11 そこ、きょろきょろさせて遊ばないように
今回はアルの番です。
アルside
彼女の目は精霊石に似ている。一見、透明な精霊石と黒に近い瞳は全く違って見えるが、彼女の瞳は角度によって色を変える。今日は、私が朝目を覚ました瞬間から、その瞳がビー玉のようにきらきらと輝いていた。
髪をまとめる以外の身嗜みは、精霊であるディアにとっては必要のないものだ。多分、洗顔も、歯磨きも必要ない。しかし、私はそれを一緒に行う事にした。彼女は、人間の子供であれば誰もが与えられるような親の世話、のようなものを経験して欲しかったからだ。人間らしく育って欲しいというのではないが、せめて、前世で受けておかしくなかった世話だけでも、彼女の記憶に刻んでやりたかった。子供にかける親の世話は、それそのものが子供に向ける愛情だと、私は思う。彼女には、ありったけの愛情を実感して欲しかった。私の自己満足かも知れないが、言葉だけでも、行動だけでもいけない。全身全霊で以て、それを実行するつもりだった。
その後、いつも通りカーシーが朝食へ誘いに来て、初めてのバイキングも体験したディアは、それはもう幸せそうに朝食を頬張っていた。正に字の如く。正直、カーシーが笑ってしまうのも仕方がないと思ったが、決して口には出さなかった。食事を終えたディアがこちらを向くと、それはもう子供らしく口の周りを汚していた。誰も教えてくれなかったのだから綺麗に食べられなくて当然だ。それに、2~6歳と言えば、教わっていてもまだ出来ない者は少なくないだろう。口の周りを私に拭われて恥ずかしそうにしていたから、きっと、すぐに綺麗に食べられるようになる。
それから教室へ向かう途中、カーシーが実習授業の話をすると、それはもう喜んだ。自分以外の守護精を見られると聞いた時の瞳の輝きは今日一番のものだったと断定できる。実習授業の内容は、守護精達がそろう14になる年から始まる。最初の授業はそれぞれの守護精達の自己紹介を行うのだが、その授業は既に終わっている。恐らく私達だけ自己紹介を行い、それから授業を行う形になるのだろう。
授業内容としては、己の守護精に対する理解を目的としたものだ。自己紹介以降は、守護精が属する種族への理解を深める。その授業も終わってしまっているから、カーシー達は今日から恐らく守護精達の魔法について実践で学ぶのだろう。より強い結界に守られたグラウンドに出揃う守護精達の様子は、それは圧巻だろう。ディアはまだ、学長以外の精霊を見ていない為、多様な形の精霊達に、驚く筈だ。学長が精霊という事実を、あの時口にしていないので、ディアが気付いていない可能性の方が高いのだが。
そんなこんなで、ディアは、授業中上の空だった。席は勿論、昨日カーシーが用意したものをそのまま使用している。一生懸命ノートに何かメモを取っているのだが、気付くと手が止まっていた。余程守護精達の事が気になっているらしい。
その後の授業もディアがまともに受けられた授業はなく、ノートが昨日と比べて半分程しか埋まっていなかった。
授業の合間にカーシーがそれをからかったのだが、反応は生返事。かと思えばあ、精霊! というカーシーの言葉に振り回され、あっちを見、こっちを見、良いように遊ばれていた。それくらいの戯れは口を出す程の事でもないだろうと思ったが、カーシーが言えば言うだけ引っかかり、挙句の果てには頭を振りすぎてふらふらとしていた為、慌てて途中で止めた。クラスメイト達も、積極的に交流を図る様子はないが、少し離れて見守っているような様子でそわそわしている。話しかけてみたいが、昨日の今日で怖がられたくない、そんな様子だ。精霊好きの集まりなので、その内お互いに慣れるのではないかと思う。
実習は昼食後に始まる事となっていた。
昨日と同じようにカーシーとディアとの3人で食事をとる。
今回は、食事の事で頭がいっぱいになったディアを連れて、一緒にメニューを選ぶ。とは言ってもAセットかBセットの2種類なので、特に悩む事もない。今日はAセットの大盛りを選ぶと、食堂の女性職員がディアを見て、おまけだと言ってデザートのプリンをもう一つつけてくれた。精霊だと気付いているのかいないのか、どちらにしても子供好きらしい。ディアは催促するまでもなく、私に抱え上げられた状態でその女性にお礼を言っていた。
食事は朝と同じく、滞りなく進んだ。ディアは、口の中に収まる量を考えながら食べているように見える。ディアが嬉しそうにプリンを食べた後、同じように口の周りを拭ってやった。朝より綺麗に食べられたな、褒めると、照れくさそうにしてはいたが、喜んでいるのがよく分かる。
「子供の成長ははえーなー」
とかこちらをちらちら見ながらにやけている友人の事は知らん。




