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ついに伏線が回収される……。今まで出て来なかったのは忘れていたわけじゃないですはい
さて、カタナの厨二病はどうでもいいとして、鍛冶屋の話をしよう。前の《イベント》中にリンではない誰かが俺にメッセージを送ってきたのを覚えているだろうか。
俺が《イベント》で活躍して以来、俺をパーティーやギルドに誘ってくるプレイヤーが多くなった。今までノーマークだった何の情報も無いプレイヤーが《イベント》で活躍したのだ。それはもう色々な人たちから勧誘された。今でもたまに声を掛けられる事がある。まあそれらは全て断っているのだが。声を掛けて来たのはギルドやパーティーだけではなかった。鍛冶屋がいたのだ。なんでもある程度の規模のギルドやパーティーだと専属の鍛冶屋を持っていたりするらしい。まあ俺はどこのギルドにも属していないのだが、一応と声を掛けてくる人たちがいた。その鍛冶屋の中で一番最初に声を掛けてきたのが、メッセージの主だ。
まあ特に勿体ぶることでもないし、覚えている人なんて殆どいないだろうが、なんと俺に声を掛けて来たのは鍛冶屋のレンシアさんだったのだ! 誰って顔しないでね。俺が《ブラッディフォレスト》から帰ってきて一番最初にお世話になった人だからね。
なんでもレンシアさんは俺の武器を作ったことで鍛冶スキルのレベルが上昇し、あれから色々あってお金を儲けてもっと上のエリアに鍛冶屋を移動させようとしている時に俺が《イベント》で活躍しているのをみてメッセージを送ってきたらしい。メッセージの内容は専属の鍛冶屋にしてくれませんか? 的な事だった。
懐かしいなあ。レンシアさん。そういえばだけど、最近の俺は知り合ったプレイヤーは大体呼び捨てにしてるな。TPOによってさん付けしたりするけど心の中では大体呼び捨てだ。意識してやった事じゃないけど、俺も内面的に色々変わってきているのかな。
「そういえば、アカツキ君の太刀の名前ってなんだっけ?」
隣を歩いていたカタナがそんな事を聞いてきた。前に聞いたがたしかカタナの太刀の名前は『久凪鎖ノ剣』って言うんだったっけ。
「名前か。俺の太刀は『斬鬼・青』っていう名前だぞ。俺が一人で《ブラッディフォレスト》に行った時に手に入れた素材で作った武器なんだ」
「へえぇ。太刀で思い出したんだけど、アカツキ君ってなんでまだ《フォーススラッシュ》を使ってるの? もっと上位のスキルに強化しないの?」
「ああ、それなんだけど何故か《フォーススラッシュ》から変わらないんだよな。熟練度も十分にあると思うんだが……」
やはりあの森に落ちた影響なんだろうか。「ああ……やっぱりか」とカタナがつぶやいたが、今の会話で何かが分かる訳が無いだろ。
とカタナと話している内に、目的の場所に付いた。レンシアさんの店だ。《ゴーレムマウンテン》で見た時はささくれだったちょっと荒い木の扉だったが、今は同じ木の扉でも随分綺麗になった。店も大分大きくなっている。
扉をあけて中に入ると「らっしゃーい」と相変わらず気の抜けた声が聞こえてきた。
店の中には大きな棚が並んでいて、その上には《ゴーレムマウンテン》の時よりも頑丈そうな防具や武器が幾つも並んでいた。
「おお来てくれたか! カタナくんも!」
鍛冶用の工房の扉を開けて出てきたレンシアさんが、俺達を見て嬉しそうに笑う。短く切り揃えられた茶髪と二重まぶたが特徴的で凛々しい女性レンシアさん。
メッセージで「専属の鍛冶屋にしてほしい」と頼んできた彼女だが、最終的にはお断りさせてもらった。その代わりに防具の整備が必要になった時はレンシアさんの店に来るようにしている。有名なプレイヤーが来ることで店の知名度が上がるらしく、売上げが上がったと感謝のメッセージが何通も届いたり、値段を安くしてもらったりしている。
「今日は新しいアイテムが手に入ったので、武器でも作って貰おうと思いまして」
「僕は付き添いだよ」
レンシアさんはそうかそうかーと嬉しそうに頷くと、店の奥にあるカウンターに向かう。俺達もそこに付いて行き、カウンターの上に見て貰いたいアイテムを置く。置いたアイテムの名前は『巨青熊の心臓魔石』。カタナから譲ってもらった素材系のユニークアイテムだ。この心臓は青色に光る大きな石だ。ボスからドロップするユニークアイテムで作った武器や防具はとても性能がいいらしいので、何が出来るか楽しみだ。
「うひょー!! 凄い! ユニークアイテムじゃん!」
