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神聖国にて case-16

「大丈夫か?」


男は槍の攻撃を受けて魔獣が怯んだすきにパプリカの側に位置どった。


パプリカは一瞬警戒感を持ちながらも彼が純粋に自身を案じている様子を見て、場の趨勢を委ねることにした。


「間一髪...といいたいところだが、凄まじい身のこなしだったな。」

男は魔獣に注意を払いながらもパプリカを気遣っている。


「貴方は一体?」

パプリカが男に素性を尋ねようとしたが、同時に魔獣も反撃にでた。


男が先ほど放った槍は、魔獣の右肩を深く抉ったが、致命傷には至らなかったようである。

いつの間にか男の槍は手元に戻っており、魔獣が大きな腕をいからせて振り下ろした一撃を容易く受け止めた。


パプリカは内心男のことをすごい使い手だなと分析した。通常、人間の膂力では魔獣の攻撃など防ぎようがない。彼は奇跡をつかっている様子はなかったし、魔獣からの連続攻撃をいなし続けている。


それどころか、完全に優勢に立っている。


いくつかのやりとりを経て、痺れを切らした魔獣が大振りの攻撃にでた瞬間、隙を着くように魔獣の頸動脈を深々と突き刺した。


男は熊型の魔獣が絶命したことを確認すると、パプリカに尋ねた。


「嬢ちゃんはこんな危ないところで一体何をしているんだ?」


「学校の課外授業中に魔獣に出会った。」

パプリカは端的に内容を伝え、男にシルファたちの救出を頼んだ。


「この魔の森で課外授業?正気の沙汰とは思えないが...」

男は怪訝そうな反応をする。


「仲間がいる。救出を待っている。貴方の腕を見込んで助けて欲しい。」

男は半身半疑であったが、パプリカはなんとか押し切った。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


パプリカが助けを呼びにいってから、シルファたちは防戦一方となっていた。

彼女が助けを呼びに行って数時間が経ったが、どんなに早く救助隊が駆けつけたとしてもさらに数時間はかかるだろう。


シルファの奇跡は強固かつ、持続力に優れたものであったが、諦めの悪い魔獣たちの攻撃に晒されて、徐々に押されてきている。


数日とはいえ慣れない野外活動も彼女の集中力を削ぐ要因となったに違いない。


モニカの活躍で少しずつでも魔獣に対して反撃を行なっているが、むしろ彼らを怒らせているのではないかと心配になってくるほど彼らの攻撃は激しい。


「やっこさんら、なかなか諦めが悪いね。」

モニカは自嘲気味に言っている。


「シルファ様、お水です。」

奇跡を展開するシルファを気遣うローズマリー。キャロラインは、手当たり次第に魔獣たちに石や物を投げつけて少しでも役に立とうと頑張っている。


各が精一杯に状況を打破しようとしている時、そのタイミングは急にやってきた。


激しさ一辺倒で、動物的な直感に基づいた連携はあるものの、行動の精細に欠く魔獣が一斉に遠吠えをしたかと思うと攻撃をやめて後ずさったのである。


一同は、退却の合図かと考えて期待をしたが、その期待は悪い方向にて裏切られた。


うっすらと白くなってきた空模様と対照的などす黒い体毛につつまれた一際大きな魔獣が森の奥からゆっくりと前進してきたのである。


シルファはその姿を視認すると息を呑んだ。直感的に死を覚悟したからである。

自身の奇跡では守りきれそうにないと感じたのである。


その一際大きな魔獣は狼の姿ながらもある種の神々しさのようなものまで身につけている。


「おい、あれは」

モニカがこの後に紡ぐはずだった言葉は言わなくても皆理解していた。


彼がこの狼の魔獣たちのボスであり、その威風は比べ物にならない。


ボスの魔獣がシルファたちへかなりの距離近づいてから、彼は人間など一口で丸呑みにできそうな口を大きく裂いて遠吠えを挙げた。


シルファは気を張り、奇跡にこめる力を強化したが、同時に信じられないことが起こる。


魔獣の遠吠えにより、シルファの渾身の奇跡は砕け散ったのである。


一同は彼の登場により、最後の拠り所を失ったのである。


シルファは再度奇跡を活用して、結界を張ろうとしたが、先ほどのように筒状にして皆を包みこむのが難しくなっていることに気がついた。結界を張った側から崩れていくのである。


自分たちが窮地に追い込まれていることを理解するのに時間はかからなかった。


「パプリカ、ごめんなさい。せっかく助けを呼びにいってもらったのに。」

シルファはパプリカへの気持ちを噛み締めると自分たちに興味を無くしたように振る舞っている彼を視線でおった。

周りの魔獣たちは今かいまかと飛びかかるのを堪えているようにも見える。


一同は絶望の淵に立たされながらその日の朝を迎えたのである。

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