10 今日の髪型はいかがなさいますか
ディアちゃんのターン! です。
目が覚めたら、目の前にお兄ちゃんのお顔がありました。ビックリして飛び起きる。
確か、私は学長室で、お父さんを待ってる間の話を全部し終わったはず。そこから先の記憶がないから、その後すぐに眠ってしまったみたい。
でも、ここはどう見てもお兄ちゃんのお部屋で、窓から射し込む日の光がとても眩しい。すっかり外は明るくなっていた。朝まで眠ってしまった自分の図太さに呆れる。一人だけ目を覚ましてしまって、どうしようか、そう考えてると、お兄ちゃんの瞼が震えた。
「ん……」
ゆっくりと瞼が引き上げられていく。少し眠たげに開かれた目と、私の目が合った。
「おはよう、ディア」
のっそりと体を起こして私をぎゅって抱きしめる。お兄ちゃんに比べて小さすぎる私は、すっぽりと包まれてお兄ちゃんの顔が全然見えない。私の記憶の中に、おはようという挨拶と抱きしめるという行為が結びつかなかったけど、嬉しかったから気にしない事にした。
「おはようございます、おにいちゃん」
温かくて気持ちよかったから、ぎゅうぎゅうくっついて頭をぐりぐりしてると、途中でぽんぽん、と頭を撫でられて力を緩めた。それからお兄ちゃんも手を放して私お顔を覗き込んで来た。
「ああ、少し目元が腫れてしまっている。まだ少し熱を持っているようだ。瞼が重たくはないか?」
そう言って、お兄ちゃんが、優しく目元を撫でていく。ちょっと、くすぐったい。
「少しだけ。でも、全然平気だよ」
平気だと言ったのだけど、少し冷やそうと言って、お兄ちゃんは冷たい水で湿らせたタオルを持ってきてくれた。覆うように乗せられたタオルが気持ち良い。
「もう少しするとカーシーが呼びにくる。そうしたら一緒に朝食へ行こう」
頭をくしゃくしゃって撫でられた。お兄ちゃんの手はすぐに離れて、気配も少し離れる。目を覆うタオルが温くなる頃を見計らうように戻ってきて、タオルをとってくれた。
「ディアも、準備をしよう。髪はどうしようか。希望の髪形はあるかな?」
そう聞かれたけど、私が知ってる髪形なんてあんまりない。特に思い浮かばなかったから、ううん、と首を横に振ると、そうか、と言って、私の髪に櫛を通した。
「特に希望がないならば、今日は1つ結びにしようか」
そう言って、器用に私の髪を結ってくれた。ただの1つ結びでは芸がないと、結び目の奥中央に、束ねた髪を上から通して捻る。今はこのリボンしかない、今度買いに行こう、そう良いながらリボンで結んでくれた。
私のお母さんは、私の髪が伸びきる前に死んでしまったから、結って貰う機会なんてなかった。
私のお父さんは、お外に出る事がない私の髪を結ぶという考えは、きっとなかった。
髪の毛を結ってもらうっていうのは、私にとって、初めての体験。本当は昨日も結んでくれていたけど、眠っていて分からなかったから今日っていう事にする。これから、もっともっとお兄ちゃんと色んな体験をするんだって考えたら、とってもわくわくした。
それから、抱え上げてもらいながらお顔を洗って、教えてもらいながら歯磨きをして。お洋服は、私自身だそうなので、着替えたりはしなかったけど、ばっちりと準備を整えた。
そのばっちりなタイミングで、コンコンコン、とドアを叩く音が聞こえる。
「おはよーさーん。準備出来てるかー。朝食行こうぜー」
カー兄だ!!
「今行く」
そうお兄ちゃんが短く答えて、私達は食堂へ向かった。
朝ご飯は、バイキングっていう形らしくって、皆空のお皿を持って少しずつご飯を取っていった。カー兄が私達の分も取ってこようかって言ってくれたのだけど、私のお顔を見て、皆で行くかって直ぐに言い直してた。そんな顔されちゃー、待ってろとは言えねーって言ってたけど、どんなお顔なんだろ。
お兄さんに抱き上げて貰いながら、お料理を見ていく。説明してもらいながら、スクランブルエッグ、ソーセージ、赤と黄のミニトマト、バターロール、それからフルーツヨーグルトを選んだ。
適当な場所に座って、3人で朝食を食べる。お兄ちゃんが、背が低い子用の椅子を用意してくれたから、お膝に乗せてもらう必要はなかった。この前はおにいちゃんが食べ難そうにしていたから、ほっとする。
毎食温かい食事を食べられるなんて幸せだ。そう思いながら無言でもぐもぐしてると、目の前でカー兄がぶっ! と噴出した。
「ディアの顔は忙しいなー。ほらそんな詰め込むなよ、飯は逃げやしねーから」
言ってる間も笑ってる。私は慌ててご飯を飲み込んだ。
「ふへへ、美味しくってつい。」
そう言うと、お兄ちゃんから頭を撫でられた。カー兄はなんか、ちょっと気が抜けちゃったみたいな顔してる。そこは膨れる所だろーとか言ってたけど、よく意味が分からなかった。
「こいつの事は気にしなくて良い。良いからよく噛んで食べなさい」
お兄ちゃん、ちょっとお母さんみたい。
はーいって言って食事を再開する。全部食べ終わってお兄ちゃんを見ると、コップに口をつけていたおにいちゃんは、口の周りについているぞって言いながら、ティッシュみたいなのを取って口の周りを拭ってくれた。
誰かと一緒にご飯を食べる事なんてなかったから、口の周りが汚れてるなんて全然気付かなかった。ちょっと、恥ずかしい。もう少し、綺麗に食べられるように気をつけなくちゃ。
「これから、覚えれば良い」
私の様子に気付いたのか、お兄ちゃんがそう言ってくれる。嬉しくなって、へらって笑うと、くしゃくしゃって頭を撫でられた。
「そこの二人、和んでないで教室いくぞー」
呆れたようにカー兄がわざとらしくため息をつきながら言うと、ああ、て小さく返事をして私を抱き上げた。授業、とっても楽しみ。
「知ってっかー?今日は守護精と愛し子、つまり俺らとが交流する授業が組まれてるんだぜ。ディアとアルは初めてだよなー」
教室へ向かう道中、カー兄が教えてくれた事は、私にとって大事件だった。
最初だからきっとそんな大した事しないと思うけどーとか言ってるけど、私にとっての事件はそこじゃない。
「他の守護精さんが見れる!!!」
私はいてもたってもいられなくなって叫んでしまったから、一気に周りの人がこっちを見た。思わずびくって体が跳ねたのにお兄ちゃんが気付くと、すまない、何でもないんだって周りの人達に言ってから、今から直ぐの授業ではないぞって苦笑してた。顔が熱くなっていくのが分かったけど、どこにも隠れる所がない。
私に出来る事は、出来るだけ小さくなってお兄ちゃんの首に顔を埋めるくらいの事でした。
うう、恥ずかしい。




