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「太刀を使う人と一度戦ってみたかったんだ。俺はガロンだ。よろしくな」


 俺を見たガロンは人当たりの良さそうな笑みを浮かべてそう言った。いや人当たりが良さそう、じゃなくて実際に人当たりが良かった。一緒にいて楽しかったし、頼りになった。だからこのゲームでも一緒に組みたいと思った。

 可愛い女の子に馬鹿にされると普通の女の子よりも傷付く様に、みんなに頼りにされるような優しい奴に見捨てられるのも倍傷付く。それが仕方がない事だと分かっていてもだ。

 「太刀を使う人と一度戦ってみたかったんだ」? ふざけるな。お前はその太刀を使う俺をパーティーから追い出したんじゃないか。

 頭に血が昇っていくのを感じる。息が荒くなっていく。ギリギリと音が鳴る程に歯を食いしばる。

 《ブラッディフォレスト》内では俺を見捨てたガロンでも良いから誰かに会いたいと思った。あの時の俺ならガロンに対して怒ったりせず、縋っていただろう。だけど冷静になって考えるとやっぱり駄目だ。ガロンが俺を見捨てたりしなければ俺はあんな森で一年以上一人で生活しなくても済んだんだ。あんな高レベルのモンスター達と必死に戦わなくても良かったんだ。洞窟の中で寝なくても良かったんだ。誰かに会いたいと孤独を感じる事も無かったんだ。

 一度頭に浮かんだガロンへの怒りは増殖していく。

 今すぐ奴に跳びかかりたいけどまだ勝負は始まっていない。自分を必死に抑えて仮面からガロンを睨みつける。


―――――――――


『俺はガロンって言うんだ。よろしく。良かったら一緒にパーティー組まないか?』


 ネットのゲームと違ってブレオンは自分で相手に話掛けてコミュニケーションを取らなければいけない。長い間家に引きこもっていた俺は思うように仲間を作れなかった。

 そこにガロンが話掛けて来てくれて、俺とパーティーを組んでくれたんだ。嬉しかった。太刀で足を引っ張っても笑ってカバーしてくれた。今度他のゲームの仲間を紹介してやると言ってくれた。β版だけじゃなくて正式版でも一緒にプレイしようと言ってくれた。

 なのに。

 なのになのになのに。

 掲示板で決めた待ち合わせ場所に行った俺を待っていたのは『足を引っ張られるかもしれないから、パーティーは組めない』という言葉だった。他の人達は違うゲームで知り合って現実でオフ会を開いたりする程仲の良い人達だから信用が出来る。だけど俺はβ版で知り合ってまだ間もない。だから信用出来ない。

 それから俺はパーティーを組むことが出来なくて一人で行動しなくちゃいけなくなって、あのバグのせいで《ブラッディフォレスト》に落とされて、高レベルのモンスターが彷徨く森の中で一人で生活しなくちゃいけなくて、押しつぶされそうな気持ちを振り払うためにひたすら太刀を振って、死にそうになりながらモンスターを倒して、倒して、倒して、ボスモンスターの所まで行って、何回も何回も殺されて、ようやく倒して、《ブラッディフォレスト》から出られた時には一年以上経っていて。

 何で俺があんな目に合わなくちゃならないんだ。おかしい。おかしい。何で。どうして。

 ガロンが、仲間を説得してくれていれば。

 暁は信用できるって言ってくれれば。

 俺はあんな目に合わないで済んだんだ。


――――――――― 


 そして試合が始まった。

 開始と同時に大剣を持っているとは思えない速さで近付いて来たガロンが、上から大剣を振り下ろしてきた。俺は太刀を上に構える。赤い何かの殻で作られた大剣が重い風切り音と共にそこに叩き込まれる。火花を散らしながら、凄まじい衝撃音が周囲に響き渡る。上からの攻撃で全身に衝撃が走るが、俺はそれを全て耐え切った。HPバーが僅かに減少したがこの程度は問題ない。

 大剣を攻撃力の劣る太刀で防ぎきった。その事に驚いたのか、ガロンは目を見開き、観客達が叫び出す。

 それに構わず力を込め、大剣の刃を思い切り押し返す。ガキィン、と火花を散らしながら大剣が後ろに弾かれる。隙だらけになったガロンに対して俺は太刀を使わずに、思い切り蹴りを入れた。腹をガードしている鎧にぶつかるが、構わずに力を込めガロンを後ろに下がらせる。

 斬られると思っていたであろうガロンは怪訝そうな顔をした後、大剣を構え直す。


「……何故今斬らなかった? あの状態なら容易に俺を斬れた筈だ」


 侮られたと感じたのか、僅かに表情を険しくしてガロンがそう言った。

 

「なぁ、知ってるか? このゲームの正式版じゃあ太刀の攻撃判定はおかしいんだよ」

「…………それぐらいは知っているが」

「それで太刀を選んだ奴らは仲間に恵まれた一部を除いて、武器変更が出来る街までソロで行動せざるを得なかった」

「……それがどうした? 今関係あるのか?」

「俺は仲間に恵まれなかったんだよなあ。だからパーティーを組む予定だった奴に見捨てられ、独りで孤独に行動しなければならなかった」

「だからそれがなんなんだ!」

「まだ分かんないのか? それとも俺の事なんかもう覚えてない?」

「お前……」

「俺だ。俺だよ、ガロン。ゲームが始まった日にお前のパーティーに入れて貰えなかった」

「暁……か?」


 俺はその質問には答えず、太刀を構える。

 ガロンは呆然とした表情で俺を見ている。


「見せてやるよガロン。一人で生きてきた俺の力を」


 

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