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十年先も、また君と  作者: 深/深木
十年先も、また君と
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出会い(前編)

「――――呪いを解く術も無いまま、私達の贖罪は今もまだ続いているのです」


 幼子に読み聞かせるように、落ち着いた声で優しく絵本を読み切ったエレクはパタンと音を立てて【人々の過ちと神様の呪い】という題名の本を閉じると、落としていた視線を上げて俺をみた。


「という訳で王族の方々は、総じて二十歳までしか生きられないのです。何かご質問はありますか? シュテルン様」


 聞き分けの無い子供に言い聞かせるように、俺の顔を覗き込みながら声をかけてきた、このキラキラしい金髪を持った青年。名をエレクといい現在二十二歳で、俺付きの従者である。


「質問も何も、わざわざ読み聞かせなくても、その物語は知っている。どんなに貧しい家にでも必ず一冊はある有名な幼児用の絵本じゃないか。生まれたばかりの赤子でなければ皆一度は聞いている」

「まぁ、そうですけどね。一応です、一応。これでも私は、これから王城に行かれるシュテルン様のことを心配してですね――――」

「あー、 分かった、分かった」


 一を言えば十返してくるエレクは、有能だが口うるさい。このまま逃げ場のない馬車の中で、長々と説教されてはたまらないので話題を変えなくては。


「なぁ、エレク。ずっと疑問に思っていたのだが、かけられた呪いは【王族の血を引く人間は二十歳までしか生きられない】というものだったな?」

「そもそもシュテルン様はいつもそうやって。―― はい、そうです。何か気になることでもありましたか?」


 かかった。説教という名の文句を言うのを止めて、俺の言葉の続きを大人しく待つエレクに心の中でほくそ笑む。この従者は小言が多いが、基本は真面目なので主人の質問より自分の忠言を優先させることは無い。ちなみに慌てず、騒がず、さも今考えがまとまりましたという感じに、しれっとした顔で話に割り込むのが、疑われないコツだ。


「そもそも、呪いで二十歳以上の王族が死んだ程度で、なぜ飢える者が出るほど世界は荒れる? 夢のような生活というのだから、簡単に生活が傾くような世界では無かったはずだろう? それに王族以外にも政に係わっていた者もいたはずだし、それこそ生産者や技術者も大勢いたはずだ」


 そう。これは昔からたびたび感じていた疑問だ。両親やメイド達、色んな人間に読み聞かされたがそのことを指摘する人間は誰もいなかった。皆がさも当たり前の様に流すので、今まで聞くに聞けなかったのだ。皆が当然のように知っていることを今更質問するのは少し恥ずかしいが、エレクなら言いふらしたりしないので大丈夫だろう。現にエレクは俺の質問の揚げ足を取ることなく、丁寧に答えてくれた。


「それはですね、政に係わっていた人間、主要な生産者、技術者は皆王族の血縁者だったからです。当時は、大手の食品生産者や高位の魔法使い、特殊技能を身に着けている人間を自国に取り込むために王族やその血を引く者と婚姻関係を結ばせて引き抜くのが一般的だったそうです。地位の高い者や、貴重な技術を持っている人間の出入国は取り締まりが厳しかったそうですから」


 気をそらす為にした質問に対し、なんだかとんでもない答えが返ってきた。


「だから、婚姻か? 確かに、他国に移り住む理由としては結婚相手の国に、っていうのはよく聞く話だが……」

「それに結婚している者達を自国の利益を守る為に引き裂くなど、いくら王族でもそんなことをしては民から突き上げられちゃいますからね。逆にどのような理由であれ、結婚させてしまえば他国の妨害もほとんど受けず自国に連れていけます。まぁ、その結果どの分野も高い地位に居る者はどこかの王族の血を引いていて、世界は壊滅状態になってしまったんですね」

「……そこまでいくと、ただの馬鹿だな。神様が業を煮やし、お怒りになったのも頷ける。むしろ呪われたお蔭で馬鹿の血が減って良かったんじゃないか?」

「…………シュテルン様。おっしゃることは最もですが、く・れ・ぐ・れ・も! これからお会いになる王子様にそのような口は利かないで下さいね。いくら、王制から議国制度になり、不敬罪や反逆罪で罰せられることがほぼ無くなったとはいえ、度が過ぎるとどうなるか分かりませんよ」

「それは、王子次第だな。気に入らなければ、適度に嫌われてさっさとズィルバーに帰るつもりだ」

「また、そのような事を。とにかく! 王子様に失礼の無いようにして下さいね。私もシュテルン様が王子様に失礼態度を取らぬよう、よく見ているように当主様にきつくいいつけられているんですからね!」

「…………というか、俺の性格などよく解っているだろうに父上は何を考えて、王子の遊び相手に推薦したんだと思う?」

「さぁ? それは私にもわかりかねますが。しかし確かに、シュテルン様を遊び相手に推薦するなど、当主様も随分と勇気のあることを――! ゴッホン! た、多分、シュテルン様が優秀だからですよ。魔法使いの素養もありますし!」

「…………まったく誤魔化せてないぞ、エレク」


 俺が振った話とはいえ、あまりに失礼なことをのたまったエレクをジトッと睨みつける。恨みの籠った視線を感じ取ったエレクは口を噤んで、身を小さくした。


 エレクは少々自分の心に素直過ぎる。俺よりも十二も上なのだから、そろそろオブラートに包むとか、本音を飲み込むことを覚えた方がいいと思う。


 第一、己の性格に協調性というものが足りないのは重々承知している。大雑把だし、手加減といった相手に合わせてやるといった行為が苦手なのも。

 そもそも、なぜ俺が大した努力もしていない奴の為に加減して負けてやる必要があるのか解らない。逆に真剣に練習して、けれども上手くならないのなら手を抜いたりせずに、全力で相手してやるのが礼儀というものだ。

 まぁ、そこを差し引いたとしても性格が余りよろしくないのは事実だが。これでもヴァッサーの北側、国土の十分の一を持つ侯爵家の跡取り息子。それこそ社交界デビューした四歳から社会の荒波にもまれまくってきたのだ。可愛げなく、擦れまくっていても仕方ないと思う。この世の中を、自分らしく生きるには綺麗ごとだけでは駄目だ。そのことを、六年前に俺は嫌というほど学習済みだ。

 そこまで考えてもう一度従者を見れば、さらに身を小さくして見せた。そのエレクの姿にデカいくせに器用なことをするなと感心しつつ、溜飲を下げた俺は、これ以上の会話は必要無いとアピールするために外の景色に目をやる。




 その日は比較的天気のいい夏でも、一際美しい青空だった。太陽の光を反射してきらきら輝くアクアマリンの大河と、川に沿って敷かれた白亜の石畳。川を挟んだ反対側には新緑の葉をつけた草木が広がっている。

 俺は王城に着くまでの間、見慣れているはずの自国の景色に魅入っていた。


 次のお話でようやくシュテルンはブラキオ様に出会います。短く終えるつもりが、シュテルンの性格とかに触れていたら長くなってしまいました。

 話を分かり易くシンプルにまとめるのって難しい……。

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