表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

長い1日

親子心中、つまり、

金原ススムと母親のスズカが、死んだという。


あまりに想定外。

聖は、

ツトムに、従兄弟と会って欲しいと頼まれていたと、

薫に話した。


「人殺しかどうか顔見て欲しいと? なんやねん、それ」

「カオル、俺すぐにそっちに行った方がいい?」

「そうやなあ……いや、待って。今な、金原ツトムが失神して倒れたで」


「失神?」

「おう。ふにゃっと……おい、アカンか?(側の誰かに)。セイ、また電話する」

 と、電話は切れた。

 

「俺、どうしたらいい?」

傍らに居るシロに聞く。

クワン(腹が減った)、と答える。

 

「そっか。朝めし、まだか……ええっと、薫に呼び出されるかも、」

 そういう展開になれば

何時に帰れるか。

 シロに昼も晩も、ご飯やれないかも。

 フライパンに、バターをたっぷり。

ベーコンの厚切り、サーモン、ホタテを焼いて

一緒に食べた。


「腹が減っては、戦は出来ぬ、っていうだろ。まずは腹ごしらえ、かな」

 

すぐに家を出られる態勢。

でも、午後になっても連絡無し。

クワン、ワン(昼ご飯の時間でしょ?)

シロが当たり前のように要求するから

昼ご飯、食べて……そのうちに日が暮れて。


 クワン、クワン(晩ご飯遅くない?)

 夜も更けた。


「1日スタンバイしてたんだ。俺は今日、責任を果たした」

 会う予定の拝屋が死に、

ツトムが失神。

ショックすぎて、

(自分が何かしたわけでも無いのに)責任を感じ、ナーバスになっている。 

  だから、

 

(10時を過ぎた頃)

やってきた薫を見て、

  泣きそうになった。


「カオル、ずっと、ずうっーと、電話を待ってたんだ」

  また電話すると言って

  長らく放置で突然の訪問は

  カオルにありがちなパターン。

  それも想定出来ないほど

  パニクっていたのだ。


「セイ、ゴメン。……まあ、飲もうや」

 カオルはスーパの袋から

 ビール缶4個出して

 自分と聖の前に

 2個ずつ置いた。

 次に、半額になった、唐揚げやら寿司を手早く

 テーブルに並べた。


「うん。……それで、ツトムは?」

 まず、<不幸で優しい奴>の心配をする。

「大丈夫や。ショックで失神しただけや。念の為、今晩は入院や。

精神安定剤が効いて、普通に喋れるようには、なった」

 最初に通報したときから

 興奮したり泣き出したりと、動揺が激しかったと言う。


「自分のせい、やとな」

(自分が昔の事をほじくり返したから、

まさか自殺するなんて

   こんな事になるのなら

   真実を知らないままの方が良かった)


「金原ススムと母親のスズカがツトムの両親、妹を殺害した、らしい」

「そうなの?……ホントに?」


「ススムの遺書が、あったんや。パソコンに」


母と私で

沙緒里サオリを殺しました。

君の両親を殺しました。

 母は、まともな人ではありません。

 血筋です。

 私も同じです。

 ツトム、君は、まともです。

 金原家は君だけでいいのです。


 剥製屋と会えと言いましたね。

 見ただけで人殺しが分かる、霊能者らしい。


 とんだ詐欺師に違いない。

 会うのは屈辱です。

 

 君が真実に気付いているのなら

 終わりにします。


 もちろん、母も連れて行きます。


「ホントに、殺したの……信じられない。でも一体どうやって?」

「それはな、検証しな、わからんわ。両件共、事故当時に事件性は疑われてないからな」


「……そうか。で、ふたりはどうやって?」

「包丁で首を刺したんやで」

 ツトムが発見したとき、

 ススムはパソコンデスクの前で倒れていた。

 

 深夜2時の事だ。

 ツトムは廊下を挟んで向かいにある

 ススムの部屋から明かりが漏れているのを見た。

 (この大きな家では1階にツトムの祖母の部屋、

2階にツトムとススムとスズカの部屋があった)

 

「まだ、起きてるの?」

 何気に声を掛け、ドアを開けたらしい。

 

