17 貸出をお願いします
生徒と同じ割合で食堂のおばちゃんやらキャラが増えている気がします。生徒達は一体どれだけ話に関わるのか……。
アルsideです。
柄にもなく焦った。ディアは、幼い子供というには大人しく、時折見せる年相応なあどけない表情を見ると、つい、愛しくて笑ってしまう。驚いて飛び上がった事を笑ったと不貞腐れるとは思わなかったが、一方で、その子供らしさに安堵もする。完全に機嫌を損ねる前に気付けて本当に良かった。
笑ったお返しとばかりに私の腕をぎゅうぎゅう抱き締められたが、愛らしいだけだと言えば、今度こそ暫く機嫌を悪くしてしまうかもしれないので絶対に言わないが。
私が本を探す間、彼女は何かをノートに書き込んでいた。あまりにも真剣だったので、改めて何か聞いてみれば、昔自分が覚えた言葉の音なのだと教えてくれた。全く同じ形の文字は、この国の言語には無かった為、紛らわしいという事もないだろうと思う。以前は文字にも様々な種類があったという事を聞き驚いたが、ならば新しく覚えるのは逆に楽かも知れないと納得した。
早速探し出してきた文字表を開き、音を教える。ディアはそれを聞きながら、先程書いていた文字の隣に書いていった。全て書き終わった所で、ディアがこちらを向く。
「お兄ちゃん、文章の終わりにつける記号とか、会話文を囲むような記号はある?」
そう言われて、今度は彼女用に用意した精霊図鑑を開いた。説明文の途中にある句読点を指さしながら教える。彼女の書いた文字と記号の隣が全て埋まると、満足げに頷きながら、ありがとうと言ってくれた。ディアの笑顔が眩しい。
「自分で読んでみるね! どんな精霊さんがいるのかなあ」
最初は私も一緒に読もうと思っていたのだが、ディアは慣れた様子で文字表を図鑑の隣に並べると、一人で読み始めてしまった。
「分からない言葉があれば聞いてくれ」
邪魔するのも悪いと思い、そう言って自分も精霊の魔法について記述された本を読む事にする。
時々ちらちらとディアの様子を伺ってみるが、集中していて本から顔を上げない。物心付いた頃から本を読んでいた事を考えれば、自然な姿なのかも知れないが、頼られる事がないのを少し寂しく思う。
気もそぞろで本を読んだが、結局あまり読み進める事が出来なかった。夕食の時間を知らせるベルが鳴ったため、ディアに声を掛ける事にする。
「ディア、夕食の時間だ。読書の時間はもう終わりだ」
ディアからの反応がない。あまりに集中していて私の声が聞こえていないようだ。それだけ真剣に読んでいるらしく、よく見るとあまり瞬きもしていない。もう一度、今度は頭を撫でながら言うと、びくっと彼女の肩が跳ねた。本日二回目のその様子に、少し構えていた私は、何とか笑わずにその様子を見守る事が出来た。
「ディア、夕食へ行こう。その本は借りられるから、貸出書を書いていこうか」
そういうと、驚いた事に恥ずかしそうな様子を見せながらも、図鑑を部屋へ持ち帰れると聞き、嬉しそうに頷いた。
「この本とこの本の貸出許可を頂きたいのですが」
入口付近で待機している司書の方に声を掛ける。
「はい、少々お待ち下さいませ」
この図書室の司書は二人居る。今日の司書は男性だった。壮年の、オールバックの紳士、シルバーさんである。
「お待たせ致しました。貸出希望は貴方ですか? それとも、お隣にいるお嬢さん?」
「それぞれ一冊ずつ、お願い致します」
その後、ディアが精霊だという事にシルバーさんが少し驚いた様子を見せたが、しっかりディア名義で貸出許可を出してくれた。嬉しそうに自分の胴体くらいある本を抱えているディアをみて、シルバーさんが微笑む。それに気付いたディアが、ありがとうございます、と礼を言うのを見て、もう一度、シルバーさんは微笑んだ。
その後、本を抱えて喜ぶディアごと抱き上げて一度部屋へ戻ると、もう入口でカーシーが待っていた。
「お、図書室行ってたのか。それ置いて早く飯食いに行こーぜ!」
それから、名残惜しそうに本を部屋に置いたディアを連れて、カーシーと一緒に食堂へ向かった。
「ディアさん、アルヴィン、今日は私の友人も一緒に食べて良いかしら?」
食堂へ着くと、クララが主にディアへ向けて声を掛けてきた。
「クララさんの、お友達?」
ことん、とディアが首を傾げる。クラスに馴染んできたとは言え、挨拶以外の会話をする相手はカーシーとクララだけなのだ。もしかして、クララが気を使って段階を踏んでいたのかも知れない。
問いかけられたディアが、首を傾げたままこちらを見る。
「私は勿論どちらでも構わない。ディアはどうしたい?」
そう言うと、彼女の中で少しの葛藤があった後、何故か覚悟を決めたような顔をして口を開いた。
「く、クララさんの、お友達とおともあちになりひゃいでふ!」
即座に、ディアの発言に吹き出しかけているカーシーを止める為、後ろを向かせ、先に食事を取るように――そう言った私の顔を見た瞬間笑いが引っ込む姿を見た――勧めた。
言うまでもなく自分の失敗に全身を真っ赤にしているディアが、心なしか目を潤ませているように見える。向かい合わせるようにして抱き上げてやると、ぐりぐりと頭を押し付けてきた。辛うじて泣いてはいないようだが、相当に恥ずかしかったらしい。
「クララ、お友達と一緒に席を取っておいてくれ。私達も先に食事を取ってくる」
そう言うと、クララも心得たように頷いてくれたため、背中をぽんぽんと叩きながら食事を取りに行った。
席に着くまでにディアが落ち着くと良いのだが。




