神聖国にて case-12
「魔獣?そんな...」
ローズマリーは動揺を隠せない様子だ。
「他のみんなは?」
シルファはパニックに陥っている彼女に冷静に聞く。
「みんな置き去りに...」
彼女は後ろめたそうにしている。
一同は森の中を見つめたが、雨が葉をうつ音が徐々に強くなるばかりであった。
「助けにいかないと」
シルファは声を絞り出すように言った。
「おいおい、いくらなんでもそれは自殺行為じゃ。」
モニカは反対している。
「私もそう思う。夜の森の中を動き回るのは、危険。それにこの雨は強くなる。」
パプリカはモニカの意見に同調する。
「パプリカ...」
シルファはパプリカを見つめる。
「それに、この人たちが見た獣が魔獣だという確証はない。ただの獣をそう勘違いしたということもあり得る。」
パプリカは逃げてきた彼女を訝しげに見ながらそう言った。
「猫耳、私の目が節穴だっていうの?」
彼女は若干錯乱状態であるためかパプリカに掴みかかる勢いだ。
「ちょっと。」
ローズマリーは二人の間に入っている。
「そうは言っていない。なら、あなたがみたという魔獣の特徴を教えてくれる?」
「そうね。相手の特徴はそのような対処をするにしても知っておく必要があるわ。私からも教えてくれるかしら。キャロラインさん。」
シルファは落ちついた様子で逃げてきた女の子、キャロラインに伝える。
キャロラインはパプリカを一瞥した後に特徴をはなしはじめる。
「あれは今から数時間前のこと。」
彼女は深刻な表情をしている。
「なにせこんなところで寝るなんて初めてのこと。
私のチームの皆は、森が安全でないことは知っていたけれど適当に食料だけを確保していけばどうにかなるだろうと考えていたわ。
だからこそ、日が落ちはじめてからどこでどのように休息を取るのかを話しはじめた。
天気が悪くなりそうな予感がしたから、できれば雨風をしのげるところが良いって誰かが言い出した。
特に反対する理由もないから私たちはあまり木の生えていない森の岩場を中心にそんな場所を探した。
私たちがやっとの思いでそれなりに良さそうだなと思う場所を見つけた時、少し遠いところから遠吠えのような音が聞こえた。
それを聞いてすぐに嫌な予感を覚えたわ。
チームの皆ですぐに場所を移動しようという話になった。でも遅かったの。
彼らは私たちを取り囲んだ。幸い、私たちの周りは岩に囲まれていて、一つの出入り口を塞げば彼らは入ってこられない。私たちはとっさの判断でその入口を隠した。
そこには私の”奇跡”を使ったから簡単には見破れないはず。
それで皆で話し合って、私が助けを呼びにいくことにしたの。
私は自分にインビジブルの奇跡を施して、森の中を一目散に駆けた。
そこで見たのよ。
大きな牙と大きな爪を持った狼のような獣を。しかも一体ではなかった。
私はもう恐ろしくて恐ろしくて、足がすくんだわ。だけど、仲間のため、皆のために勇気を振り絞って!」
彼女の話が劇的になりかけたところでシルファが質問をした。
「それは貴方の見立てでは狼ではないってことよね?」
「はい。シルファ様。いかに私といえ、狼や野犬くらいであれば過去に対峙したことがありますわ。
あれはそんな枠に収まらない存在だった。
目が血走って、今にも仲間同士で共食いしそうなほど獰猛で、足から頭までの高さは私たちと同じくらいの大きさがあった。
そんな狼が存在して?」
キャロラインはパプリカを見る。
モニカはその様子に小さくため息をついた。
「仮にそんな獣、魔獣が存在するとして、それも複数。
これは一生徒がどうこうできる問題なのかよ。はやく大人たちに連絡して、それこそ騎士団や兵士たちに動いてもらうべき事柄なんじゃないか。」
「モニカ。いざという時は案外まともなことを言うのね。私も彼女の意見に賛成だわ。
いかにパプリカさんが野営になれているとは言っても、私たちが助けにいっても被害者が増えるだけよ。」
ローズマリーはそう続ける。
「しかし、今この時も怖い目にあっている同窓を放っておくことにもなりますよ。
それにキャロラインさんの奇跡はいつまでもつのかしら。」
とシルファ。
「私の奇跡はもって12時間。ただ、自分にもつかったから、実際はもっと短い...」
「貴方が逃げてどのくらいの時間が?」
シルファは問いかける。
「すでに3時間ほどは経過しているはず。」
「ということは、ほとんど時間がないと言ってもいいわけね。」
シルファは頭を抱えている。
一同は口を閉ざした。
そんな様子に黙っているパプリカはようやく口を開く。
「仮にその獣が狼の魔獣だった場合だけど、この状況で私たちに残されている選択肢は限られているわ。
悩むことはない。」
「それってどんな?」
シルファはパプリカに尋ねた。
「私の経験上、魔獣っていうのは私たちが考えているよりもずっと賢いわ。
キャロライン。貴方の奇跡インビジブルは姿を消す能力のようだけど、これは魔獣とすごく相性が悪い。
どうしてかわかる?」
キャロラインはパプリカに呼び捨てにされたことにすこし面を食らっていたが、振り絞るように答えた。
「...わからないわ。」
「簡単なことよ、獣は鼻が効くってだけよ。それに獲物を獲得することにとっても貪欲だわ。」
パプリカは耳を揺らして応える。
「それって。」
モニカは顔を引き攣らせている。
「なに、どういうこと。」
ローズマリーは察しが悪いようだ。
パプリカはあたりを見回してから、シルファを真っ直ぐに見つめてこう言った。
「囲まれたわ。」




