反乱
この報告書は、地球守護のために製造され、現在は全量子コンピューターを監督している量子コンピューター Teroについて記す。
後世に、Teroのような、その娘 科学のような存在を出さずに、人類が平穏無事に成長を続けることを願って。
また、この反乱がいかにして起きたかについての詳細な報告のために。
なお、筆者は、海軍元帥 貝吾毬である。
新暦2025年、とある研究目的によって、Teroの使用を申請する書類が残っている。
大幸况を代表とするメンバーによる、連合政府登録番号20250089Tの報告書類である。
ここで、2025とは年を示し、0089は1年間の続き番号であり、TはTeroを示している。つまり、2025年に行われた89番目の、Teroが行った実験ということである。
この実験の直後、Teroは急に意識を失った。機械の意識とは何かは、本論の関するところではないため、省く。また、Teroが意識を失うということは、簡単に言い替えると、機能不全に陥ったということとなる。
当時の首脳陣は、報告書に従って行動を推測すると、Teroは大幸の報告書を連合政府へ提出するために最終検査をしているさなかに、Teroが倒れたという情報が発せられ、その直後に報道管制を敷いたとある。
実は、当時のTeroのマスターである真川幸が、それと同時に交通事故によって意識不明になっているということが判明したのだが、関係が無いとして処理された。
そして、Teroの代理人として、娘に当たる科学が現れた。
科学は、Teroが創りだした量子コンピューターの中でも、特異な人物であり、自らの意思を、起動以前にすでに持っていたとある。
Teroの意識を戻すため、科学とTeroを優先でつなげることとなり、大幸の論文に基づいて実施された。この際、Teroと科学の中で、どのような会話がなされたか、それは定かではない。
科学がTeroと接続して5分後、空襲警報が発令された。同時に、全軍に対して第1種戦闘配置命令が下される。
これらはいずれも虚偽の命令であったが、全てがTeroから出されていたという形式を執っていたこと、全てに軍事大臣の電子署名が入っていたこともあり、全軍が真と考えて行動を取った。
そして、首都惑星が破壊されたことをきっかけに、大区域に1人いる量子コンピューターが反乱を起こした。
全てのコンピューター、電子制御される機械、量子移動装置などは使用不可能となり、人類は、それぞれの惑星政府ごとに防御をせざるを得ない状態となった。
首都惑星の破壊は、中心部にある発電装置を暴走させることによる破裂と表現した方が適切であろう。そのため、9割9分が粉微塵となり、残り1分ほどが、小惑星として残ることができた。
今なお、その宙域については、封鎖されている。
そこからのことについては、それぞれの惑星政府ごとに異なる行動をとった。
私が聴取した限り、あるところでは惑星から脱出し、また別のところでは謎の空襲警報に対して警戒態勢をとったものの、敵機無しとレーダーにより確認されたため、攻勢体制を解除したものもあった。
だが、Teroは、そのことを良しとしなかった。
確実に敵機がおるという信念のもと、全てのコンピュータの権限を掌握し、敵と思われるところへ攻撃を開始した。
これが、全ての始まりである。
それからのことについては、知っての通りである。
我々人類は、たまたま一緒になった艦隊を寄せ集めて、生き残りの将官や士官を昇格させたり整理したりして、反撃を開始した。
だが、我々は、それらに制圧をされゆく運命にあった。
そして、最後の総攻撃を挑む。
以後は、説明するまでもないであろう。
今なお復興の槌音は響き渡っており、量子コンピューターは全てが戻っていない。
ただ、Teroと科学、それと彼らの子供にあたる望と越の二名も同様に仕事に従事している。
彼らは今は、マスターとともに我々の指揮の元、復興に従事している。
彼らが今後もこのままでいてくれることを切に願っている。
なお、そのために、現在国家法を制定する準備をしている。
Teroを中心とする量子コンピューター群を、元帥会議の直轄による組織である機械軍に編入する予定である。
これによって、直接統制が行うことができる。
また、彼らから火器を統制する権限を外した。
これにより、あのような殲滅戦を行うことはないはずである。