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 日陰者のオトコダケの中でも、比較的日光に強いタイプを選出し、宮廷魔術師の元へと引っ越しである。

 私に細かい事情はわからないが、巨大な魔力の運搬には多少の手間がかかるとか。魔術師たちが数人で、何度かに分けて神殿の地下から王宮に運ばなければならない。

 そのため王宮には日々、女人に不慣れな不審者が現れることとなった。


 ○


 さしもの私にも、宮廷魔術師たちの巣窟は秘密なのだそうだ。むしろ本来ならば、神殿の魔窟でさえもあまり人目に触れさせないらしい。

 思えばカミロや王子選出の新護衛など、いろいろと連れ込んだがよかったのだろうか。


「あまりよくはありませんね」

 魔力運搬さなかの、ベニート率いる童貞集団と出くわしたので、暇に飽かせて声をかけたときの会話である。


 ○


 神殿から王宮へと向かう裏通り。よくカミロが、嫌がる私を運搬していた時に利用していた道を、今度は魔力が運搬されることとなったのだ。なんだか感慨深く、魔力に対しては親近感を抱く。内在する力が強いほど、こうして秘匿されねばならぬ運命なのだ。

 かくいう私は、現在王子に反発中。新しい護衛も振り払い、一人で部屋を飛び出した。あの悪魔の言うことを聞いていては、命がいくらあっても足りない。

 こんな危険な世界にはいられるか、私は元の世界に帰らせていただくのだと、近頃は初心を思い出しての神殿通いに精を出す日々である。思えば調査うんぬんなどよりも、さっさと元の世界に帰るのが手っ取り早い。無事に私が帰ることができた暁には、ショウコにも帰還の方法を教えてやらねばなるまいな。

 やはり人間、初志貫徹の精神を忘れてはならない。

 はじめの頃のように、まずは神殿の老木どもに文句を言い募り、魔窟に降りては檄を飛ばすべし。


 ○


 などという初志は忘れて、私はベニートたちの行軍について歩いた。どうにも私は、目新しいものに弱いらしい。

 まあ、近頃はあの枯れ木連中も私に恐れをなし、仮病ばかりで会おうとしないのだから致し方ない。

 たまにはこんな日があってもよいだろう。英雄にも休息は必要なのだ。


 外で見る魔術師たちは、地下洞穴での「裸でいた方がまだまし」と言えるような普段着とは違い、頭から全身を覆うローブを身に着けていた。明るい空の下、ローブの暗い色が影のように見える。しかもよく見たら、袖がほつれて襟元には染みがある。やはり裸でいた方がましではないだろうか、と私は思った。

 彼らこそまさに、怪しさを懲り固めた存在だ。さらにフードに隠れた顔を覗けば、人慣れしていない軟弱男の容貌が見え隠れ。喋ると八割がたどもる。苦し紛れの愛想笑いはそれだけで通報者である。なるほどこれはまぎれもなく不審者だった。隣に立つのもためらわれるが、

「魔術は秘儀なんですよ。特に聖女の召喚については、王家の方にも教えられません。これが飯の種ですからねえ」

 並んで歩く私に、ベニートは説明した。魔力の運搬とは言うものの、彼らが手に持つのは魔窟の書物程度だった。

「王家の魔術師たちも、みんな秘密主義なんですよ。だから、こうしてやりとりするとは考えられませんでした。いやあ、どうなってしまうのでしょうか」

「……困っているように見えません」

「そうですか? ああ、そうかもしれません。よその魔術が見られる機会なんてめったにありませんから。本当は楽しみにできるような状況ではないのですけど」

 そういってベニートは、無理やり顔を引き締めた。他人の危機などしょせんはこの程度である。

「もっと気を付けなければいけないとはわかっています。魔術師たちの中にもいろんな人間がいますから。魔術発展よりも、神殿のお偉方とのつながりを第一とするものもいます。……今回の件は、正直に言って神殿に対する裏切りですよ。もしかしたら私たちの中から密告するものが出たり、内通者がいたりするかもしれません。ナツ様もご注意ください」

 一枚岩にはなれないのは、ベニートのカリスマ不足だろうか。やはりもっと早いうちに、私が魔窟の実権を握っておくべきだった。しかし、握った瞬間に黄ばんだ男汁がしたたり落ちそうな権力はほしくない。

