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1.暗闇の密室で男性と2人きりなのになぜかいい雰囲気にならない


 どうしようもない臭いが鼻につく。どうしてこうなってしまったのだろう。朝からの行動を振り返るけれど、どこにも間違いはない……はずだ。運動不足でもエレベーターに乗ったのは、私の部屋がある八階まで上るのが面倒だったからで。普通の思考だと思う。

 だって、自分が住むマンションのエレベーターで、殺人が起きると思う人なんていないだろう。


「はあ……」


 思わずため息がもれてしまって、慌てて対角線上の彼を見た。その視線に気づいたのか、くすりと笑われる。


「たしかに、ため息しか出ませんよね、こんな状況では」

「あなたのせいなんですけど」


 ああ、ヤバイ。注意しなければ、と思った矢先に、嫌味がこぼれるように唇からもれる。


 違う、違うから。これ、私の意思じゃなくて、条件反射だから。


 必死に弁明しても、気持ちと視線だけでは到底伝わらない。それどころか、さらに声をあげて笑われてしまった。


「面白い人だなあ、あなたは。こんな状況で、よくそんなことが言えますね」

「こんな状況だからこそ、冷静になってしまうっていうか。だって、そうしないと、生き残れないでしょう?」

「いえ、僕はあなたを殺すつもりなんて、これっぽっちもありませんよ」


 信用できない。


「というか、こう暗くては、あなたを殺すことなんてできやしません」

「そうですか」


 とりあえず相槌だけ打っておく。自分でも不思議なくらい、冷静な対応だ。

 どうやら、あまりの衝撃で感情が麻痺しているらしい、と他人事のように考える。実際、ドラマや映画をみている気分だ。こんな状況に自分が置かれているなんて、いまだに理解が追いつかない。


 エレベーターという密室は、停電のため稼動しておらず、真っ暗で。

 足元には(おそらく)血にまみれた死体。

 それをはさんで向かい側、エレベーターのボタンの前には、その死体を作りやがった張本人。

 

 私は彼と、こうして世間話をし、エレベーターに閉じ込められている。いや、逆か。

 エレベーターに閉じ込められ、やむなく話をしている。


 これも全て、台風と雷と停電のせいだ。


読んでくださってありがとうございます。

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