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異世界勇者の冒険  作者: 藍 うらら
第3章 湖底の魔獣
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第3章 湖底の魔獣(1)

 この世界にやってきてもうそろそろ一ヶ月が経つ。しかし、一向に魔王の居場所の糸口はつかめず、俺は元居た世界に帰還できるのはまだまだ先になりそうだと、半ば暗雲たる気分に脅かされていた。

対するサキは、例の復命の花の一件以降、伝説の剣「青龍(ウォーター)聖剣(ソード)」を使用し、より一層強くなるために修行に勤しんでいた。また、これまで戦闘において致命的とされた剣においての死に対する過大な恐怖感も例の一件以降少し和らいだようだ。


「せいっ。やあっ!」


 青い宝石が太陽光によって照らされ、美しく光る。そして、その宝石のついた剣が大きく振られ、空を切る音がこだまする。


 俺たちは現在、先の森から30キロ余り東にある大きな湖の辺で剣術の修行に勤しんでいる。この湖はとても広大であり、このセンタワマール王国の国土中約5分の1を占めている。水深は浅いが、面積が広大な分、水の量はとても多く、日中も水面が太陽光で照らされ美しく輝いている。

 また、この湖には多数の生物が生息しており、周辺の街では水産業が盛んだという。

 そんな広大な湖の辺に着いたのは、今から一週間前なのだが、それから一週間ここに居座り続けている。食べ物は豊富であるし、周辺には森や草原があり、なにしろ広大な土地がある。そのため、剣術の修行にもってこいだと考えたからである。

 今日も朝日とともに目覚め、朝食を済ませた後、修行に没頭している。今や太陽は頭上に上っている。


「なあ、サキ。お腹も減ってきたし、そろそろ昼食にしないか」


「あっ、そう言えばそうですね。没頭しすぎて全然解りませんでした」


 サキはニコリと微笑むと聖剣をしまった。

 昼食は、先程釣っておいた魚らしき生物を塩焼きしたものだ。何だか、モンスターっぽい。でも、水中で釣ったから魚だろ。


「うまい」


「はい。このシーンスという生物は今が旬で、この湖にしか生息していない貴重な食材なんですよ。しかも、味はとても美味と好評で、市場でも高値で取引されています」


「へぇ。そうなのか」


 シーンスと呼ばれる生物の塩焼きはとても美味しく、ふたりともあっという間に平らげてしまった。そして、地面に寝っ転がる。


「ああ、食った食ったぁ――!」


「もう。食べてすぐに寝っ転がると身体に悪いですよ?」


「大丈夫大丈夫。ほら、サキも寝っ転がってみろよ。地面がふかふかで気持ちいいぞ」


「はいはい。仕方ないですね、マサトさんはもう……」


 呆れながらもサキは俺の脇に同じように寝っころがった。

 上空からは温かい日差しが射し、地面は芝生であったためふかふかでまるで雲の上に浮かんでいるようにさえ感じられた。


「ほんとだ。気持ちいいですね」


「だろう。だから言ったんだ。ふぁああ……。何だか眠くなってきた」


「ふぁああ……そうですね、私も」


 この周辺には街がいくつかあるものの、ちょうどこの近くにはないため、とても静かだ。時を忘れることができる。そして、死と隣り合わせに戦わねばならないという厳しい現実も一瞬だが忘れることができる。それほどまでに、気分のいいものだった。

 そして、だんだんと瞼が重くなり始めた時だった。

 湖とは反対側の森方向から、こちらに近づいてくる足音が鼓膜を揺るがしたのだ。しかも、その足音はひとりじゃない。ふた桁はいるように感じられた。また、その音も何とも奇妙だった。

 音はガチャりガチャりと金属音を足を動かすたびに出しており、はっきり言って戦闘にとても適しているとは言えないものだ。


 ――こっちに向かっている!


 俺は咄嗟に身体を飛び起こした。すると、隣で同じく横になっていたはずのサキも起き上がっており、音の聞こえる方角を眺めていた。

 金属音の大きさから、相手はかなりの重装備だということが解る。


「サキ、取り敢えず一旦そこの茂みに隠れよう。あれだけの金属音だ。相手が何者かも解らない今、容易にのこのこと立ち会うべきではない」


「は、はいっ。解りました」



「――こっちだ! 早く」


「は、はいっ――う、うわっ」


 どこに隠れようものかと考え、少し出遅れていたサキを半ば強引に引きずり込む。

 そして、俺たちがなんとか茂みに身を潜めた数十秒後、先程までいた場所に足音の正体が現れた。

 人数は俺の推察通り、ふた桁を少し上回ったところの13人。驚くことにその全員が今から何と戦うんだ、と疑問に思われるような重装備っぷりだった。また、各人が同じような装備をしている。シルバーを基調としたどこか紳士めいた服装には何だか人知れない威厳と強さを感じられ、その装備どれもが固く、強そうなものだった。

 俺はできるだけ声量を抑えて、その重装備な一行をじっと興味津々に見つめるサキに話しかける。


「……あれ、どこで売っているんだろうな。しっかし、高そうだな」


 その問いかけに、サキは少々顔を強ばらせながら呟く。


「ひとりあたり、ざっと100万ゴールドの高額重装備ですね。どれも市販されていない特注品ですし」


「高っ!」


 俺が現在所持しているゴールドは10万。ゴールドとは、この世界の通貨だ。ゴールドは、食材やアイテムをバイヤーに売ることで手に入る。先日、これまでの冒険で手に入れたアイテムのほとんどを売却していたので、その時入手した額を所持している。サキによると、これほどの高額を3週間で獲得してしまうのは異例だという。

 であるからに、ひとりあたりの装備が100万となると、どれほどの高額さであるかがよく解ることであろう。

 そんな高額な重装備を身につけているということはきっとかなり強い奴なのだということが言える。


「サキ、あいつら何者なんだ?」


 俺は恐る恐る様子を伺うように問う。


「あの人たちは、『軍』、つまり、『人類解放軍』の一行です」




 


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