拝啓、卒業生の君へ
未来の自分に宛てて書く手紙なら――――――
道徳の時間。
私は正直好きじゃない。
道徳は常にプリントに書いたり、他人に話したりしないといけない。私はそれが嫌いだ。
何故、人の心を言語化しようとするのだろう。
それに対して厚意を感じたならそれでいいし、嫌悪感を感じるならそれでいい。
変に言葉にすると、元々の感情が歪められ、逆に自分を正しく認知する事が出来なくなってしまうだろう。
だから、いつも道徳の授業は適当に受けているのだが……。今回は少し違う。
今日の道徳の内容はアンジェラ・アキの曲「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」の映像を見ている。中学生にインタビューとかしたりするやつ。
それ自体に興味はさほど無い。
だが、それだけでは無く、どうやら本当に未来の自分に手紙を書くらしい。
前の席から、一枚の手紙用の紙が送られる。
手紙を読むのは卒業式。
その時にちゃんと何か感じ取れるように、しっかりとした内容を書け、と先生に言われた。
卒業式かぁ……。今は中学3年の5月だから、10か月後程度だな。
何を書こう。
正直、書きたい事が山ほどありすぎて、どれから書けば良いか分からない。そもそも、この紙に収まるのだろうか。
いや、大丈夫だいつも頭の中で考えていたような事を書けば良い。
そう思うと、意外とスラスラと手が動いた。
どうせ誰にも見られないんだから、思う存分私を曝け出そう。これが、本当の私なんだと。
そうして、一所懸命に書いていると、ふと、クラスの人達の様子が気になった。
顔を上げてみるとまだ書いている人、暇そうにしている人、半々くらいである。他人の事はどうしても気になってしまうな。
あの人はどうだろう?
視線を右斜め前辺りへと向ける。桂馬で動ける位置だ。
手が動いている。だが、その速度は段々と遅くなり、やがて止まった。
あぁ、書き終えたのか。それは良い事だ。貴方に心配事が少ない事は。
私は再び書き始めた。多分、時間はそれ程残っていない。急いで書かなくては。
そして、手紙を書く時間は終わった。周りは書き終わった中、私はギリギリで書き終えた。
後ろから回収される。一番後ろなので、前の人に渡すだけ。
手紙を書いた事によって素直になれたとかは無い。
いつも通りの事を書いただけ。
だけど、1つだけ気付いた。
私って、問題だらけだ。
今までの1,2年、沢山の青春を零してしまった気がする。そして数か月の中学校生活、このままの過ごしたら、絶対に青春を歩めない。絶対に後悔する。
一生ぼっち。一生片思い。一生怠惰。
それなら……。
変えてやるよ!そんな霞んだ未来!
今から。
今からじゃ厳しいかもしれない……。だけど、やらなくて後悔するくらいなら……、やって後悔でしてやらぁ!
未来の、卒業式の君へ。
ちゃんと笑えていますか?
ちゃんと青春を楽しめましたか?
……これを手紙に書けば良かったな。