遠吠えは空に
前は少し出すのが遅れたので今回は早めに投稿しました。
朝、毛づくろいを済ませた俺は、棲家の拡張に取り掛かった。
壁を掘っていく作業は、割りと楽しかったので若干やりすぎてしまったが、そのおかげで棲家は大きくなった。
作業中の表情は変わらないものの、尻尾を揺らし上機嫌に楽しんでいた。
広くなった棲家を見まわした後、作業中に出た岩などを外に捨てに行き、その途中で植物と土を少し集めて持ち帰った。
棲家に戻ってから、植物と土を入れるための植木鉢を、想像魔法で作る。
「創造・植木鉢」
ポンっと植木鉢を出して、さらに、
「土よ」
土魔法でその中に土を入れて植物を植える。
(よし、新しい魔法を使ってみよう)
植物が生長して大きくなるイメージをしてから、別の言語で唱える呪文も有効か、試しにやって見た
「プローグレッシオー・プランタ」
呪文を唱えたとたん、植物はすごい勢いで生長し、20センチくらいの青い花を咲かせた。
(できた……これならどんな言語でも大丈夫そうだ。それに、魔法が成功したから属性も一つ増えた)
(魔石は植物とは違うが……魔石はマナが変化した結晶だ…種結晶を元に増殖しすることを結晶成長というぐらいだから成長魔法でもいけるだろう……多分)
魔石を棲家の端に埋め込み、呪文は元の言語に戻す。
「成長・魔石」
と呪文を唱えると、魔法が発動した。
魔石の周りに現れた光が、魔石に吸い込まれるようにして集まり、集まるたびに魔石が大きくなっていった。
大体10センチ位だったものが、30センチ近くになった。
(結構でかくなったな……成功だ。でも量産するにしても、1個づつに魔法使うのは手間だな……時間かけても良いから、洞窟内に埋めれば、そのまま成長するような魔法ができるといいが、試すか……)
(ここは、マナも豊富だし魔石量産にも適してるから、何とかなると思うが…これを機に、棲家を色々と魔法で改良していくのも良いかもな)
そう思って棲家を見渡す。
(まぁ、今回は棲家のマナの質でも上げてみよう。マナの質の良いところは、棲み易そうだし、良い魔石ができるだろう)
俺は、早速周りのマナ操作に取り掛かる。マナ操作は、魔法を使う時の魔力操作と同じで、使う力が違うだけだからやり易い。
俺の場合、無意識に魔力操作をしてたみたいだが、危なかった。
マナは純度が高く密度が濃いものほど質が良い。密度が濃くても濁っている場合があるが、濁っていても密度が高ければ高いだけ強い力を発揮できる。濁った物は、なんだかとてもいやな感じがするので、そういう物には近づかないが、森の中で見つけた時は純粋なものに変えている。棲家の近くに嫌な気配のするものがあるのは嫌だから。
(早速マナ操作やって見よう)
俺は自分の棲家のある山全体に感覚を広げて、マナ操作を始めた。
これだけ大きくマナを操作する感覚を広げたのは初めてだ。前に知識を引き出した時に出てきた技の一つだが、これの応用編もあるみたいだ。自分の感覚を森まで覆う位の大規模なもの(俺しだいで範囲はもっと広がるらしい)を、常に維持して、その中で起きたことを察知することも可能らしい。
魔法も使ってマナを増幅しつつ、増幅したものをマナ操作で整えた。
範囲が広いので結構時間がかかる
(魔石を改良して、マナを生み出す魔石と、マナを清浄化する魔石を作ったら便利だろうな……それを作れたら、棲家の周りに埋め込んで置こう)
魔石をどう改良するか考えつつも、作業を続ける。
雑にやると棲み難い場所になってしまうかもしれないので、丁寧に作業する分さらに時間がかかっていった。
そして夕方になり始めた頃に、ようやく作業を終えた。
(ようやく終わった……けど、時間をかけた分すごく良くなったな)
大きく空気を吸ってみると、清浄な空気が肺に入ってきて気持ちがよかった。
