神様はバカ野郎だ
とある研究室での会話
若い男女が言い争っている
「あなたは神にでもなったつもり!?」
「そうだ!・・・私が科学力で生み出したんだ、命を!・・・I am god!」
ビービービー
施設の異常を知らせる警告音がそこら中で鳴り響く
あちこちで爆発や金属がコンクリートが砕ける音
バチバチと音を立て火事が起こり熱気が襲う
・・・そして金切り音のような獣・・・いや爬虫類のような鳴き声が響く
この異常事態の中、俺は避難するために走っている
そして、俺は見てしまった
思わず足が止まる
恐竜が
緑色の肌のヴェロキラプトルが観光客を襲って殺して食べてるのを見た
今起こってる異常事態、それは恐竜が脱走そして暴れてることだ
こうなったのは原因がある
俺、草壁代古は現代社会に作られた恐竜を展示するテーマパーク「恐竜新世界」の職員だ
この施設で恐竜の教育や飼育担当職員をまとめるチーフをしてる
施設が作られた経緯は、短く言うと
琥珀の中にある蚊の血のDNAが見つかって、それを解析し足りない部分のDNAは既存の動物の物を使って補い
そうやって復元された恐竜を飼育管理してお客さんに見てもらう
そんなこの世界ではもう10年以上続いてる遊園地だ
ま、彼ら恐竜は実在してるが、そう上手く誤魔化して見えるだけで厳密にはただの遺伝子で生まれたハイブリット動物にすぎない・・・と
そう主張する科学学者も存在する
かの有名なカオス理論のM博士もそうだと言っていた
まぁでも既存の恐竜の再現をするだけならまだマシな方だ、既存の再現ですらないキメラの怪物を作ることだってできるんだ人間って奴は
そんな夢があるようなないような
夢のある夢がない夢のようなテーマパークだ
だが、本来はこの施設は厳重なセキュリティーで守られており
戦車砲でも抜けない壁や高圧電流が流れるフェンスから恐竜達抜け出すことはありない・・・はずだったが
その不可能を可能にしてしてまった者がいる
いや、意図的に、悪意を持って行われた
俺はそのことを遺伝子学者である元妻からの携帯電話のメッセージで知った
パークに裏切り者がいたんだ、しかも一人ではない恐らく二人以上の複数犯
一人はパーク内のセキュリティーを担当するプシステムエンジニアN、給料の低さに不満を抱き他社のそそのかされ新種の恐竜の胚を持って逃げたらしい
もう一人はその新しい新種の恐竜を作り出したU博士、彼は身勝手な自己顕示欲と探求心の為に他社に新種の胚を取引の材料として持ち逃げし
バレないように罪を問われ捕まらないように、パークを滅茶苦茶にして事件を有耶無耶にしようとしたんだろう
まぁ、もうバレてる時点で警察に捕まるのは時間の問題だと考えるが・・・
とまぁ、ことの経緯はこんなこんだが・・・
これからどうするかな
興奮して狂暴化した恐竜達をなだめるのは難しい
とにかく、いったん安全なとこに避難しよう
・・・だが元妻と、その間に出来た子供が気になる
むしろ、妻と子供は俺が一番優先して助けなきゃいけない二人だ
もし二人に何かあったら・・・考えるのはよそう
俺は施設のクレープ屋の屋台に身を隠し辺りの様子をうかがう
何かの足音がする、
近づいてくる気配がする、もしかしたら肉食恐竜かもしれない
慎重に警戒しながら、逆に相手の背後に回るよように移動し
腕を首に回し締め上げる
「きゃあ!」
しかし、締め上げたのは恐竜ではなく人だった
「うおっと・・・ステファニーきみだったのか、ごめん」
「ダイゴ、いきなり何すんのよ!」
しかもそれは最悪なことに、元妻のステファニーだった
いや、最悪でもなかった・・・こうして無事を確認できたし
「・・・あーでも無事だったんだ・・・」
ステファニーは俺に抱き着いた
その目には涙が流れていた
「よかった・・・本当によかった・・・」
「・・・ああ」
久しぶりに、抱き合って付き合った頃のような愛を確かめあ合えた気がする
「ステファニー、小豆は?」
俺は、ステファニーと俺との間に出来た子供の存在がいないことに気づいた
名前を草壁小豆という
彼女はママによく懐いている良い子で、傍を離れるなんてありえない
「そう、小豆よ・・・あなたどうしましょう・・・小豆が見当たらないの・・・博物館ではぐれちゃって・・・どうしようあたしがちゃんと見てなかったからだ・・・」
「落ち着くんだ、博物館ってことはここから近いそう遠くへ行ってないはずだ」
どうやら小豆はステファニーとはぐれてしまったらしい、この騒ぎの中でははぐれてしまうのも無理はない