ススムは、遺書を打ち込み、

 椅子に座った姿勢で、自分の首を刺した、ようだ。


 ツトムはスズカに知らせようと、隣の部屋へ

「スズカは布団の中で死んでいた。首から血が溢れ出てたんやて」

 2人とも即死状態。


「ほんでな、ツトムが通報したんや」


「家には他に……お祖母さんがいるんじゃなかった?」

「里帰り中やってん。3日前から。長年の介護疲れと葬式疲れを、実家でゆっくり癒やしてたんやけどな」

「そっか。またこんな事になって……」

「うん。今はツトムに付き添ってる」

「大変だな。実家からもどったのか」

「まあ、実家と行っても近いからな」

「そうなんだ」

「セイ、知らんか? 幸森一族。金原の奥さんの実家は幸森の本家や」

「幸森……あ、そうか。親戚なんだ。それで幸森の爺さんが、犬殺しの仲間に居たんだ」

 犬殺しは3人の男

 金原ススムと

 金原ツトムと

 幸森の爺さんだった。


「犬殺し? 何や、それ」

 ツトムに霊園で会う前の出来事、

河原での犬殺しを

薫に話した。

 

「胸くそ悪い。子犬を、なぶり殺しにするなんて」

 薫は憎々しげに言う。


「そうか。始まりは犬殺しか。確かに、ハル婆さんは半分化け物やと言われていたからな。

危篤になって、家族が死んで、奇跡的に持ち直した。ソレが2回あった。

二度あることは三度あると、恐れたんやな。

そんで幸森の爺さんが身代わりに犬でも殺せと、思いつきよったんか」

「いや、あの爺さんじゃ無い、ツトム君は拝屋の見立てだと、」

「え? なんやて、ススムのプラン、やて?」

「そう……聞いたよ」


「……」

薫は黙って、新しい缶ビールを開けて、ぐいぐい、喉に流す。

 何かを真剣に考えてる。

 何を?

 拝屋の言いそうな事でしょ?

 

「セイ、おかしいと思わんか?」

「……何が?」


「ススムがツトムの家族3人を殺したんやろ。3人の死がハルと関係ないと一番知ってるやんか。

それが何で犬殺しを推進するん?」


「それは印象操作、でしょ」

過去の連続死を、<ハルの呪い>だと

思わせる為の

デモストレーションではないのか。


「ハルさんが死んでも、また持ち直したとしても、

結果、誰も死なない(殺さない)んだから、犬を身代わりにしたお陰だとなる。

どっちに転んでも拝屋の見立ては正しい、って訳。」


「あんな、犯罪者は犯罪がバレんように動くもんや。

まず犯人は自分以外と思わせる。アリバイ工作とかやな。

それともう一つは事故に見せかける。おおまかに言えば、この二つの、どっちかや。

本件の場合、事故に偽造し、成功している。

それなのに『事故』が超自然現象やと、さらなる偽装工作。

何でや?」


「それは……拝屋として凄い実績を作って有名になりたかった、とか」

 口に出したが何かしっくりこない感じ。


「そうやな。犬殺しの利益はあるな。昔の殺しを再利用しよったんやな。……えげつない奴やな」

「うん。……そうかも」

 金原ススムにあった事もないけれど

 

「そんな鬼のような男がな、女々しい遺書書いて母親殺して自殺した」

 言いながら、薫は立ち上がった。

 そして、

 オートバイのキーを手にする。

 次に、タバコとライターをポケットに。

 今にも此処から出ていきそうな所作。


「えっ?」

 カオル、まさか帰るの?

 マズいよ、飲酒運転でしょ?


 カオルは黙って戸口へ

ドアを開け、


「セイ、人殺しは見たらわかるんやろ? ネットでな、金原ススムの動画、見といて」

と、言い、

出てった。


「うそ、ホントに、帰っちゃったよ、なんで?」

 遠ざかるオートバイの音に

 聖は膝から力が抜ける。 


「アイツ、どうかしてる、飲酒運転なんて。見付かったら懲戒免職とかじゃないの」

 たかがビールでもアルコールはアルコール、

 と何気に空いたビール缶に目が行き、

 自分の飲んだのと、カオルのが、違うデザインの缶だと……


 手に取ってみれば

 それはノンアルコール。

 

結月薫の

今夜の訪問は

 仕事、

だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