魔物
『魔物。
それは生物全体に危害を加える無機物生命体である。
繁殖機能を持たず、感情を持たない。
生物らしく振る舞ってはいるがどこか違和感を感じる。
その発生理由はいまだに解明されておらず未知のままである。
魔物は魔石と呼ばれる核を中心に魔素を使って体を整形する。
より上位の魔石になればなるほど知能が高く、より協力な個体となる。
魔石は人類史発展に多大な影響と恵みを与えているのだがそれはまた別の章で語るとしよう。
言葉を喋る個体も発見されており、魔人と呼ばれる。
魔人と魔物の一番の違いは知能の高さと操る魔法の使用方法だろう。
最上位魔物と最下位魔人なら強さだけ見れば最上位魔物の方が強いがより知能が高い最下位魔人の方が厄介な存在である。
魔物が生物全体の敵と言うのは魔物は血肉を喰らうからである。
正確的には生物の体にある魔素を摂取するのが目的である。
家畜を襲い、人を襲う。
いつの時代からか家畜と昆虫以外の生物は自然界で全く見なくなったという。
魔物が食べてしまうからである。
魔物は草木や空気からも魔素を摂取することができるそうだが、血肉を食べる方が圧倒的に魔素を効率よく吸収できることが実験で明らかになっている。
そのため魔物は生物を襲う。
魔素は魔物の体を形成する魔石以外の全てである。
形は動植物を真似ていても、ダメージを負えば血ではなく形を保てなくなった魔素が粒子となってちりじりになる。
常に新鮮な魔素を取りこみ続けなければいずれその体も保つことができずただの魔石となってしまう。
より上位の魔物ともなると空気中の魔素だけではその膨大な魔力によって形成される体がいじできなくなるため、より多くの魔素を体に溜め込んでいる人類を襲う。
一度にある一定量の魔素を摂取することにより強い魔物へと変化することも確認されている。
魔物同士の共食いは決してしない。
正確には死んで格だけになった魔石を食べたりはできない。
研究によると魔物に無理やり魔石を摂取させたところ、食べた魔物の核である魔石と拒絶反応を起こし魔物は魔素のチリとなり魔石は粉々に砕け散ったとのこと。
魔物が魔石を食べるのを拒んだのも本能で食べてはいけないと知っていたのかもしれない。
魔物が一体いつからこの世界にいるのかは不明だが、人類と魔物この生存競争の行方は果たしてどちらが勝利するのか実に結果が気になるところである。
作者 ローデンス・スクナータ 理解不能に満ち溢れた世界より 一部抜粋 』
鳥型の魔物はスピードを落とすことなく猛スピードでどこかに行こうとしている。
ムゲンを食べるのが目的なのだろうが、一体どこに向かっていると言うのだ。
ムゲンもなす術がないわけではないのに宙ぶらりんのまま鳥型魔獣に運ばれている。
お前の持っているその杖は飾りか!
空からの景色でも楽しんでんのか!
「兄さんが私のこと心配して追いかけてきてる。兄さんがんばれ!昔本で読んだ攫われたお姫様を助ける王子様の物語みたいでドキドキしちゃう。あ、ラプラス。今いいところだから邪魔しないで」
空中を自在に動けるラプラスを先行させて、鳥型魔物に追いついたみたいだが何かムゲンに言われたみたいで鳥型魔獣を攻撃せずにそのまま空中を並走し始める。
ちょっと待てい!
何一緒に楽しく空のお散歩しちゃってんの!