(空気もおいしいし、気持ちが安らぐ……本当にやった甲斐があったな)
尻尾を揺らしながら、気持ち良さそうに目を細めながら思う。
(なんだか少し走りたいかも……今日はほとんど棲家から出てないし、外に出たくなってきた。)
うずうずし始めたので、洞窟の入り口に向かって歩き出す。
洞窟の入り口についてから、
(夕方だし、もうそろそろ暗くなるが、かまわないか。夜目が利くし、魔法で明かりを出せるし)
そう思い、ふわりと空を駆ける。
(そういえば海にはまだ行ってなかったな…最初に空を駆けたとき、上空から少しだけ見えたし、方角はわかるから行って見るか)
方向を変え、海に向かってまっすぐ駆けた。
海に着いた頃にはすっかり日は沈んでいた。
崖の上から海を見渡すと、月の光を受けて海が蒼くほのかに輝いていた。
空を見ると、雲一つ無い満天の星空に、美しい三日月が出ていた。
(とてもきれいだな……この世界はきれいな場所が多い、そのうちいろんな場所に行って見たいものだ)
しばらくここで月見をしようと思っていたら、ふと、もうほとんどなくなりつつある、人だった頃の記憶が蘇る。
月を見ながら誰かが酒を飲んでいて、俺が何かを話しかけた時の事のようだ。そして、その誰かが返事をしてきた所までをぼんやり思い出す。
(「大人になったら一緒に飲んでやるよ。」と誰かが言っていた様な……あのまま生きていたら、成人してあの人と酒を飲んでいたんだろうか)
(ほとんど覚えてないが、親しい人だった気がする……親か?……それも思い出せない。未練というほどでもないが、もしもう一度会えるなら会いたい気がする……)
なんとなくそんなことを思いながら、
(……酒飲んでみようかな。その人とはもう飲めないけど……この世界で生まれたばかりだが、狼だしこの世界に法律なんてないから、未成年とか気にしないでいいし)
そうして、俺は日本酒を創造魔法で作り出す。
一緒に作った白い器に酒を入れて、一口飲んで見る。
(酒っておいしかったんだ)
酒の味について思いながらも、
(この世界で俺、何百年も生きていくんだな…しばらくは、一人で魔法の研究などをして過ごすしかないのだろうが)
そんなこと思いつつ、しばらくの間月と海を見ながら俺は酒を飲んだ。
そろそろ帰ろうと、最後に月を見た。
そうしたら、無性に遠吠えしたくなり、俺は空に向かって遠吠えをしていた。
酒で酔っていたわけではないが、なんだか遠吠えした方が良い気がしたので、衝動に身を任せて思いっきり大きな声で遠吠えしていた。
前にした遠吠えとは違って、世界中に響くようではなく、空に吸い込まれていくようだった。
(なんだか空に吸い込まれるような声が出たな…すっきりしたし帰って寝るか)
俺は空を駆けて棲家に帰った。
そして少し後、とある世界のとある場所にて。
一人の男が酒を飲む手を止めた。
「……ん?今何か聞こえたな……遠吠えみたいだった。それにしてもやけにきれいな声だったなぁ、絶対そこらの犬のものとは違うし、なんだったんだろう……不思議とあいつのことを思い出す、明日墓参りにでも行ってやるかな」
そうしてまた酒を飲み始めた。
棲家の洞窟にて。
これから何百年か後、たくさんの出会いがあるだろう。その中には思い掛けない人と出会うかも知れない。
なぜだかそんな予感を感じて俺は眠りに落ちた。
その予感が当たることを祈って。
ようやく序章終了です。
強引な展開になってしまった気がしますが、今の自分には精一杯でした。
なんか変なフラグたてちゃいました。
フラグの人物に関しては当分の間、話に出てこないと思います。かなり後のほうで出すことになるかも・・・
次の章からほのぼのになるといいなと思っています。
では、誤字・脱字・感想・アドバイス等ありましたら、連絡等してくれると助かります。