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 勝負が終わったのを見て、俺は慌てて掲示板を開いた。前に調べた時は自分と同じ太刀使いの情報は見つけていなかった。確かに俺以外のプレイヤーが太刀を使っていてもおかしくはないけど……。

 イベント関連の掲示板を探していると、コンコンと控え室のドアがノックされた。

 無視する訳にも行かず、ドアを開けて外に出るとまさに今調べていた男がそこに立っていた。

 顔中に巻かれた包帯の隙間から灰色の髪や瞳が覗いていた。服装は白いシャツの上にライダースジャケット、そしてジーパン。普通の服に見えるが恐らく特別な素材で作られていて防御力があるのだろう。

 近くで見てみると身長が高く、180㎝近くあるんじゃないだろうか。身体はガリガリという程ではないが細い。

 背中に背負っているのは俺と同じの太刀だ。らーさんに勝っていたことから相当の使い手だろう。そんな奴が何故俺の部屋までやってきたんだ?

 部屋のドアにはその部屋を使用する者の名前が書いてある(俺はシルバーブレード)ので、一応誰がどの部屋に居るかは分かるのだが。

 

「初めまして、シルバーブレード君」


 男は良い声でそう言うと、顔に巻いてある包帯を外し素顔を見せる。灰色の瞳に整った顔立ち。灰色の髪は長く、襟足が肩まで伸びている。男はニッコリと笑みを浮かべ、こちらを見てくる。

 誰だこいつ。


「ああ、僕の名前はカタナって言うんだ。よろしくね」

「あ、ああ。えっと、何の用だ?」

「用、ね。ああそうだ。僕の今までの戦い、見てくれたかな?」

「まあ、一応……」


 本当はらーさんを倒した瞬間しか見ていなかったけど、見ていないとは言えずに何となく頷いてしまう。


「あはっ、それは嬉しいな。僕が太刀を使い始めたのは君の太刀捌きを見たからなんだよ。格好いいなあと思って、すぐに武器チェンジしたんだ」

「武器チェンジ……? そんな理由で武器を変更したのか?」

「え? ああ、まあ他にも一応理由はあるんだけどね。前使っていた武器に飽きたんだよ」

「飽きたって……」

「前使っていた武器はね、双剣だったんだ。双剣を適当に使っていたらいつの間にか《嵐帝》なんて呼ばれててねえ」


 は? おい、今こいつなんていった?

 《嵐帝》って確か、現双剣使い最強とか言われてる奴の二つ名だった筈だ。《震源地》《流星》に並ぶ三強の一人、《嵐帝》。それがこいつなのか? しかも双剣を捨てたとか言ってるし。それに今回のイベントには出ないとかいう話だった筈だ。


「《嵐帝》って……。今回のイベントには参加しないんじゃなかったのか?」

「うん、最初はそのつもりだったんだけどねえ。太刀を使ってみたくてさ。騒ぎにならないために包帯で顔を隠してたんだよね」

「それに……お前、双剣から太刀に変えたってことは今までの双剣の熟練値とかスキルとかがなくなるって事だぞ? 《嵐帝》て呼ばれる程の双剣の使い手だったのにそんな簡単に武器を変更なんておかしいだろ……」

「え、なんで?」


 なんでって……。何なんだこいつは……。本当に《嵐帝》なのか? 

 カタナが浮かべている笑みにうすら寒い何かを感じ、俺はゴクリと唾を飲み込む。


「だってこの世界はゲームなんだよ? 存分に楽しまなくちゃ損じゃないか! 僕は双剣に飽きちゃったんだよ! そこで君を見つけたんだ! だから僕は双剣を捨てて、太刀を使うことにしたのさ!」

「ゲームって、この世界で死んだら現実でも死ぬかもしれないんだぞ!?」




「だから?」




「――――ッ」


 この男は何かが決定的に、致命的に違う。それが何なのかは上手く説明出来ないが、とにかくこの男は普通じゃない。今のやり取りでこの男とは致命的なズレがあることを感じてしまった。