俺の足の速さでは全然追いつけずに気がついたら段々と豆粒みたいに小さくなっていく鳥型の魔物。
こんなことなら、俺がラプラスに乗ってムゲンを助けに行けばよかった。
と言うか人1人運べるほどの鳥型魔獣、あれほどのデカさなら上級魔獣クラスだろう。
それくらいならムゲン1人でどうにかできるだろう。
何を考えて無抵抗で連れ去られているのかは、わからんがあいつ結構強いからな。
米粒くらいになったムゲンはどうやら自分で鳥型魔獣を倒したらしく、チリとなった魔獣は格だけ残しムゲンと自由落下していった。
ムゲンの使える魔法ならあの程度の高さから落ちてもかすり傷一つ負わんだろう。
ラプラスもついていることだし、落下地点まで行くとしますかね。
そこまで遠い距離ってわけでもなさそうだし。
その前に先ほどから気になる視線が体に突き刺さる。
「言葉が通じるかは、わからんがいるんなら出てこいよ!俺は逃げも隠れもしねぇぞ!」
俺の叫び声に出てきたのは、6体のゴブリンと呼ばれる最下級ランクの魔人。
一応言葉は話せるが頭が悪く、使ってくる魔法も弱い。
「オ、オマエ、ウマソウジャナイ。ベツニオソッタリシナイ」
ゴブリンの一体が俺に話しかけてくる。
カタコトで聞き取りづらいが、本当に魔人ってのは喋れる時点でタチが悪いな。
「オレタチ、シズカニクラシタイ。カンショウシテコナイナラ、ナニモシナイ」
「ハヤクドコカニ、イッテ」
他のゴブリンが何かを言おうとする前に俺は1番近くにいたゴブリンの元に走りその勢いを利用して、拳骨でぶん殴った。
ラプラスを装備していないとはいえ、前世から鍛え上げた戦闘スタイル。
ゴブリン如きならワンキル確定の必殺技である。
殴られたゴブリンの頭はひしゃげそのまま、黒いちりとなり魔石となった。
「コノ、ナニヲスル」
他のゴブリンが動揺し、俺に各々の魔法を放ってくる。
威力は弱いが十分に人に痛みを感じさせることが可能な電気魔法を三体のゴブリンが放つ。
三体の放った電気魔法は混ざり合い、より威力の強いものとなる。
残り2体のゴブリンのうち、一体は光魔法を使い眩い光を放ち俺の目をくらませる。
一体一体の連携がきちんとできている。
これは裏に間違いなく指示を出している上級魔人クラスの指導者がいるな。
俺は放たれた電撃をものともせずに体で受け止める。
三体のゴブリンは特に動揺するそぶりもなく、電気魔法を放ち続けるが全く効いていない俺の姿を見て攻撃をやめて逃げ出そうとするがもうおそい。
ゴブリンたちはすでに俺の拳が届く範囲にいるので先に電気魔法をつけってきた三体をぶん殴って消滅させる。
その一瞬のうちにさっき光魔法を使ってきたゴブリンがもう一度眩い光を放ち目眩しをしてきたが、さすが最低級魔人知能が低い。
先ほど魔法が効かないってのは、見てわかるだろうに。
光を放った隙に逃げ出そうとするゴブリン。
頭をそのまま鷲掴み、地面へと叩きつけた。
あと残っているのは一体とあたりを見渡すとどこにもいなかった。
どうやら逃げ出したようだ。
ゴブリン如き最低級魔人の一体ごときなら、見逃しても特に問題ないのだが裏に上級魔人クラスがいるなら話は別だ。
今の状況を報告されたら後々厄介なことになるだろうからな。
幸い、足跡ががっつりついていたので走ってその跡をおうと必死にげている最後のゴブリン。
ゴブリンは俺に気づくと逃げるのをやめてその場にひれ伏した。
「オネガイ、コロサナイデ。カ、カゾクガイルンダ。タノム。イヤダ。シニタクナイ」
必死に命乞いする様を見て憐れみのような感情はなに一つ湧いてこない。
俺はゆっくりとゴブリンに近づく。
「コンヤクシャモイルンダ。タイセツナヒトタチガカエリヲマッテイル。オレダケデモミノガシテクレ、タノム」
「どこで覚えたかは知らなんだが、魔人の命乞いなんざ、これっぽっちも心に響かないんだよ」
俺は振り上げた足を思いっきりゴブリンの頭に叩き込んだ。
最後のゴブリンもチリとなり、一つの小さな魔石だけがその場に残った。
俺は落ちていた魔石を拾い上げてムゲンが落ちた場所であろうところに向かった。