 それにしても、ベニートはよくも神殿を敵に回そうと思ったものだ。貧相な頭髪にしては英断である。

「魔術の効率化は、ずっと叶えたい目標でしたから」

 そんなに非効率的なものなのか。案外あっさりと、並行集約とやらは成功したように思われるが。特別何かをするでもなく、下世話な桃色妄想の片手間で終わっていた印象だ。

 私がそう告げると、ベニートは苦い顔をした。

「大変だったんですよ。ナツ様は邪魔するだけでしたが」

 鼓舞していたのだ。感謝されてしかるべきだ。

「大きな魔力は長くとどめてはおけないですし、一度に量を得ようとしたら質が悪くなりますし、そもそも人の手が全然足りないんです。傍から見ている以上に難しいんですよ。それに苦労して集めた魔力が使えるかどうかも、実際に成型して使ってみた後でないとわかりませんし」

 製品の量産化に手こずる企業みたいなものだろうか。なるほどわからん。


 どうにも話についていけなくなった私を気にも留めず、ベニートは延々と魔力の詳細について語りだした。どことなく上ずった声でまくしたて、私がめっきり興味を失っていることにも気づかない。魔力以上に社会不適合者の詳細が知れる。秘儀とはいったいなんだったのか。

 これでも魔術師の中ではまともに会話ができる方なのだ。それだけでも彼の地が魔窟に沈んだ由来が知れる。

 まったく魔術師というものは業が深い。


「まあ、でもこうして集めた魔力を実際に使ってみる機会もできたわけですよ。世の中わからないものです」

 長く一方的な会話の末に、ベニートは少し落ち着きを取り戻した様子でそう言った。

 すでに王宮裏通りを抜け、人気のない回廊を歩いている。あまり大通りを歩けないのは、やはり見た目が怪しいからだろう。

「ショウコ様の御身のためにも、私たちのためにも、帰還の儀式は成功させますよ。神殿がなんと言おうと、こういうのはやったもん勝ちなんですから」

「うむ、大儀ですな」

 やる気があって実にけっこう。普段は社会生活を営めないコミュニケーション障害者集団であるが、やると決めたら一途であることは評価したい。私は冷静かつ的確に人を判断できるのだ。

 しかしひとつ、不満がある。

「だけどどうして私の名前を抜かすのですか」

「二人同時の帰還の儀式なんてしたことありませんし、確実な方法を取るためですよ。まあ、ナツ様はそのうちゆっくりと」

 なぜだ。そもそも魔力をためたのは私のためのはずではないのか。どうして私の順番を抜かすのだ。日本人なら列を守れ、列を! あの欲望渦巻く戦場コミケの待機列だって、割り込みにはうるさいというのに!

「だってナツ様は中古じゃないですか」

 当たり前のようにベニートは言った。私はインスタントに怒り狂った。突沸である。

 いやしかし、これで怒らぬ淑女がいようか!

「なんですか、中古中古って!」

 私は新品だ。箱詰めどころか、工場出荷前のレベルで作り立てである。プラモデルならプレミアも付く。ネットオークションでも手が出ないほどに高価なのだ。

「このつやつやの淑女を前にしてなんという無礼な!」

「一桁以上の非処女は淑女ではないので……」

 ベニートは真正の変態である。一桁とはこれもまた業が深い。

「ショウコだってあれで十六ですよ、十六! 同じく一桁じゃないのに、なぜ私だけ差別するんです!」

「ショウコ様はそれでも処女でいらっしゃいますからね」

「私だって処女ですよ!!」


 静かな回廊に私の声が響き渡る。ベニートがぎょっとしたような顔をして私を見た。同道していた魔術師たちも、「えっ」という顔で私に振り返る。

 それからは、慎重な討議の時間だった。

 主に私が、アリかナシかの話である。

「ナツ様が処女……本当に?」

「本当だとすると、一応十七歳だったはずです。年齢的にはぎりぎり……」

「顔は……微妙な線ですね……」

「胸は」

「胸よーし」

「胸よし、貧相」

「性格は却下。審議拒否」

 元の世界へ帰る前に、必ずや神殿の地下を焼き払い、すべての菌類を撲滅させねばなるまい。

 私はこぶしを握り締め、胸に固く心に誓った。

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