 本当に口で説明出来ないのがもどかしい。


「死のうが生きようがゲームはゲームでしょ? だったら最後まで思いっきり楽しまなくちゃ損じゃないか。違うかい? シルバーブレード君」

「死ぬんだぞ?」

「ん? ゲームなんだしさ、飽きたら違う武器を選んだり……回復アイテム無しでボスに挑戦したりさ。もっともっと、もっと楽しまないと!」

「…………」

「あ、そろそろ時間だね。三回戦目、頑張ってね?」


 そう言うとカタナは俺に背を向け、ゆっくりと歩いて行ってしまった。

 

「…………」


 なんだったんだ今の男は……。結局、ここに何をしに来たんだ? カタナの出していた異様な雰囲気を振り払うため、パチンと頬を叩く。

 まあいい……。取り敢えず控え室の中に入って――――。


「あ、ごめん聞き忘れたことがあった」

「うお!?」


 カタナがすぐ隣に立っていた。

 驚いて思いっきり後ろに跳んでしまった。《ステップ》使ってないのに結構跳んだな……。 

 それを見てカタナは苦笑を浮かべながら頭を掻いて、俺の方に一歩近付いて来る。


「聞き忘れたんだけどさ、シルバーブレード君は太刀使いにくくない? 当たり判定がおかしくてさあ。凄い使いにくいんだよね」

「……ずっと使ってれば多分普通になると思うぞ」

「へえ! そうなんだ。ありがとう! まあしばらくはこの状態で楽しむのもいいかもしれないね」


 あの言い方からしてまさかと思ったが、この男、太刀を使い始めて間もないのにらーさんを倒したのか? しかも当たり判定がおかしいのに。

 《嵐帝》。この男が本物かは別としてその実力は高いみたいだ。

 

「うーん、それにしてもシルバーブレードって長くて言いにくいなあ。もっと呼びやすい名前がいいかな。……あ、そうだ、僕とフレンド登録してよ! 僕、登録している人少なくてさあ!」


 …………。

 すっげえ登録したくないけど何か断りにくい雰囲気だなおい……。それでも断ろうとしたのだが、あっちは俺の返事を待たず準備万端で、目をキラキラと光らせながらこっちを見ていて、とてもじゃないけど断れなかった。

 昔からそうなんだよな……。嫌なことでも断れなくてさ……。

 そして結局、フレンド登録することになってしまった。まあいいか……フレンド登録って言ったってそこまで情報が相手に伝わるわけでもないし。名前とレベルが分かって、メッセージや通話が出来る程度だ。

 登録名カタナ。どうやらカタナというのは本名だったらしい。

 レベルは68。こいつが《嵐帝》というのは本当かもしれない……。


「へえ、アカツキ君って言うんだね! あはは、これからよろしくね、アカツキ君」

「あ…ああ」

「僕何でかな、友達少なくてさ……。じゃあそろそろ行くね。次の勝負、頑張ってね、アカツキ君」


 そう言うと、こんどこそカタナは去っていった。


―――――――――――――――


 控え室に戻ると俺の前の試合が丁度終わる所だった。カタナと話していたせいで大分時間を取られてしまった。

 椅子に座って体の力を抜き、大きく深呼吸して気分を落ち着かせる。次の相手がどんな奴なのか分からないが、とにかく全力で行こう。

 しばらくしてフィールドへワープが始まった。

 フィールドに立ち、相手が現れるのを待つ。その間背中の太刀を抜いていつでも戦えるようにスタンバイしておく。

 そして相手が緑色の光に包まれ、フィールドに現れた。


「な…………」


 燃えるような赤い髪。睨んだものを怯ませる鋭い瞳。相手を見下ろす高い身長。そして背中に背負った大きな剣。

 見覚えのある顔だった。

 一年以上前に見た顔だ。

 こいつは。

 この男の名前は。



「ガロン……!」


 俺を見捨てた男がそこに立っていた。

 


 

やっと登場させる事ができた…。


ブログ、短いですが更新しました。

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