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神聖国にて case-20

「となると、君たちは約250年後から来たってことになるね。」

アーネストは少々驚いたように言った。


「マジかよ。なあ嬢ちゃんたち重要なことを聞くが、このジークハルトの名は後世にはどう伝わっているんだ?」


「なんにも。」


「え?」


「なんにも伝わっていないわ。」

パプリカは端的にそういった。ジークハルトの名前が学校で出てきたことはない。それに、パプリカは立場上歴史にも詳しいが、あまりジークハルトという名前に聞き覚えはない。


「ジーク、残念だったな。君は大成しないらしい。」

アーネストの方は飄々としている。


「ねえ、パプリカ。私たちが今魔獣に食われて、幻覚をみていなければ私たちは今250年前にいるってことよね?」

シルファはやっと落ち着きを取り戻したらしい。


「ええ。そうね。」


「あの状況からなら、死んだ後の世界に旅立っていると考えた方がまだ自然な気がするけど、これは現実よね?」

シルファは自分の頬をつねっている。


「私も同じものをみているもの。」


シルファは部屋の中を見渡す。

「取り乱していたから気がつかなかったけど、よくみてみたら私の屋敷と作りが似ているわ。」


「シルファさんは、この国の貴族だとか?」

アーネストはそんなシルファの様子を眺めてからそう言った。 


「ええ、私の家はバード家よ。 私の家の歴史は古いからここが250年前だったとしてもどこかにあるはずだわ。」


「そうか。シルファさんは、バード家の末裔...」

アーネストは気の毒そうな表情になった。


「どうしたの?」

シルファはアーネストの反応が気になった様子である。


「まだ、君たちが未来からきたという話を信じたわけではないが、バード家については、少々厄介なことになっていてね。シルファさんがいるということは、これからも存続していくというわけなんだろうが...」

アーネストはシルファを前に言い出しづらそうにしている。


それを見かねたのかジークハルトが入ってきた。

「アーネストは濁すからいけねえ。」


「しかし...」


「いいんだよ。嬢ちゃんたちが未来からきたってのが本当なら、お前の言う通りどうにかなるんだろうぜ。」二人はいくつかかけあうと、アーネストが折れたらしい。こちらに向き直ってきた。


「いいかい。バード家は今お家断絶の危機にある。理由は単純で、魔人と内通した疑いをかけられているんだ。」


「魔人?」

シルファはご先祖様が思いがけない危機に面していることを知って動揺する。


「ああ、魔人ヨエル。魔の森に住んでいて、太古の昔から我々に危害を加え続けてきている。」

アーネストは真剣な表情だ。


「その魔人ヨエルとシルファの家が。」

パプリカは疑いの目でシルファを見た。


「そんなわけないわ。私そんな話だれからも聞いたことないわよ。」


「冗談。仮に本当だった場合、シルファはここにはいないはず。」


「もう。」

そんな二人のやりとりをみてか、アーネストは警戒心を解いたらしい。


「実はこの一件には、私の一族も関わっているんだ。」


「アーネストが?」

アーネストは気まずそうな顔をした。


「そうだ。魔人ヨエルを追いかけ回しているのは何を隠そう、このアーネストの一族だからな。」

ジークハルトは声高らかにそう言った。


「ジーク、そんな煽るようなことを。」


「なにをいうか。こういうのは後からバレた方がよっぽど悪いんだ。」

ジークハルトは悪びれなくそう言ったが、パプリカとしてもその方が良いと思った。何せ250年も過去に飛ぶなんてことは通常ではあり得ない。この国で何かが起きようとしている。そんな中、せっかく知り合った二人だ。パプリカは密かに情報収集に努めようと思った。


「とにかく、訳のわからないことが起きて、皆さんは不安でしょうから、好きなだけこの屋敷にいてくれて構いませんよ。」

その後も一同はわちゃわちゃしていたが、タイミングを見計らってアーネストは二人にそういうとお手伝いの人間を呼び、部屋に下がらせた。


部屋にはジークハルトとアーネストが残る。


「なあ、嬢ちゃんたちの話だけど...」

ジークハルトは先ほどと打って変わって神妙な顔つきになっている。


「ええ、”未来から来た”なんてね。」


「俺も森で出会った時はまさかとは思ったが。」


「やはり、予言は。」


「まだ確証はないさ。ただ、」


「ただ?」


「時間を過去に遡るなんて能力、奇跡だろうが魔法だろうが聞いたことあるか?」


「ありませんよ。ある例外を除いては。」


「そうか。お前も。」


「もしかすると俺たちはとんでもないことに巻き込まれたのかもしれないな。」

ジークハルトはカラッと笑った。


「魔人だけでも一苦労なのに。」

アーネストの瞳は緑色から赤茶色へと変化していく。


「とにかく、彼女たちが嘘をついていないことは確かなようです。」

アーネストは手元にあった紅茶を飲み干すとジークハルトにそう告げた。


「嘘をついてくれてた方が幾分か楽だったろうに。」

ジークハルトは立てかけてあった槍を手にすると静かに部屋を出ていく。

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