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翌日、アーサーと共に龍帝宮に行き、玖龍に昨晩起きたことを改めて説明した。得られた情報をまとめ、アーサーが描いた手配書を各街に配布する準備をする。それから会議の内容について話し合い、それらが全て纏まった所で解散となった。会議は次の日の昼に行われる予定になっている。出来るだけ早く会議を開いて多くの人に知らせたいが、最低限の準備は必要なので仕方のない事だろう。玖龍の話だと、エリアの攻略に力を注いでいて人出が不足しているらしい。話ではもうすぐボスが発見出来そうな雰囲気らしい。忙しい時に新しい仕事を作ってしまったので、俺とアーサーも手伝わせて貰う事にした。と言ってもみんな手際が良く、俺達が出来る仕事はそう多くなかったが。大きなギルドや攻略組のプレイヤーなどにメッセージを送り、掲示板に会議についての書き込みをする。それから龍宮帝の円卓会議室が使用出来るように手続きしたりと明日に備えていたら一日が終わってしまった。
全ての仕事が終わったのは夜の九時ぐらいでもうすっかり街は暗くなっていた。リンには遅くなるとメッセージを送っておいたので大丈夫だ。それから玖龍に誘われてアーサーと、エリア攻略から帰ってきたルークの四人で近くのうなぎ屋に行くことになった。何故うなぎなのか聞いてみたら、玖龍の大好物だかららしい。
そのうなぎ屋には入口にこの世界には似つかわしくない、自らデザインしたであろう『うなぎ』と妙にうねった字で書かれた暖簾と同じくうなぎ屋と書かれた提灯が設置されていた。なんとも日本風だ。周りにある店は殆どが洋風なので、この店だけ妙に浮いている。
店の中に入ると、うなぎを焼いた時の甘いタレの匂いが鼻孔をくすぐった。そういえば今まで意識していなかったが、β版をプレイした時はここまで『匂い』が鮮明に表現されていなかった。正式版……と言っていいのか分からないが、やはり色々画期的な技術がこのゲームには使われているようだな。
厳つい顔を崩し、笑みを浮かべながらメニューを手に取る玖龍はちょっと不気味だった。玖龍がメニューを見て、やはりこれしかないな、とうな重を頼んでいたので俺達もそれに従ってうな重を頼む事にした。ルークだけは櫃まぶしを頼んでいたけど。
マグマイールという巨大なうなぎ型モンスターの素材を使っているようだ。現実で出てくるうなぎの切り身の数倍は大きい。タレでこんがりと焼かれたうなぎはとても美味しそうだ。
「そういえば、カタナ君から聞いたけど稀少武器を手に入れたんだって?」
「ああ。太刀から大太刀に変わったんだよ」
「ほう、それは是非手合わせ願いたいな」
「というか暁君! 私達のギルドに来なって! 私の専属の部下にしてあげるからさ!」
「遠慮しておきます」
世間話(?)をしながら食べるうなぎは中々の物だった。うなぎなんて現実で最後に食べたのはいつだっただろう。
ルークに一口櫃まぶしを貰ったがこちらも中々美味しかった。代わりにものすごいごっそりうな重を持っていかれたけど。一口が大きいんだよこの人。
「そういえば暁君。約束についてなんだけど、明日会議が終わった後とかじゃ駄目かな?」
「約束ってなんだ?」
唐突に振られた戦いの約束の話に俺の顔が引きつった。ルークが何かと聞き返してるし、これはもう断れないな……。
「あー……。アーサーが助けに来てくれたお礼に、決闘するっていう約束ですよ」
「それは中々興味深いな。俺も是非観戦したいものだが」
「明日の会議の後かあ。時間取れるといいんだが」
渋々約束について答えると、予想通り二人が強く食いついてきた。観戦しに来るつもりかよ。
「それで、どうかな?」
無表情で聞いてくるアーサーに、嫌ですと言うことは出来なかった。
翌日、昨日決めた通りに会議が開かれた。集まった多くのプレイヤーに、あの時の状況や戦人針の話していた事、裏切り者がいるかもしれないという事、《照らす光》を狙うと言っていた事など、全てを詳しく話していく。当事者の俺が玖龍のサポートを受けながら説明する感じだった。大勢の前で話すのは結構緊張したが、なんとか話し切ることが出来た。
全ての街に戦人針の手配書が貼り出され、顔を出して街を歩こうものなら奴はすぐに捕まるだろう。PKギルドの持つ転移系アイテム無効化スキル《標的補足》についても説明され、すぐに仲間に助けに来てもらえるように何らかの準備をしておくように呼びかけられた。
これからの方針としては、PKギルドに襲われないように常に警戒して行動し、襲われても仲間を呼べる様に準備しておくこと。それからアーサーの似顔絵を頼りに目撃者がいないかプレイヤー達に呼びかけをして、《屍喰らい》の足取りを探る事。信じたくは無いが裏切り者がいる可能性があるので、注意して行動すること。だいたいこんな感じだった。
会議は滞り無く進行し、開始してから大体一時間半くらいで終了した。
会議で俺も色々説明したから結構疲れた。
椅子に座ってぐったりしていると誰かに肩を叩かれた。振り返るとああ、うん。アーサーがいた。
「この後、決闘するって話だったけどいいかな?」
「あー……はい。いいですよ」
「じゃあ場所はどこにする?」
「あー……《ライフツリー》以外でお願いします」
《ライフツリー》の街に住んでいるし、出来れば《ライフツリー》の近くではやりたくないな。となるとどこでしようか……。
「だったら《ゴーレムマウンテン》にある闘技場はどうだい?」
そういえば、《ゴーレムマウンテン》の街の隅に円形闘技場があったな。
「……分かりました」
「じゃあ四時に闘技場で」
今日の会議で疲れているから明日にして欲しかったけど、アーサーの方は待ちきれないみたいだな。そういうと彼は会議室から飛び出していった。俺ははぁ、と溜息をつくと現在時刻を確認してからゆっくりと立ち上がり、会議室からゆっくりと出た。