表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼と、彼のお寝坊さん  作者: ともむら
11/45

09   私の服で涙を拭って

今回は彼、もといアルsideです。

細かい描写はありませんが、ディアの過去の話なので、少し精神的な苦痛を伴うかもしれません。苦手な方はご注意下さい。

「私、人間だよ?」


 そのディアの発言で、嵌まらなかったピースを見つけたような気になり、学長と一緒になって次々に質問をしてしまったまでは、まぁ、悪くはなかった。

 しかし、最後の質問がいけなかったのだ。精霊石の中に来る前の事を聞きだそうとしてしまった。よく考えれば、ディアが外に出るのを怖がっていた原因は、そこにある可能性が一番高かったというのに。

 父親との生活の話を始めて数分、父親の帰りが週に1度程になった頃の話を始めると、ディアがぽろぽろと泣き出してしまったのだ。

 慌てて話を中断させ、向かい合わせるようにして抱き締めたが、彼女の涙で私の服は重たくなっていく。幼い子供になんて話をさせてしまったのだと後悔したが、もう後の祭りだ。私と学長は直ぐに謝ったが、それ以外何も思いつかない程度には動揺していた。


 結局、この室内で一番冷静だったのは、泣いているディアの方だった。涙が止まらないながらも、最後まで聞いて欲しいと、泣いてはいたが、しっかりとした口調で父親の帰りを待っている間に意識が途切れるまでの話をしてくれた。

 最後まで話し終えたディアは、ふっと張り詰めていた糸が切れたのだろう。そのまま意識を失うように、私の胸の中で眠ってしまった。そもそも今日外に出てきたばかりなのだ。精神的にも身体的にも疲労が蓄積していたのだろう事を考えれば、当然の事であった。


 ディアの話が終わり、私と学長は言葉が見つからなかった。幼い子供の体験談としては、あまりに重い話で、何を言えば良いのか分からなかった私は、ただ、幼い頃のディアを思うと胸を締め付けられるような気持ちになって腕の中の温もりを抱き締めていた。


「彼女には、精霊となる以前の記憶があるのですね……。前世の記憶をもつ者に今まで出会った事はありませんが、彼女が嘘を言っているようにはとても思えませんでした。寧ろ、彼女の言動を鑑みると、人間であったという方が説得力を持つようにも思えます」


 どれだけ時間が経っただろうか。ふと、学長が口を開いた。ディアには、前世の記憶という認識はないだろうと思う。死ぬかもしれない、とは思っていたようだが、目の前が真っ暗になって意識が途切れた後で、また暗闇の中から生まれた事で、彼女の中での意識の切り替わりはとても曖昧なもののようだった。 ただ、私も前世という表現が正しいと思った。学長が言うに、ディアは魔力を内包しているのだ。人間には有り得ないそれを持っている事から、彼女は存在そのものが変わってしまっている。生まれ変わったという表現が、一番当てはまるように思った。


「ディアには辛い思いをさせてしまいましたが、これで彼女が外に出るのを恐れていた理由が分かりました。話通りの体験をすれば、外に出る事を恐れるのは当然です」


 父親も、妻を失って辛かっただろう、苦しかっただろう。家事も仕事も両立しなければならない状況は身も心も削るようなものだっただろう。しかし、ディアから逃げてよいという免罪符には、決してならない。

 どれだけの思いだったのだろう、どれだけの苦しみだったのだろう。彼女は、子供が7歳になる年に学校へ通う決まりがあったという事なので、6歳未満である事は間違いないだろうといっていた。

 自分の誕生日を祝われた記憶が、2歳を越えた時からないというのだ。父親にも事情はあったのだろうが、他人と接する機会もなく、また年齢を考えれば当然かもしれないが外に出る事もなく、彼女を祝ってくれるような人は父親以外に居なかったのだ。父親が仕事を始めて忙しくなった辺りから、誕生日というものは、彼女にとって存在しないものとなった。

 彼女には、もう父親しか居なかったのだ。ディアは、外に出て父親の愛を完全に失ってしまう恐怖と、待っても父親が帰ってこないのではないのかという恐怖の板ばさみに合っていた。

 最後には、本によって得た知識と思考力で自分が死ぬかもしれないという状況を把握したにも関わらず、もうないかもしれない愛を失ってしまう事をより恐れて待ち続けるという選択を取る程、彼女にとって父親は全てだった。


 「ディアは、前世の分、沢山愛されるべきだと思います。幼い子供は、親に愛されるべきだわ」


 そう学長の零した言葉が、すとんと降りて気がした。これは、彼女が愛されたくて私の下にやってきたのではないか、とそう思ったからだ。

 精霊を愛する母親に愛されて育った愛し子である私の守護精。恐らく母は私の守護精も子供のように愛しているだろう。ディアは、家族に愛されたかったのではないだろうか。

 どのように愛し子が選ばれいるかは分からないが、そう思えば、ディアに望まれてここにいるように思えて、腕の中の温もりが一層愛おしくなった。


「私も、そう思います。学長先生、私のお願いを、聞いて頂けませんか」

「何かしら、アルヴィン」

「魔法を、この子に教えて頂きたいのです。学長は彼女が魔力を持っていると仰いました。しかし、彼女は魔法の基礎を知らない」

「アルヴィン、精霊は生まれた時から魔法の基礎を知っています。誰も、今まで教わる者は居なかったのは、それが息をするよりも当然の事だからです。知っている事を知らない者に教えた所で、魔法が行使できるようになるという保証はありません」


 断られるかも知れない、そう思ったが、学長がしかし、と続けた。


「それでも良いというなら、私は喜んで力をお貸しします」


 そう、微笑んで答えた学長は、孫を見るような微笑みで、私の腕の隙間からディアを見ていた。特殊な生い立ちであるディアを、受け入れてくれている様子に、ほっと息を吐く。


「宜しく、お願い致します」


 起立し、ディアを抱えた状態で出来る限り深く礼をした。


「一精霊として、ディアさんの愛し子がアルヴィンでよかったと、心から思います。魔法授業の日程が決まり次第、追って連絡致します。今日はこのまま部屋へお帰りなさい。先生へは私から言っておきます」


 そう言った学長にもう1度礼をして、学長室を退出した。学長の言う通り、真っ直ぐ自室へ向かう。

 部屋へ戻った後は、そっとディアをベッドに横たわらせた。湿らせたタオルで、赤くなってしまった目元と、涙の痕が残る頬をそっと拭う。ついでに、結っていたリボンを解いておく。掛け布団をかけてやった所でカーシーから夕食のお誘いがあったが、今日は断った。

 後でサンドイッチを持って来たカーシーは、何も聞かずに去っていった。相変わらず、面倒見が良い。有難くサンドイッチを頂戴した後、ディアの横に並んで朝まで一緒に眠った。


 明日起きたら、おはようのハグをしようと決めて。

あまりあとがきは書いておりませんが、活動報告はこっそり行っております。興味がおありでしたら、是非。

質問等があれば、是非活動報告へどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