第10話 続・知識
しばらくして何とか威厳を取り戻した族長は改めて僕に話し始めた。
「いや、驚いた。初級魔法でこれほどの出力とは。今、幸瀬殿に唱えてもらった魔法『ファイア』は本来このような広範囲を焦土と化す魔法ではなく、火おこしなどで使用するとても初歩的な一般魔法だ。
……やはり幸瀬殿の特別性は隠せるほうがよいだろう。これを各国に知られては人間兵器のように扱われる可能性すらある。」
せっかくわだかまりを少し解消できたのに急に不穏な空気になる。転生したら人間兵器になりました、なんて絶対お断りだ。
「先ほど見せた『エアブロー』もそうですが、加減の仕方がわからないんです。だから威力が強くても工夫でどうにかなるもの以外は使わないようにしてきました。」
「なるほど。しかし、加減を覚えるのは急務だな。火を起こすたびに周囲を焦土にされてはたまらん。」
「加減ってできるんですか?」
「魔法とはそもそもイメージから成り立っている。我々を含めたこの世界に存在するものには生命エネルギーが宿されているが、その内包されたエネルギーを感じ、理を知ることで魔力として使用することができる。その理にイメージを加え魔力を具現化したものが魔法と呼ばれるものだ。
そのことさえ掴めれば同じ呪文でも威力の異なるものを出すこともできるだろう。」
「理って水はどのようにできていて、どうすると凍るか知っている必要があるということですか。」
「うむ。聞けば、転生者の元いた世界には科学という学問があるとか。そのためこの世界の人間よりも深く理を知っているのでそのイメージも強く、質の高い魔法が行使できる。だが、今回はそのイメージが邪魔をしているようだ。
威力が強いこと自体は悪いことではないが、加減ができなければ何かと不便だろう。これからは一般魔法の訓練とともに出来る限りイメージをぼやけさせる訓練をしていくとしよう。」
こうして一般的に使われている魔法を一通り教えて貰うとともに、威力を弱めるというまったく一般的ではない訓練をしばらく繰り返していくことになった。
合間にはこの世界の成り立ちや一般教養を習い、最低限の身のこなしを覚えるためにシルフィードに体術を教わる。
この世界は【エクロキア】【デルベホネ】【ルインルスアルテ】という三つの大陸でできているらしい。
位置としては【ルインルスアルテ大陸】を中心とした場合【エクロキア大陸】が東側、【デルベホネ大陸】が西側に存在する。
【エクロキア大陸】と【デルベホネ大陸】の間にはかつて四つ目の大陸が存在したが、神の怒りにより沈み、現在はどこまでも海が広がっているばかりなのだという。
ちなみに、僕がいるここ【帰着の里】は【不帰の森】という森の中にあり、【エクロキア大陸】に位置するとのことだ。
【ルインルスアルテ大陸】は三つの大陸の中で最も広大な大陸であり、多種多様な種族が住んでいるとオーベロンは教えてくれた。
【デルベホネ大陸】は最も『悪魔』の侵攻が激しい大陸のため、魔王の居城がある異空間に続く転移門があるとされているが、未だにその存在を確認したものはいないのだそうだ。
この三つの大陸はそれぞれ海沿いにある国同士が国交を結んでいるため行き来することができる。
もっとも、【エクロキア大陸】と【デルベホネ大陸】は離れているため船での移動が困難なこともあり、【ルインルスアルテ大陸】を経由する必要があるので、この二つの大陸はそこまで貿易が盛んなわけではない。
空を飛ぶ手段として魔法があることにはあるが、風魔法を極めた熟練の魔導師が単体で使用するのが関の山で、物資を浮かせて運ぶなどはできないらしい。最近はこの世界の錬金術も発達してきていて空を飛ぶための機械もできてきたそうだが、これも一般的ではないとのことだった。
一般教養の授業が終わればまた魔法の訓練、というルーティンをこなしながら時間は経っていき、転生したときは軽く暑さを感じていた気候も今では上着を羽織って肌寒さを感じるまでになっていた。
その頃には一般魔法の習得は一通り終わっており、基礎的な内容から応用的な内容に切り替わっていた。オーベロンは厳しい目つきをしているのとは裏腹に懇切丁寧に教えてくれるので、僕が知識を身に着けるのも思いのほか早いようだった。
しばらくすると、複合魔法についての訓練もしていき、帰着の里の兵士との模擬戦も増えていく。兵士とはいうが自警団に近く、里の者は全員戦闘に関しての心得があるのだという。そのため模擬戦はやるたびに相手を代えていき、気づけば里のほとんどの人たちと交流が持てるようになっていた。
そうして僕にとって故郷のないこの世界に故郷愛に似た慕情を抱き始めた頃には季節が一周しようとしていた。
一年かかってシュウに故郷ができました。




