1-1
唐突に見知らぬ世界に呼ばれて一年。
呼ばれたのは、いかにも! 中世ヨーロッパ! という感じの世界だった。違うのは歴史と宗教と、魔法とかいう胡散臭いものがあるくらいだ。道を行き来する人は南欧の民族衣装みたいなやつを着て、顔の彫りは深く、色素が薄い。
私は世界を救うなんかとんでもない役割として呼ばれたらしい。
しかし救うと言ってもなにをするわけでもなく、そこにいればそれでいい。いるだけで世の中に神の加護が溢れてとどまらず、花は咲き鳥は歌い愛に充ち溢れると言うゆとり仕様。ゲームで言ったらヌルゲーの域を越えてクソゲーだ。本当にすることがない。王宮に併設された神殿に召喚されて以来、着飾られて美味いものを与えられてちやほやされるだけで生きてきた。まさに、クソゲ―・オブ・ザ・イヤー。
ちなみに私はよくあるタイプの日本人で、生まれも育ちも関東の東京じゃない県だ。顔立ちもいたって平凡。職業女子高生で、得意技は珠算とプラモデルの組み立て。しかしこれが世界を救うことに寄与したかと言うと、まったくもってそんなことはない。私にかかれば七種のやすり掛けから塗装まで、クラスで右に出るものはいなかったというのに。
得意技も披露できず、親元離れて、何もすることなく一年がたつと言うのは、元女子高生には結構なストレスだ。同級生は今頃大学受験でヒーヒー言っていることだろう。私はそれを尻目に毎日毎日、食う寝る遊ぶを繰り返し。身についたのは、たまに強制出席させられる儀式や典礼でのマナーと、偉い人に話しかけられたときのあしらい方くらいだ。英語は身につかなかった。なぜか知らないが日本語が通じるのだ。本当に、イージーモードも助走つけて殴るレベル。
おかげで学力は急降下。微積の計算も忘れたし、二次関数? ベクトル? なんだそれは。もともと数学は得意だったはずなのに、今は学内模試でぶっちぎり最下位に落ちる自信がある。
要するになにが言いたいかと言うと、そろそろ不安になってきたのだ。
今ならまだ、元の世界に戻ることができるのなら、盛大にレールの外れた人生を軌道修正できる。いい大学に行っていい会社に入って社会の歯車として、毎日虚ろな瞳で満員電車に乗ることができる。
一方、この世界に残るなら、このふわふわしたつかみどころのない立場をどうにかしたい。今のうちは世界平和がどうこうとか言ってちやほやされてはいるものの、万が一、花の十代を通り過ぎいい年になってから、用済みだからと城を放り出されたらどうなるだろう。
スキルもない、身分もない女一人の行く末など、橋の下警備員が良いところだ。
帰るなら帰る。残るなら、先の保障をどうにか。
できれば、家族や友達に会いたいから、帰してくれないかなあ。
というのが、目下私の悩みなのである。