共和国にて case-10
パプリカはその後もタベルナでの仕事を隠れ蓑にして、共和国での日々を過ごしていった。
「イベントまで後2週間ほどですな。」
セイフォンはなにやら誇らしげにしている。
「貴方、出場するつもり?」
パプリカはコーヒーを片手に座っている。
「出場資格は満たしておる故、検討中でござる。」
「貴方剣闘士として少し有名になりすぎじゃない?」
「正体はバレていないので大丈夫でござるよ。」
呑気なものだ。セイフォンはあれから何度も大会に出場して勝利を収めていた。
東国風の剣士は珍しい上、女性なので一部の層からの人気が半端じゃないらしい。
「それよりも例の噂を聞いているでござるか?」
「噂とは?」
「剣闘士等が反乱を企てているんじゃないかって噂でござるよ。」
「それなら私も仕事中に聞いたわ。でも、そんなことが可能なのかしら。」
二人はこの共和国での生活にも慣れ、この国の統治についてより詳しくなっていた。
はっきり言って奴隷が反乱を起こしてもすぐに鎮圧されるのがオチだろう。
「いろんなところの恨みを買っているという意味では間違いないのだろうけど。」
パプリカは遠い方向を見ている。
「それよりも後2週間とちょっとで潜入任務も終わるでござるな。それがしは名残惜しいでござるよ。」
彼女はパプリカに抱きついた。セイフォンはこの数ヶ月の間、束の間の充足感を味わっている。
「ちょっと、暑苦しいわよ。」
パプリカはセイフォンを押し退ける。
「それがし、祖国を離れてからこんなにも心を通わせる友人を経たのは久しぶりでござる。」
セイフォンはパプリカに懐いていた。
「私も貴方の料理が食べられなくなるのは残念だけど...」
パプリカは頭の中に様々な料理を思い描き、本当に残念そうにしている。
「パプリカ殿の魔法を早く見てみたいでござる。数多の強者たちを葬ってきた技を。」
彼女はワクワクしているようだ。
「貴方だって組織の中では、私なんかよりもかなり上位の存在じゃない。」
「それは白兵戦でのこと。世界にはそれがしの技でも倒せない敵がいくらでもおります。それをパプリカ殿は一度もしくじったことがないどころか、到底暗殺など考えられないような強者でも問題なく倒してしまう。それがしは組織の中で一番の能力者はパプリカ殿と考えているでござるよ。」
「でもかなりの制約があるわ。」
「それは些細なことでござるよ。」
彼女はそういうと最近の組織の中での動きについて説明した。誰がどういう能力を持っているのかやどの地域の魔族が厄介なのか、そして一体なぜ自分が組織に所属しているのかも。
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マキシマスは困惑していた。
この数ヶ月で剣闘士たちの中でもまとめ役になってしまったのである。
マキシマスは連戦連勝により、その剣闘士の階級が平民まであがっていた。
そして彼は年若い青年剣闘士たちからの人気が日に日に高まっているのである。
それはなぜか?
彼が上手に彼らに武芸の指導をし、さらに剣闘中にはテレパシーを使って上手に相手を倒すからである。
無論、考えに同意しないものは叩き切った。
しかしながら、彼のおかげで命拾いした者の数もそれなりに増え、その人柄からも人気がでる始末というわけだ。
この国は2週間後に大きなイベントを控えている。その油断に乗じて、騒ぎを起こし、この国から逃げないかと冗談で言ったところ、あれよあれよと作戦が進み、そのまとめ役におさまったという訳である。
『マキシマス、能力持ちの情報はこんな感じだ。』
一人の男がテレパシーを使っていくつかの情報を共有した。
「結局、次のイベントには参加せざる負えないな。」
マキシマスは可能であればただ騒ぎを起こして、その混乱に乗じて逃げ出そうと考えていたが、混乱を起こすにはやはりイベントに参加して勝ち上がり名声を手にする必要があると悟った。
もしくは、決勝戦に参加してくるアリヤバンを自分の手で殺すのもありかもしれない。
八百長試合になることは間違いないが、復讐を果たす好機であることは間違いないのだから。
「マキシマスさん、お水です。」
一人の青年が彼に話しかけた。
「すみません。邪魔でしたでしょうか?」
一瞬考え事をしていたマキシマスの表情を見て彼は怯んだらしい。
「スルタクス。ありがとう。」
マキシマスは彼に微笑みかけた。青年は15歳ほどであった。
彼の髪の色が祖国で死んだ妻を思い出させた。もし、自分たちに子供がいればと考えることもある。
「どちらにせよ。最後まで足掻いてみせるさ。」
マキシマスは水を飲み干す。




