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なにって……変装よ!(※バカ殿メイクを想像してください)

 ◆◇◆◇◆



 十二病。それは子供から大人になる途中の少年少女の一部がかかるとされる病。

 今までとはがらりと変わった言動をするようになる現象のひとつです。

 乱暴な事をしたり、大人の言うことに全て反発するようならば単なる“反抗期”なのですが、それとは少し意味合いが違います。


 貴方の周りにもいませんでしたか? 豊かな想像力により自分が物語の登場人物のようだと思い込むような少年や少女達が。

 例えば……「自分には実は秘められた能力がある!」とか「魔法の力をこっそり手に入れた!」とか「今は平民だけど、赤ん坊の時に取り替え子になっただけ。実は私は王女!」……等々。


 それらの、元々あった現象に更に拍車をかけたのが、少年向けの物語として発売され大ヒットした冒険活劇「エドガー王子と十二人の守護獣」でした。


 これを読んだ後、エドガー王子の左手の魔方陣の模様を自分の手に描く少年や、それぞれ違った獣の紋章と特殊能力を持つ十二人の王子の家来達(通称:守護獣)を真似て、何か約束をする時に決め台詞の「わが王と精霊の名にかけて!」と言う少年少女が続出したのです。


 特に一番人気の【竜】の守護獣の格好(=手足を包帯でぐるぐる巻き)をして、「闇の波動がッ……! くっ、この包帯(まじない)では抑えきれないか」と呟く子供に親達は頭を痛めました。


 この現象にかかるのはほぼ12歳から15歳前後の年齢である事と、物語のタイトルの十二人の家来になぞらえて“十二病”と呼ばれるようになりました。

 侯爵家の三女、ヴァイオレットもまさにその十二病の真っ最中だったのです――――――



 ◆◇◆◇◆



 翌朝、ヴァイオレットは両親であるスライ侯爵夫妻に朝食の席でお叱りを受けます。


「よりによって王宮の舞踏会で大声で人を悪し様に罵るとは何事だ。相手が遠戚だったのと、お前がまだ可愛い子供で周りは悪ふざけだと受け取ってくれたから大事にはならなかったものの……」

「ヴィオちゃん、あなたが『目立ちたくないから鼠色のドレスが着たい』と言ったからドレスを仕立ててあげたのに。悪目立ちする行動をしてどうするの?」


 ヴァイオレットはしゅんと小さくなり、朝食後は部屋に引きこもってしまいました。


 両親と侯爵家の次女であるリリーの三人は「素直に反省するなんて、やっぱりヴィオちゃんは可愛いね」等と言っていたのですが、とんでもない。

 ヴァイオレットが何をしていたかは、その後にリリーの部屋を訪れたことで判明します。


「リリー姉様、入っても良い?」

「ヴィオ? どうぞ。ちょうど良かったわ。お茶をいかが?」


 入ってきたヴァイオレットの顔を見たリリーは、口に含んだお茶をブッと吹きそうになり、むせて咳き込みました。


「姉様!?」

「お嬢様!! 大丈夫ですか!?」


 リリーは姉や妹とは違って、身体があまり丈夫ではありません。激しく咳き込むリリーに侍女とヴァイオレットは真っ青になって駆け寄ります。


「げほげほっ……だ、だいじょう……イヤっ!」

「「イヤ?」」

「ヴィオ……イヤだわ! なによその顔! くっ、ふふふふふ……」


 長椅子のクッションに顔を押し当てて笑うリリーの側で、侍女はヴァイオレットの顔を見て同様に吹き出しそうになり、慌てて顔を抑えて堪えました。


「なにって……変装よ!【鼠】は特殊メイクでどんなところにも忍び込むから!」


 得意気なヴァイオレットの顔は酷いものでした。

 白粉をコテコテに塗った為に顔は真っ白。そこにピンクのチークを不自然に大きく入れてあり、更に眉毛は二倍の太さに書き足してありますし、目の回りは墨か何かで真っ黒に縁取られています。口紅は全く似合わない鮮烈な赤色です。


「これならジョー兄様だって私だとわからない筈よ! 次に兄様が行きそうなお茶会やパーティを調べて、変装して行くつもりなの!」

「やめて……ふふふっ、お腹が……痛い! ふっ、あははは!」


 リリーは堪えきれずについに大笑いをして、ハンカチを取り出し目尻を抑えました。

 一息ついた後、妹の顔に手をやり、ハンカチで優しく拭って酷いメイクを取り去って行きます。


「……ねぇ、可愛いヴィオ、私の愛する妹さん。あなた全然反省してないのね?」

「反省? 何を?」

「ジョージ兄様を人前で『沼の貴公子だ』と罵った上で、更に『秘密を暴く』とか言ったそうじゃないの。お父様に怒られたのに、まだお兄様を調べるつもりなの?」


 ヴァイオレットは顔を触られる事には抵抗しませんでしたが、姉の言葉には強気で反論します。


「姉様は、昨日のあのふしだらな光景を見てないからそんな事を言えるのよ!」

「ふしだらって、どんな?」

「すっごくえっちな感じの人妻とか、すっごくセクシーな感じの女の人に囲まれて……」

「囲まれて?」


 ヴァイオレットは、昨夜の美女達の話をリリーに聞かせます。リリーはその薄茶色の眉を寄せ、元々持っている儚げな雰囲気を尚一層強く纏わせました。


「……ふーん? ヴィオ、あなたと兄様はその女の人達にからかわれたのじゃなくて?」

「え?」

「わざと思わせぶりな言い方で誤解させるように言ってるのかもしれないわ。あんまり趣味が良いとは言えないけれどね」


 ヴァイオレットは姉の同意を得られなかった事が悔しかったのか、顔を赤くして叫びます。


「だっ、だけどジョー兄様は夜会やパーティや観劇等で、とっかえひっかえ違う女性をエスコートしてるのだそうよ!!」

「エスコートくらい頼まれることもあるでしょう? 兄様が婚約者も恋人も居ない身なら、女性からしたら尚更頼みやすいじゃない」

「それにっ、色んな女性に『可愛らしい』って言いまくってるって噂よ!」

「あら、女性を褒めるのは大事な事よ。その先の噂は無いんでしょう?」

「そっ、そうだとしても不誠実よ!」

「不誠実ってどこが?」

「どこがって……全部よ! だって兄様は……兄様はローズ姉様の事が大好きだったじゃないの!」


 リリーは目を丸くしてヴァイオレットの顎にかけていた手を離してしまい、ヴァイオレットはプイと横を向きます。


「ヴィオ、あなたまだそんな事を言ってるの……? お姉様がお嫁に行ってもう三年よ!? 子供も居るじゃない!」

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