俺は激しく狼狽するステファニーをなだめるように肩を抱く
「探して見つけよう、小豆はパークを知り尽くしてる隠れる場所も知ってる職員用のバックヤードだ」
「行くぞ」
そして二人で小豆を探し出すことにした
それはとても危険を伴う行為だ
本来であれば小豆の捜索と救出は軍などに任せて、自分達は避難に徹するべきだろうが
やはりどうしても親が子を思う気持ちが勝ってしまう
娘は今辛い思いをして泣いているのに、自分の子供を置いて逃げ出す親がどこにいようか
しばらくし探してる時、ステファニーが何かを発見した
俺とステファニーは、物陰に隠れながら慎重に様子をうかがう
調理室にある扉の丸窓を除く
大きな目と目が合う、爬虫類のような縦模様だ
「あなた・・・あそこにラプトルが群れでいるわ不自然よ」
「ああ・・・もしかして、あそこに小豆が?」
そこには、人間と同じサイズくらいの茶色の肉食恐竜ディノニクスが5匹程度の群れでいた
彼らは鳴き声を上げながら、時折調理室の食器棚を突っついたりして様子をうかがっていた
嗅覚が鋭い彼らは、人間の匂いを嗅ぎつけてあそこに集まった可能性が高い
従って、あの食器棚には娘・・・少なくとも誰か子供が入ってる可能性が高い
彼らは、中の子供がしびれを切らして出てくるのを待ってるのだろう
「助けにいかなきゃ」
俺は、逸るステファニーを制止する
基本的に人より身体能力が上で俊敏なうえ、興奮して狂暴な肉食恐竜である彼らの前に正面から立つのは自殺行為だ
「待て、いきなりいってもむざむざやられにいくだけだ・・・こういうときは!」
俺は、物陰から飛び出す
ディノニクス達は一斉に反応して俺の方を向く
厨房で吊り下げられていた豚肉を素早くナイフで切って、彼の方へ放り投げる
彼らは目の前にいきなり飛び込んできた豚肉の餌に我先へと食らいついていく
豚肉は一個だけでなく、彼らの腹が膨れる様にになるように二三個投げ込んでいく
その隙に、俺とステファニーは食器棚に向かう
「大丈夫だ傷つけたりはしてない、後でお前や小豆がうるさいからな」
俺たちがたどり着く前に、扉の方から先に開いた
扉の中からは、娘である小豆がでてきた
「パパ!ママ!」
娘は嬉しそうにこちらに近づいてくる
俺は安堵した、それと同時にすぐに抱きしめてあげたくなった
だが・・・
何かがおかしい
周りの空気が一変した
ラプトル達が逃げ出した、俺達という獲物がいるのに
理由は簡単、ただ一つ
もっと強い捕食者が来たからだ
「よかっ・・・っ!?」
娘の後ろの黒い大きな影
違和感に気づいたときにはもう娘の目と鼻の先だった
娘の背後にいたのは
「あ・・・きゃああああ!」
「レクシィ・・・!」
体長13メートルをゆうにこす竜脚類
最強の肉食恐竜でこのパークの看板あり
レクシィ.jrと名前があるティラノサウルスだった
かつて10年以上前の恐竜公園で起きた事故で人類を恐怖で震え上がらせたティラノサウルス
それがレクシィ、彼女その娘にあたる
彼女は、今娘を殺そうとその大きな口を開き牙をむきだす
娘は悲鳴をだし、動けないでいる
俺は、無我夢中で走り出し
「レクシィ!俺が相手だあああ!」
近くにあったジャガイモを投げ当て、注意を俺に向けさせる
レクシィの前に立った
両手を広げ盾になり、大切なものを守らんとするが
「う、うああああああああ!」
俺はレクシィの大きな顎に飲まれた
強靭な顎に挟まれ
心臓に牙を刺された
「ぐっ・・・ああああああ」
激しい痛みで、意識が遠のく
血がどんどん流れ心臓の鼓動が少なくなっていくのが分かる
「パパああああ!」
「ああ・・・なんてこと・・・」
「ステファニー・・・小豆・・・」
血に染まる景色の中、俺の瞳には絶望の光景が描かれていた
ステファニーがレクシィの爪で引き裂かれた
小豆がレクシィに踏みつぶされる
俺は皆を仲間も家族を・・・誰も守れず死ぬのか?
俺は、最後の瞬間レクシィの瞳を見た
その瞳は、遺伝子を勝手にいじくられて生み出された人への憎しみを映しているかのようだった
そして俺は恐竜に殺された
俺は心の中で叫んだ
俺はただ恐竜が好きで、仲良くなりたくて
でも現実は太古の眠りを妨げられた、ただのキメラの化け物で
だからレクシィは怒っていた、化け物の体にされた人間を
だから、もし次の人生があるなら
今度こそ本物の恐竜をこの目で見て、友達になりたい
Fucking good神のクソ野郎