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神聖国にて case-15

パプリカは全身に魔獣の臓物を塗りたくっている。


キャロラインのインビジブルの奇跡だけでは、魔獣を欺くのは難しかったが、鼻が曲がるような匂いと引き換えにパプリカは己の体臭を消した。


目指す場所は、この課外授業の集合地点である。

そこには、担当の人間が滞在しているはずだ。


この国では、魔獣の生息が長年確認されていなかった。急に発生した理由こそ分からなかったが、パプリカはそこに今回の任務の重要なキーが隠されていると推測したのである。


「この分だと...」

身を隠し、移動するパプリカは、夜の闇の中にいくつもの魔獣の姿を見た。


自分たちの身を守る術を知らない同輩たちがどのような目にあっているかは想像に難くない。


いかに実践的な訓練を受け、一撃必殺の魔法を駆使するパプリカとはいえ、状況的にはあまりよくない。

早期の解決のため、パプリカは先を急いだ。



--------------------------------------------------




「計画は順調かね?」

暗いどこかの部屋でネフィリムは神聖国より遥か東方にある大陸から取り寄せた煙草を燻らせながら闇の中を尋ねた。


「はい、順調も順調でございます。今頃、生徒たちは一人残らず我が僕たちの腹の中でしょう。」

部屋の隅から煙のように現れた"そいつ”は自身たっぷりに答えた。



「そうか。」

ネフィリムが短く答える。


「つれないお人ですね。もう少し気さくになってもよろしいのでは?」

”そいつ”はネフィリムを揶揄うように微笑む。


「...私は、お前を軽蔑している。必要以上に関わるのはやめておきたい。」


「残念ですね。」


「報酬は用意したはずだ。お前の輩に生徒たちはもったいなかったかもしれぬが。」


「計画のため。でしょう?」


「ああ。」


「それでは最後にそこのものをいただいていきますよ。」


”そいつ”が指をさした先には、以前ネフィリムの秘書として働いていた男の無残な姿がある。


「静かに頼むよ。」

ネフィリムがそういうと、”そいつ”は、男の頬を愛しそうに撫でた。



------------------------------------------------




パプリカが森の中を疾走しはじめてからかなりの時間が経った。

方向感覚が鋭い彼女は、しなやかな体躯をバネのように弾ませて先を急いだ。


あともう少しで課外授業の開始場所に到着しそうになった時だった。


パプリカの野生的直感が、彼女の背丈ほどもある大きな腕から繰り出される一撃を紙一重で避けさせた。


「...っ」

一瞬、パプリカは死を意識した。自分の判断を少しでも疑っていれば、一瞬で肉塊になっていたかもしれないと想像させる一撃だったからだ。


「雨か...」

昨晩から断続的に降り注ぐ雨は、最初に比べれば落ち着いていたもののパプリカの体に付着した魔獣の匂いを洗い流すのには十分な役割を発揮したのである。


普段なら喜ぶべきことかもしれないが、今はそうではない。


パプリカは、森で最も遭遇したくない魔獣、熊型の魔獣にマークされてしまったのである。


無論、彼女の魔法を使えば強力な熊の魔獣とはいえ、一撃で葬ることができるのであるが、パプリカは切り札を切るには早すぎると考えた。

それは、付近に他の魔獣がいないとも限らないし、次に魔法が使えるまでインターバルが存在するため、任務のためにも可能な限り温存したかったのである。


パプリカは、懐から短剣を取り出すと熊の攻撃を避けて急所を狙う。

悲しいかな、致命傷になりえない傷を魔獣につける。

その魔獣の皮膚の硬さから、パプリカは長期戦になることを覚悟した。


魔獣が傷をつけたパプリカに対して、大きく腕を振りかぶり、爪をギラつかせて彼女の身を引き裂こうとする。彼女はそれを最小の動きで避け、再度急所を目掛けて短剣を振るおうとする。


その瞬間、熊の魔獣目掛けて槍が飛んできた。

串刺しになる魔獣。叫び、怒り狂った相で槍を投げた方を睨んだ。


そこには、男が立っていた。赤い長髪を一つに結び、肩に十字の紋章をつけた男が。

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