「《ブラッディフォレスト》をクリアした時にボスドロップしたんですよ。本当はカタナのだったんですけど、俺にくれたんです」
「プレゼントフォーユーだぜ」
うひょひょーと変な声を上げながらしばらく心臓を見ていたレンシアさんは数分後ようやく落ち着きを取り戻した。この人も変わってるなあ……。
「この心臓で武器を作って欲しいんですけどいいですか? 新しい武器が出来たら『斬鬼・青』は予備太刀になっちゃうけど」
それなりに愛着があるから売ったりはしたくない。
「んーと、新しく武器を作るのも良いんだけど、だったら今暁君が持ってる武器をベースにして作るってのはどうかな?」
「そんな事出来るんですか?」
「うん、出来るよー。その心臓と他に幾つかアイテムをくれればね」
グルヴァジオを倒した時の素材を使えば足りるらしいので、それらもカウンターの上に置く。
「よしよし、じゃあ一時間もあれば出来ると思うから、完成したらメッセージ送るね! ぐっばい!」
レンシアさんはそう言うとアイテムを持って工房にダッシュしていった。やっぱり変わった人だなあ……。
――――――――――――――――
それから特にやることも無いので、カタナと一緒に近くにあった喫茶店に入ることにした。レストランや喫茶店と色々な店があって、ゲームの中だと言うことをちょっと忘れる事もある。まあ……《屍喰らい》のPKによって、現実に、いやゲームに引き戻されたが。最近はちょっと浮かれすぎていた。武器を作ってもらうと同時に俺の気も引き締めなければ。
流石に喫茶店にはドクペは無かったので、カフェオレを頼む事にした。カタナも同じくカフェオレを頼んでいた。
「なあ、カタナ。お前の知っている範囲でいいから《目目目》や《屍喰》について教えてくれないか?」
カフェオレが運ばれてきてから、俺はカタナにそう頼んだ。俺が森に行っている間に色々あったらしいし、今はそれを聞くいいチャンスだ。
カタナはカフェオレに角砂糖を大量に入れた後、カフェオレを美味しそうに飲みながら「いいよー」と答えた。そんなに砂糖入れてよく飲めるな……。
「そうだねえ。知っている事って言ってもそんなに詳しい訳じゃないから、あんまり期待しないでね。まず《目目目》。このPKギルドは色々な場所で無差別にプレイヤーを殺して回っている。弱いプレイヤーから攻略組のプレイヤーまで、無差別にね。多分殺す事自体が目的なんだと思う。今まで何回か尻尾を掴みかけたけど、全部ギリギリの所で逃げられてしまう。数ヶ月くらい前にアジトの場所が分かって、攻略組が討伐隊を組んで襲撃を仕掛けたけど、そこには誰もいなかった。特に証拠もなし。それ以来ちょくちょく色んなエリアに現れてはPKをしてるけど、今のところ有力な情報は何もなし。
それで次は《屍喰らい)》。彼らは《目目目》とは違って攻略組のプレイヤーを集中的に襲っているね。《連合》みたいな。だいぶ前だけど、ボス討伐隊がボスに向かっている最中に襲撃を掛けてきた事もあったな。その時僕もいたんだけど、いやー強かったよ。みんな仮面を付けていてどんな奴がいたか、とかは分からなかったな。《屍喰らい》は今のところ全くといっていいくらい情報がない。まあプレイヤーを襲撃するタイミングが絶妙だから、攻略組に内通者がいるんじゃないか、って噂があるよ。
それでまあ、後は《目目目》と《屍喰らい》はお互いに仲が悪いみたいで小競り合いをしているらしいね。なんか、あるギルドを襲撃して全滅させた直後の《屍喰らい》に《目目目》が不意打ちで攻撃した所を見たプレイヤーがいるんだってさ。お互いに攻撃しあっている。まるでゲームみたいに」
「ゲーム?」
カタナの言葉に疑問を覚えて聞き返すと、「ああなんでもないよ」と返されてしまった。
うーん。やっぱりあまり有益な情報は得られなかったな。《屍喰らい》も危険だが、俺が探しているのは《目目目》だからな。待っていろ、けだまく。
その時ちょうどレンシアさんからメッセージが来た。『すぐに来て』と書いてあるから、急いで向かう。一体何なんだ。もしかして鍛冶に失敗したとか……?
「へいらっしゃい!」
扉を開けて中に入ると、レンシアさんにハイテンションで出迎えられた。寿司屋かなんかかよ。「凄いからこっち来て」と背中を押され、工房に向かう俺達。中にある台には一本の太刀が置かれていた。
「あれ?」
それを見て、俺は疑問の声を漏らす。なんか、大きいぞ? 俺の疑問にレンシアさんはふっふっふっと謎の笑みを漏らした後、こう言った。
「なんとなんと、暁君の太刀は、太刀から大太刀へと進化したのだ!」