出発
次の日、早速出立準備をした俺たちは勇者両親である、インクルシオ夫妻に王都に行句ことを告げにいった。
この際にはもちろん、勇者の詳細は告げずに勇者のやつに成人祝いを送り届けるから、少しだけ王都に行ってくると伝えた。
「大丈夫かい?ユウトちゃん?そりゃあユウトちゃんが強いのも知ってるし、ムゲンちゃんが凄腕の魔法使いだってのは分かってるけど。おばちゃんは心配なんよ?特にムゲンちゃんなんか魔物にとってはごちそうそのものだし」
「母さんの言うとおりだ。せめて次に行商人の一行がきたときに共に連れていって貰えばいいじゃないか」
インクルシオ夫妻は心配そうな表情を浮かべて、俺たち兄妹に言う。
次の行商人が次来るのはいつもの周期ならおよそ半年後、別に待てないわけではないがもしその時、今みたいに都合のいい状況とも限らない。
俺は首を振った。
「大丈夫だよ。おじさん、おばさん。もしものことなんか絶対起きやしないからさ。三ヶ月ほど留守にするけどその間村の警備のことよろしく頼むよ」
勇者の両親であるインクルシオ夫妻がこの村を離れられない理由はこの村の警備隊の隊長と副隊長がこの夫婦だからだ。
特に最近は魔物の動きも活発になり、ついこの間スタンピートと呼ばれる魔物の大群が村を襲撃してきたほどだ。
スタンピートは撃退でき当分は魔物による襲撃も当分はなくなるので、俺は王都へ向かうことに決めたのだ。
一応、俺とムゲンも戦力に数えられてはいるが、スタンピートや上級魔族クラスでない限りこの村の精鋭たちが魔族に劣ると言うことはあり得ないという、信頼もあるからだ。
「全く、一丁前なこと言うようになりおって。わかった王都の土産楽しみにしているからな。バカ息子にもよろしく伝えといてくれ」
「了解だよ、おじさん!あのバカにはこのムゲンがしっかり伝えといてあげる。おばさんはなにか言うことある?」
ムゲンがそう聞くとおばさんは椅子から立ち上がり、座っている俺と無限を後ろから抱きしめる。
「あの子には元気でいるなら、せめて手紙の一つでもよこせって言っておいて。それと2人は必ず無事に帰ってくるんだよ。私にとってはあんたらも可愛い子供なんだから」
「おばさん」
強く抱きしめられ母からの愛情のようなものを感じる。
この世界に転生して、もう本当の母親には会えないけどそれでも親からの愛を感じられる俺は幸せ者だ。
「よし、母親パワー注入完了!気をつけていっておいで、帰りがあまり遅くなるんじゃないよ」
「うん!行ってきます!」
「行ってきます」
インクルシオ夫妻の家から出るとどこから聞いてきたのか他の村人たちも集まってきていた。
というか、村人ほぼ全員いるんじゃないのかこれ?
老若男女合わせて100人ほどの辺境の小さな村でほとんどの人間が顔見知りだ。
決して生きていくには安全とは言えない辺境な場所だがそれでも村人たちがお互いさせ合って生きてきた。
15年前この世界の右も左もわからなかった俺を当たり前のように受け入れてくれた人々。
ここはとても俺にとって温かく心地のいい場所だ。
この世界での俺の故郷だ。何があっても必ず帰ってきてやる。
「いってらっしゃーい!」「気をつけろよ!」「みあげばなしたのしみにしてるからね」「道中魔物にお気をつけて」「嫁さん、旦那でも見つけって帰ってこいよ!」「あんたらがそのままできちゃってもいいからね!」「りゃあちげぇねぇわ」「バカにもたまには帰ってこいって言っといて!」「できることならこの村に移住してもいいって人間を1人でも連れてきてくれると嬉しいぞい!」「村長それは今言うことではないでしょう。まぁ行ってこい死ぬんじゃねーぞ、がっははは」
いろんな人のいろんな声が混ざり合ってもはや何言っているのかわからないけど、あとムゲンなんでお前少し頬をあからめてるの?
「行ってくるわ!土産話に勇者の英雄譚でも持って帰ってくるかんな!」
「いってっきまーす!」
みんなの声援を受けながら手を振って歩き出す。
ラプラスもピョコピョコ空中に上下に全体を動かす。
まぁ、のんびりと行きますか。俺の故郷じゃ時はかねなりと言う。
つまり金も時間も無駄に使うのが一番贅沢ということだ。
成沢な旅にしようじゃないか、なんたって初めての家族旅行なんだから。
みんなの声が聞こえなくなり隣にいるムゲンに声をかけようとムゲンの方を見る。
するとムゲンの体が宙を浮いているではないか。
まだ飛行魔法の魔石は発見されていなかったと不思議に思っていたら巨大な鉤爪がムゲンの腕を掴んでいるではないか。
「兄さん、これやばいやつ」
ムゲンがそういうと鉤爪の正体である鳥型の魔物は空高く舞い上がった。
そしてそのまま、どこかへと飛び去ったのだある。
一瞬のことで動揺し硬直した俺だったがすぐに機能停止した頭を動かした。
「ムゲェェン!」
村を出て数分後の出来事である。
俺は必死にラプラスと共に鳥型の魔物を追うのである。