神聖国にて case-19
「ここが...?」
シルファたちが街に到着するとその街並みに一同は動揺を隠せなかった。
「そんな、どうして...」
シルファは街の目立つところにあった学校を探していたが、そんな建物は影も形もない。
「これはどういうことですの...」
ローズマリーは自分の商店があった場所に別の商店が店を構えていることを知り、卒倒しかけていた。
「おいおい、どうかしたのか?」
ジークハルトはそんな様子を不思議に思っているようだ。
パプリカは今の状況を冷静に分析した。過去に色々な経験をしているパプリカにとっても、今の状況は只事ではない。一番の問題は、この場所がまったく検討のつかない場所ではなく、明確に自分たちの知っている場所であったからだ。
「ねえ、パプリカこれって」
大半の生徒たちは自分の置かれている状況を嘆くばかりであったが、シルファにはパプリカと同様に状況を分析できるだけの胆力があったのだろう。
「ええ、これはとんでもないこと。」
シルファとパプリカは見つめ合った。
「お前たちさっきから大丈夫か?」
ジークハルトは皆の様子を感じ取り、当初のこちらを揶揄った様子から実に心配した様子に変わっている。
「ジークハルト」
パプリカは、そんな彼に尋ねた。
「なんだよ。」
「今は神聖歴何年?」
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生徒たちはジークハルトの計らいで、彼の知り合いの屋敷に通された。
生徒たちの多くは自分たちが体験していることの多くに戸惑いを隠せなかったが、同時に非常に負荷の高い環境で何日かを過ごしていたからすぐに休んだようだった。
「それで、さっきの話だけど。」
パプリカはジークハルトを目の前に頭を抱えていた。傍にはシルファが居る。
「信じられないわ。今が神聖歴568年だなんて。」
シルファは顔面蒼白だ。
「嬢ちゃんたち、そんなこと言われてもなぁ。俺は嘘なんかついてないぜ。あとでアーネストにも聞いてみてくれ。」
アーネストとは、生徒たちを快く引き受けてくれたこの屋敷の主人である。
「ええ、信じるわ。ただ、現実を受け入れられなくて。」
パプリカはそう答えた。
「俺からしても嬢ちゃんたちの言ってることを信じられねえよ。未来から迷い込んだなんて。」
「そうでしょうね。あまりにも現実的ではないもの。」
一瞬、三人の間に気まずい空気が流れたが、その静寂を破るように扉が開いた。
「ようこそ、シルファ、パプリカ。そして、ジークハルト。」
アーネストは陽気に挨拶をすると慇懃な態度を崩さずにジークハルトの横に座った。
「おう、アーネスト。さっき連絡したやつらだ。」
彼は貴族然としたアーネストにまったく動じずに告げた。
「ジーク、突然のことで僕もびっくりしたよ。早速、こちらの麗しい淑女のお二人を紹介しておくれよ。」
「こっちの白い服がシルファ。こいつらのリーダー的な存在だ。話はこいつに通せば良い。
それで、こっちの獣人がパプリカ。保護してきたやつらは森に入るなんて自殺行為のへなちょこばかりだが、こいつだけは違うぜ。戦士の勘がそう言ってる。」
ジークハルトの紹介を聞くと、アーネストはパプリカたちに頭を下げてきた。
「道中、こんな雑な男が一緒でさぞ辛かったでしょう。皆様には、色々な事情がおありのようですが、この屋敷ではゆっくりと寛いでください。」
「おいおい、そんなことはないぜ。」
ジークハルトはシルファに同意を求めたが、さりげなくかわされたらしい。パプリカの援護を求めているようだったが気づかないふりをした。
「アーネスト、アーネスト卿?」
パプリカは早速、直近の疑問をこの紳士に尋ねることにした。ジークハルトの何倍も教養がありそうな顔をしている。
「パプリカ君だったかな?私のことはアーネストと呼び捨てにしてくれて構わないよ。」
彼は爽やかにそう言った。
「ではアーネスト、私たちは学校の課題であの森に入っていた。」
パプリカは横にいるシルファをみると彼女も頷いている。
「そして、何日か過ごすと本来森に生息していないはずの魔獣に襲われた。
必死に応戦したけど、歯が立たず、私が代表して助けを呼びにいったところジークハルトにたすけられた。」
「うん。僕が彼から聞いている通りだ。」
「私たちが今置かれている状況を把握するためにいくつか質問に答えて欲しい。」
「もちろんだとも。」
「今は神聖歴何年?それに、この国には奇跡を使える人はどのくらいいる?」
パプリカはそう質問すると唾を飲み込んだ。二人の眼差しが少しの時間だけ交差するとアーネストは答えた。
「今は神聖歴568年だよ。奇跡を使えるのはこの国では、数名ほどだ。」
アーネストの回答はジークハルトと一致している。
「次はこちらが質問しても?」
アーネストは己の回答を聞いて、頭を抱えているらしい二人に興味を持っているらしい。
「ええ。」
「君たちは今が”いつ”なのかが重要な様子だけど、君たちの認識では今は”いつ”なんだい?
それに、君たちが彷徨っていた森は迷いの森。魔獣が生息していないどころか、この国でも指折りの危険な場所さ。ジークハルトはこれでもかなりの使い手だよ。
そんな彼でも滅多に奥にはいることは少ない。そんな場所にどうしていたの?」
アーネストはこちらを品定めするような視線を投げかけた。
当然だろう。
彼からすれば、ジークハルトに言われて屋敷に招き入れただけであって、なんの義理もない上、今が”いつ”かなんてことを聞いてくるなんて、逆の立場であれば怪しい。
「驚かないで聞いてほしいんだけど、私たちの認識だと、今は神聖歴828年よ。
そして私たちにとってあの森は、魔獣のいない安全な森。」
パプリカはアーネストにそう告げた。




