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 二十年前、軍が訓練のために開発したバーチャルリアリティ技術は今や世界中で使われている。体感型仮想空間装置、《ドリーム》の仮想空間を利用した介護やスポーツなどが進歩していく中、ゲーム技術が取り残されていった。


 ビジュアルやデータなどの問題により、《ドリーム》から出ているゲームはどれもほのぼのとした生活系のゲームばかり。激しいゲームを好むプレイヤー達から、不満の声が上がる。そんな中、あるゲーム会社がVRMMO《Blade Online》の開発が成功したことを発表する。プレイヤー達は歓喜し、その発売を今か今かと待ちわびた。


 発表から二年後、ゲーム会社から《Blade Online》のβ版が応募したプレイヤーに数量限定で配られた。俺、矢代暁やしろ あかつきもβ版に応募し、抽選に選ばれた。

 自分がゲームの中に入りモンスターと戦うというのは、やはり最高に楽しい。俺はβ版終了まで毎日何時間もプレイし、攻略していった。

 それから二ヶ月、ついに《Blade Online》が発売された。



―――――――――


『もうすぐだな』


 β版で知り合ったガロンというプレイヤーから送られてきたチャットを見て緊張感がより高まる。

 《Blade Online》のサービスが今日の午後十二時から開始されるのだ。俺は出遅れないために《ドリーム》を既に頭にセットしている。十二時になった瞬間に電源を入れて出遅れないようにしないとな。


 β版をやっている分、他のプレイヤーよりも有利とはいえ、おちおちしていればすぐに抜かされてしまう。ゲーム内でガロンとその仲間に合流し、すぐに攻略を開始するつもりだ。


「これで現実から目をそらせる」


 俺は《Blade Online》のパッケージを眺めながら、そう呟いた。


 俺には親が居ない。小さい頃に二人とも交通事故で死んでしまった。まだ小さかった俺と妹のしおりは祖母の家に引き取られる事になった。俺はあの時に誓ったんだ。栞だけは何があっても守ると。「あかつきお兄ちゃん」と懐いてくる妹だけは、幸せにしてみせると。


 それがこれだ。大学受験に失敗し俺は浪人になった。合格すると思っていた。模擬試験などではそれなりにいい結果が出ていたし、合格すると思っていたんだ。だけど落ちた。そんな筈はないとどれだけ確認しても、俺が合格しているという現実はどこにも無かった。だから俺は現実から逃げたんだ。


 祖母は予備校に通うための金を俺に渡してくれたが、俺はそれでゲームを買った。勉強する気になれない。就職するつもりもない。ただ自分の好きなように生活する毎日。


 最低だと思う。高校生になった栞にも軽蔑された。祖母は何も言わず、家でゲームをする俺に料理を作ってくれている。心が痛まない訳じゃない。だけど何かをする気になれないんだ。


 そう言えば、栞は今友達の家に泊まりに行って居るんだっけ。あいつもゲーム好きだから、もしかしたらその友達と《Blade Online》のサービスが開始されるのを待っているかも知れないな。


 そんなことを考えてる内に、デジタル時計が十二時と表示する。俺は《ドリーム》の電源を入れ、《Blade Online》を開始した。目の前が少しづつ黒く染まり、やがて闇に落ちていった。



―――――――――

 

 《Blade Online》の世界、《アルカディア》にはモンスターが跋扈する、まだ誰も足を踏み入れたことのない場所がいくつもある。プレイヤー達はその場所を探索し、奥にいるボスモンスターを倒して次のステージに向かっていく事になる。


 使用できる武器はさまざまで、片手剣、双剣、大剣、太刀、斧、槍などが存在する。まだ明かされていない武器もあるようだ。ただしこの世界には魔法という物がない。なのでプレイヤーは武器を手にし、自らの腕でモンスターを倒すことになる。それだけ聞くとあまり面白みのなさそうなゲームに聞こえるが、魔法の代わりに《スキル》や【称号】がある。プレイヤーはこれらを上手く使えるかが勝負の分かれ目となってくる。


 武器は最初に選ぶことが出来るが、しばらく変更することが出来ないため慎重にいかなければならない。β版で俺が使っていた太刀は、しっかりと攻撃を当てても相手にダメージを与えられなかったり、スキルを発動しても暴走してしっかりと攻撃を当てられなかったりととても使いにくかった。

 恐らく、この正式版ではまともな設定になっているだろう。


 《Blade Online》のスタートメニューで太刀を選ぶと、ようこそブレイド・オンラインへという文字が浮かび、俺は眩い光に包まれた。





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