01-1 起きないけれど、見守ってみる(前編)
主人公は精霊ちゃん(のはず)ですが、今回のお話は、別視点です。
彼サイドからどうぞ。
私が産まれた日、私がぎゅっと握っていた右手の中を覗き込んだ母親は、それはもう大変に喜んだのだという。
その喜びようは、難産の後で体力の無い状態にも関わらず、私を抱え上げて踊りだそうとして産婆と付き添っていた父とで必死に止めた程なのだとか。
誰もが持って産まれて来る訳ではないソレは、『精霊石』と呼ばれていた。
精霊石は、精霊を宿す石、(正しくは結晶)の事で、産まれた者と共に12年過ごす事で守護精と呼ばれる精霊が誕生するものだ。
その石を持って産まれた者は『精霊の愛し子』と呼ばれ、将来の国の財産として『導きの学び舎(ルイーデ)』と呼ばれる教育機関への入学資格を得る。
何かしらの成功を収める者の多い『精霊の愛し子』への投資の意味を込め、ルイーデは無料で入学する事が出来る。そこには血統も地位も関係がない。
別に、母はソレを喜んでいた訳ではなかったが。
精霊や妖精の事を人一倍愛している母は、自分の子が精霊石を握って産まれた事そのものが嬉しかったようだった。
そのため、私が5歳になる年には、ルイーデへの入学を喜びつつも「守護精ちゃんが生まれたら絶対に見せに帰ってきてね!」と約束をさせられている。
そんな親元に産まれた私も、随分と影響されていたのか、守護精の誕生を楽しみにしていた。
ところが、だ。
私が14になった今も、私の守護精は、未だ生まれていない。
多少の個人差はあるが、12年を過ごす事で誕生すると言われている守護精は、愛し子が13歳になるまでには生まれるものだ。
何か特殊な事情があって精霊石が濁るという事がなければ、例外なく13までに誕生すると言われている。
だというのに、未だ生まれていない。私の精霊石は、透き通ったままにも関わらず。
周囲は困惑し、心配した。
アルヴィンの守護精は、何故生まれないのか。
13になる日が近づくにつれて、周囲は更に混乱していった。
そしてとうとう13歳の誕生日、教室に入った際には守護精が生まれていない事をしって私よりもショックを受けている友人達がそこにいた。
元々私を心配してくれていた担任の教師は、あまりにもどんよりとしている教室内を見て直ぐに状況を把握したようだった。生徒達を宥めた後、何か分からないかと学長と話を取り付け、休憩時間になると私を学長室の前へとつれて行ってくれた。
教師はドアをノックして呼び掛けると、そのまま後ろへ下がり、私だけを中へ通した。
「いらっしゃい」
そう迎えてくれたのは、腰程まである金髪の女性だった。
装飾品などはあまり見られず、どこか品を感じさせる。落ち着いた黒のドレスに金髪が映えていて美しい。
声も姿も30代程にしか感じられないのに、どこか祖母の面影が重なった。
「初めまして。私はリアノン。学長をさせて頂いております。アルヴィン、話は聞いておりますよ。どうぞ、そちらの席に座って?」
そう、学長の向かいに置かれた椅子へと招かれた。
「失礼致します」
そう礼をしてから座ると、学長は向かいの席へと座る。
「アルヴィン。早速ですが、貴方の精霊石を見せて頂けるかしら?精霊ならば、何か、分かるかも知れませんものね」
なんでもない事のようにとんでもない事をカミングアウトされた気がしたが、別に構わない。
生まれない理由が分かるかもしれないのなら、人間でも精霊でも構いはしない。
何かが分かる事を期待して、私は精霊石を首から提げているロケットから取り出いた。
「濁りのない、綺麗な精霊石ね。お借り致します」
向こう側が見える、けれども角度によっては様々な色を見せる精霊石は、どこから見ても濁りがない。
自分の精霊石ながら綺麗だ、と思いつつ、差し出された学長の両手にそっと、精霊石を乗せた。
学長は、受け取った精霊石をそのまま優しく両手で包むと、ゆっくりと目を閉じて瞑想するような様子をみせる。
そのまま10、20、30秒と経ち、5分程経過した頃だろうか、学長は閉じた頃と同じようにゆっくりと目を開けた。
「アルヴィン、もしかすると薄々気づいていたかも知れないけれど、この子は普通の守護精とは少し違うようだわ」
絶望的、という表情ではなく、だが何の問題もない、という表情でもない。
ただ少し困ったような顔をして、学長はそう私に切り出したのだった。
大変短い上、ザ・説明回でございます・・スミマセン。