5話:質問コーナー♪♪ 『おばさんでも需要ありますか?』
続きます。
ダラダラと質問に対する答えを考えていたら、気づくと7時になっていた。は、はやい…。
それと同時に玄関の扉がガチャリと開いた音がする。
僕は急いで玄関まで行くと月菜さんを迎える。
「おかえりなさい。先にお風呂入りますか?」
「え?あ、うん。ただいま。じゃあ、先にお風呂入るね」
ちょっとぼーっとしている月菜さんが、まるで夢遊病患者のようにスッーっと自分の部屋に行き、しばらくすると着替えを持って脱衣所へと向かった。
たぶん僕がいるということがまだ信じられないのだろう。これはしっかり”わからせ”ておこう。僕という存在がいるということを。
月菜さんがバスルームに入ったのを確認すると、ぱぱっと服を脱ぎ全裸になる。ただ、流石になにも身に着けないのはヤバいかと思いバスタオルを体に巻く。
よし!バスルームに突撃だ!
ガチャリ
「えっ?佐藤くん?」
「お背中流しますね」
「えっ!?いや、なんでっ!?え、なにこれ。これって現実?夢?」
「もちろん現実ですよ」
僕は石鹸を手に取ると、月菜さんの艷やかな背中へと手を伸ばす。タオルも使わずに素手で洗う。
「んっ……///」
無言の時間が続く。ちょっと気まずい。よくあるエ○漫画みたいに触れられただけで、イクとかはないみたいだ。あんなのもしリアルであったら、日常生活も覚束ないそうだよね。まあ、そもそも男性と触れる機会なんて、全然ないんだからそれでも良いのかもしれないが。
そういえばバイトのことについて、月菜さんに相談しなければだった。
「月菜さん、今バイト探してるんですけど、良いところありませんか?」
「んっ、ん……えっ?バイト?」
「そうです。ちょっとお金が必要なので、おすすめのバイトとか知ってたら教えてほしいなあって」
「お金が必要なの?私が出すわよ。どれくらい必要?毎週10万くらいかしら」
なんだこの人、恐ろしいぞ。ダメ男とかに引っかかるタイプだ。僕はまだそこまで堕落したくないので遠慮しとこう。
「い、いえ、遠慮しときます。それよりも、接客のバイトとかしてみたいなと思いまして」
「そ、そんな。佐藤くんみたいな子に接客させるなんて!それに男の子がバイトなんて危ないわよ!」
「僕はたくさんの女の子を幸せにしたいんです。この世界では多くの女の子が男子と喋ったこともない。そんなのってあんまりじゃないですか。そんな現状を少しでも変えられたらって思うんです」
「佐藤くん……。よし!私が知り合いに掛け合ってみるわ!」
ごめんなさい月菜さん、ただバイト先の女の子と仲良くなりたいだけです。そんな高尚な目的なんてありません。
☆†☆†☆†☆†☆†☆
そんなこんなで、張り切った月菜さんは、大学時代の知り合いがやっているというカフェを紹介してくれた。その友達は、石本有紗さんといい、カフェは「雨音」という名前らしい。
個人経営のこじんまりとしたところで、かなり雰囲気が良いというのは月菜さんの談だ。
なんでもその人の両親は高齢らしく、大学を卒業すると同時にカフェの経営なども含めてすべて引き継いだそうだ。今は、高校生のバイト一人と有紗さんだけで経営しているが、意外と人気店らしくそろそろバイトの人数をもうひとり増やそうと考えていたらしい。
と、バイトのことはさておき。そろそろ9時になるので裏垢の方で集めた質問に答えていきたいと思う。
最初は一つ一つの質問に文章で答えようと思っていたが、思った以上の質問の数に文章で回答するのがめんどくさくなり、Twitterのスペース機能を使うことにした。
スペースをすることは事前に告知していたので人はそれなりに来る……と思う。こればっかりはやってみないとわからないが、男性のそれも裏垢男子がやるのだから聞きたい人はかなりいると思う。
9時になったのを確認すると、スペースの開始ボタンを押した。すると、ほぼノータイムでどんどん人が入ってくる。入ってくる。入ってくる。入ってくる。………入ってきすぎじゃないだろうか。まだ開始数秒だぞ、それなのに2万人ってなんだよ。初めてみたわこんな数字。
「えー、あー、聞こえますかー?」
事前に決めていた、「レンの質問返し」というハッシュタグを使って反応を見る。
【聞こえてるよー】
【聞こえてまーす!っていうか声エッロ】
【聞こえてますよ】
【ばっちりです】
ぱっと見でもかなりの数のツイートが見られる。
「えー、はい。じゃあ質問返ししていきたいと思います」
チラッと人数を確認すると15万だった。………え?…多くね?
「想像以上に多くてびっくりしました。えーと、では最初の質問を。なになに、『ネナベですか?』。なるほど」
【初っ端から核心に迫る質問きてて草】
【これはマジで気になる】
【ワクワク】
「えー、まあ違います。ちゃんと男性です。はい。では次の質問です。『彼女いますか?』ですか、なるほど。今は……彼女いません。出会いがなくて付き合おうと思っても付き合えないんですよね。だから今度バイトしてみようかなと思ってます」
【裏垢男子してて彼女もいないとかあるんだ】
【これオフ会とかやってくれたらワンチャンあるだろ】
【オフ会はよ】
【オフ会はよ】
「では次の質問に。さっきからみんなが言ってるオフ会についてですね。『オフ会など、やる予定はありますか?』これは、あります。オフ会自体は、裏垢始めようって思ったときからやろうと思ってました。でもまだ具体的な人数とか場所とかは決まってないので、ゆっくり決めていけたらなと思います」
【キタコレ】
【神は死んでなかった】
【激アツで草】
【え?てかこんな優しい喋り方の男性初めて見たわ】
「ここからは連続でいきます。『年齢は?』17歳の高校生です。高校行ってないけど。『どこ住みですか?』東京です。『一人暮らし?』いえ、今はちょっと知り合いの家にお世話になってます。二人で暮らしてます。ちなみに女性です。『経験人数何人ですか?』んー、ゼロです。これはマジです」
【17歳はエグいって】
【東京住みの私勝った】
【女と二人で暮らしてるから、やっぱりその女と毎日ヤッてるのかなと思ったら、まさかの経験人数ゼロで驚き】
【ゼロま?】
【一緒に暮らしてる女理性強すぎじゃね?】
「おっ、これが最後の質問ですね。『なんで裏垢始めようと思ったんですか?』最後にいい質問きましたねー、まぁぶっちゃけちゃうと、女の子と繋がれたらなーと思いまして」
【ま?】
【これマジ?】
【男性の裏垢も見たことあるけど、女の子と繋がりたいとかいう理由で初めてる人初めてみた。画質くっそ悪い写真アップして、貢げとかいってるのが男子の裏垢だと思ってた】
【女子はみんな、そういう理由だけど男子でそんな人いるのかwwww】
「最初にも言ったんですけど、僕高校行ってないんですよ。別に、何か被害があったから行けないとかじゃなくて、ちょっと訳ありなんですよね。だから僕としては、女の子とイチャイチャしたいのにできないので、それをネットで補おう…っていうことです」
【まじでこれフォロワー全員チャンスあるぞ】
【こんな良い男の子いる???】
【レンくんと一緒に高校行きたい】
【おばさんでも需要ありますか?】
「はい、ということで今日はこれで終わりたいと思います。あっ、年上でも全然おーけーです。むしろ好きです。それでは今日はありがとうございました〜」
スペースを閉じる前に、人数を確認すると20万人だった。んー、狂ってる。
需要ありますっ!(食い気味)