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それからどうしたかと言えば、私はもとのカラオケボックスにいた。
ちょうど人が出て行ったあとらしく、誰もいないのが幸いだった。唐突に出現した血まみれドレスの少女とあっては、新たな都市伝説の末席に加えられてしまうだろう。
耳の奥で剣戟の音が残っていた。魔術の詠唱する声に、悲鳴やらざわめきやら。しかし今の私の耳に聞こえてくるのは、現代のポップなメロディーのみである。
私は近くにあったマイクを拾い上げ、怒り任せにソファに投げつけた。気は鎮まるはずもない。
歌ってなんだ。鳴き声ってなんだ。私は悲鳴を上げただけだ。
それでも、思えばあの世界に行った時も、私は歌ではなく、情感込めた間奏のセリフを言っていただけだ。たしかショウコは元の世界で音楽を聞いていたらしいから、おそらく無意識に鼻歌くらい歌っていたのだろう。守備範囲の広い神である。
頭の中でぐちゃぐちゃと考えながら、マイクを投げつけた手を押さえる。震えていた。
再び視界がぼやける。目の奥から涙があふれて止まらなかった。
カラオケボックスでよかったと思う。誰もいないし、声も漏れるまい。
「……カミロ」
私は声を上げて泣いた。




