『異世界』なんかに行ったって
第1章はこのプロローグ的な何かを除いて全43話構成(総文字数はおおよそ12万字ほど)となっています。
更新間隔につきましては基本的に毎週水曜・金曜・日曜の18時頃を目途に投稿していく予定です。
初回投稿はこのプロローグ的な何か~第5話まで(6エピソード)を一気に投稿します。これ以降は1話ずつの更新となります。
1エピソードの文字数はやや多め(おおよそ3万字~4万字の間)ですが、内容も読み応えがあるよう努めますのでよろしくお願いいたします。
ファンタジー異世界!
老若男女が夢見て憧れるこの世界、たとえば色んな時代区分や文化が入り混じった西洋的様相をしていたり、もしくは異形の怪物が跋扈したり、あるいは人知を超えた特殊能力が溢れたりしていて、実に人々の心は躍るものである!
……のだが。実際今の日本に暮らしている人間が、価値観から生活様式まで大きく異なる世界に足を踏み入れてしまうと、信じられないほどの苦労を味わうに違いない。
現に不幸にも、まさに上述したような異世界に転移してしまった男性がいる。
ごく普通に日本のサラリーマンとして、地方の不動産会社で働き、何の変哲もない日常を送っていた彼。収入は特段に高いことはなく、30歳を迎えてもまだ独り身という環境だったが、その生活に大きな不満を持つこともなく穏やかな毎日を過ごしていた。
しかしある時を境に彼の人生は一変してしまう。
汗ばむような夏。男性は重要な案件の契約をまとめ、このことを夜遅くまで会社の同僚たちから酒の席で労われた後、上機嫌で家路につく。しかし自宅マンションを目前に突如として後頭部に強い衝撃を受け、それから意識を失って……。
目を覚ますと鬱蒼とした森の中で横たわっていた。
当然ながら彼はこの突然のことに混乱し、困惑し、恐怖する。だがその場にずっと居続けるわけにもいかないので、草や土によって汚れたスーツ姿のまま夜の茂みをさまよっていると、じきに朝焼けに照らされる人の姿が視界に入った。
このことに思わず安堵し、助けを求めようと声をかけようとした男性だが。
近づくにつれて言葉にできない違和感を抱いていき、じきにそれは『普通の人間』ではないと、彼は気づいてしまった。
◇◇◇
この世界には、人間の死体が醜くおぞましく変貌した『魔物』がいた。
肉体は変わり果て、生前の知能や記憶や感情を失っているにもかかわらず、人々を襲うまさに人類の脅威。
男性はそんな化物が生息する不都合かつ歪な異世界にて、皆が憧れるようなファンタジーな環境・要素を楽しむ余裕など一切なく、ただ懸命に日々を生きていた。
元の世界に戻るための具体的な策も見つからず。
戦闘の際に使えるような特殊能力も付与されず。
誰にも理解されない不安感や孤独感に襲われながら。
もちろんこの異世界から脱するための方法を彼は求めた。ところがどれだけ探してもまったくと言っていいほどその手がかりはつかめず、無情にも時間は過ぎていくだけ。
気づけば年齢だけを重ね、もう故郷である日本に帰還することも諦め、ここで一生を終えることを受け入れた。
それでも。男性はこの数奇な運命に絶望し、たとえ異世界であっても人としての道を踏み外すことなど絶対にしなかった。
なぜなら彼は、人の手によって倒された魔物の葬儀を執り行うという、世界で自分自身にしかできないその役割に強い使命感を抱いていたから。
「スキル発動:『霊魂の解放』」
令和の日本から異世界へと転移した男性は今日も手を合わせる。
不幸にも魔物と化してしまった肉体の中に取り残された、憐れな魂を弔うために。




