めたんだから、そういうことなんだと思う、多分。
「「「「「いただきます」」」」」
ポーお姉ちゃんも言ってくれたのが、すごく嬉しい。手を合わせるのは宗教的なものだって何かの本に書いてあったから、それはしてない。あそこでの神様は、ここにいないんじゃないかなって、何となく、本当に何となく、思ったから。
おばちゃんお手製の梨みたいなしゃきしゃきした食感の果物が入ったゼリーは、ぷるんぷるんですごく美味しかった。ほっぺた落ちるかと思って、手で自分のほっぺたを触って確認したくらい。
カー兄は笑ってたけど、気にしない。私の目の前に、同じような行動を取ってるポーお姉ちゃんが居たから、きっと、私は間違ってないんだ。




