神聖国にて case-13
パプリカがそういうと、森の暗がりの中に魔獣たちの赤い眼光が一つ、また一つと増えていく。
「どうやら状況は最悪のようね。」
シルファは皆を見ながらそういった。
「そんな、こんな数...」
ローズマリーは目の前の光景が信じられないようで腰を抜かしそうになっている。
無理もない。普段は魔獣はおろかまともに森にはいったこともないのだから。
「キャロラインの目が節穴ってことはないようだが、被害者は増えそうだな。」
モニカは表情を固くしながらも微笑を浮かべて、手斧を構えた。
「来るわ。皆一塊になって。」
パプリカは芯の通った声でそういうと、杖を構える。
魔獣たちの唸り声は経験の浅い彼女たちをすくみあがらせるには十分だったようだ。
まるで先遣隊のように、一頭の魔獣がパプリカたちを目掛けて突っ込んできた。狙いはキャロラインらしい。案内役は用済みということだろう。
血走った眼光でこちらを捉え、獲物を捕食するために発達したであろう大きな牙をこちらに向けて突進する。キャロラインは固まってしまっている。このまま彼女の首筋にその牙が刺さり、絶命するのに数刻もかからない...
魔獣がこちらにむけて十分な助走を経て飛びかかってきた瞬間、パプリカは杖を大きく振り下ろした。
「ストライクね。」
タイミングよく振り下ろされた杖は魔獣の脳幹を捉えたらしい。彼の獣は悶絶している。
「誰かドドメを」
パプリカがそういった途端、すぐに動けたのはモニカだった。
持っていた手斧で魔獣の首を渾身の力で斬りつけた。
「よし。」
魔獣は動かなくなる。
「油断しないで、次がくるわ」
パプリカはモニカにそういうと四方を動きまわり、こちらの様子を窺っている魔獣たちを目で追う。
「シルファ、ぼさっとしないで奇跡を張って」
パプリカはシルファを見つめる。
シルファはパプリカの動きに見惚れていたのか、魔獣たちの動きにすくんでいたのか、咄嗟の判断が遅れたが彼女にそう言われることで意識を取り戻した。
「ええ。すぐに。」
シルファは奇跡を唱える。
「皆、シルファの元に集まって。」
シルファが結界を張る。
魔獣たちは一斉に飛びかかろうとしていたが、結界を避けて一定の距離を取った。
「助かったわ。」
ローズマリーは安堵している。
「どうだか。やっこさんはそうは思ってなさそうだぜ。」
モニカの言う通り、魔獣たちは皆を囲むように布陣している。
「ごめんなさい。ごめんなさい。こんなことになってしまって。」
キャロラインは、結界によって話す余裕ができたのか。泣きじゃくっている。
よほど先程の攻撃が応えたのであろう。
魔獣たちが定期的に突進をしかけるため、結界内部には大きな音が響く。
「パプリカ、このままじゃ。」
シルファは結界の維持に力を集中している。
皆がパプリカを見た。状況に動揺していないからか、彼女の先程の動きに希望を見出しているからか。
「そうね。このままじゃ私たちは全員魔獣たちの胃袋の中だわ。」
「何か策はないの?」
ローズマリーは縋るように聞く。
「あるわ。時間はかかるけど。」
パプリカはあっさりと言う。
「それはどういう?」
モニカは尋ねる。
「一匹ずつ殺していく。そして、この群れのボスにあたるやつを引きずりだす。
あとはそいつを始末すれば残りのやつは散っていく。
私たちついているわ。狼の魔獣は群れの動きに忠実。あちらの関心よりも被害の方が多いと理解すれば去っていく。
もしこれが、単体で活動しているような魔獣とであっていたら、今の戦力では確実に全滅だもの。」
一同はパプリカがツイているといったことに少し驚きがちだったが、彼女があまりにもあっさり言うので落ち着きを取り戻す。
「簡単そうに言うけどどうやって引きずりだすのよ。」
とシルファ
「あなた、結界を部分的に消すことはできるのよね?」
「ええ、まあ。大体でよければ。」
「それでいいわ。皆聞いて。」
皆が注目する。
「作戦はこうよ。まず、シルファの奇跡を意図的に弱める。
タイミングよく数頭の魔獣を結界内にいれるのが目的。」
「それで?」
モニカは興味津々のようだ。
「あとはシンプルよ。皆で嬲り殺すのよ。ローズマリーとキャロラインはシルファの護衛。
シルファが死んだら全滅だから。命に変えても守ってもらいたい。
だから基本的には私とモニカで魔獣どもをボコボコにするの。」
「そんな作戦。」
ローズマリーは戦々恐々としたままだ。
「ローズマリー、それとあなたは持ってきている変な匂いの粉を全部ばら撒いて。
少しは邪魔ができるわ。」
「あなた、あれがいくらするのかわかっているの?」
パプリカはローズマリーの質問に一瞥して応えた。
「わかったわよ。」
「ではやるわよ。」
パプリカはシルファを見つめた。モニカは手斧を握り直す。
「ええ、やりましょう。」
シルファは強い決心を感じさせる眼差しを魔獣たちに向けた。




