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誰かが死んだ

聖はシロを連れ

山田動物霊園まで歩いて行った。

懐中電灯片手に真っ暗な森を抜けて行った。

霊園事務所を訪れるのも

事務所番の桜木悠斗に合うのも

悠斗の歓迎会以来だった。


途中、シロが吠え

飼い主を置き去りにしてダッシュで

先に行ってしまった。


霊園事務所の前に辿り付くと

シロと、黒い犬がじゃれ合っている。


「すっかり仲良しなんだ。良かった」

 あの犬がメスだったなら、シロの子を産んでくれるかも。

 もしそんな事があったなら

 メチャ、幸せなんだけど。


 と、夢想して

 (黒と白の小犬を頭に描き)

顔がほころぶ。

自身が(人間の子の)父親になってもいい年なのに

犬の子が、とっても欲しいのだ。



「おっきいけど、まだ半年経ってないですね」

聖は可愛らしい小犬の遺体を抱き上げた。


「神流さん、胸を触ってみて下さい。肋骨が……変です」

 桜木悠斗は悲壮な顔つき。

 白いワイシャツと黒いスラックス。

 冬に会った時より日焼けしてワイルドな雰囲気になってる。


「折れていますね。後頭部も中で出血している。固いモノで殴られたんですね」

「殴り殺したんですか。……どうして?」

 

「飼い主は、この子を処分する理由があったって事でしょうね」

「こんな可愛いのに? 血統書付きだと自慢げに言っていましたよ」


 完璧な犬を求める人も居る。

 成長に従い、些細な障害が現れると、価値が無い犬となり

 興味も愛情も無になる。

 そんな愛犬家も存在するのだ。


だが見たところ、子犬は健康で完璧な外観。

「桜木さん。例えば、飼い主の家族、小さい子が噛まれる事故があって、危険だと処分する人もいるんですよ」

  理由は何であれ、飼い主が犬を殺したからと、

  自分たちが罰するのは無理だ。

  もしかしたら

殺したのは飼い主で無いかもしれない。 

その場合、

  器物破損で訴える事が出来るのは飼い主だろう。



 聖は今朝河原で見た光景が

 この犬と、無関係の筈が無いと、勘ぐらずにはいられなかった。


 しかし、悠斗に話すのは躊躇った。

 何も確証が無いのだから。


「この子を持ってきた人なんですけど、客の個人情報は教えられないでしょうね?」

 ダメ元で聞いてみた。


「そう、ですね。あ、でもね、墓標は『金原雪丸』ですよ」

 金原家の雪丸、ってことか。

 幸森家の犬では無いのだな。


「それと、男の人が3人で来ました。これくらいは個人情報漏洩になりませんよね」

「男3人、ですか」

 そん中にスキンヘッド爺さんがいたか聞きたいのを我慢した。

 聞けば悠斗に全て話さなければならない展開になるだろうから。


「ちなみに一番高額な墓石を注文されました」

「成る程……。金原という人は知らないなあ……、酒屋の婆ちゃんに聞けば何かわかるかも」

「酒屋……県道の楠本酒店?」

「そう。今晩はもう遅いから、明日にでも行ってきますよ。なにか分かれば電話しますから」


「ありがとうございます」

 桜木悠斗は深々と頭を下げた。

 

 聖は「金原」は近隣の住人に違いないと、分かった。

 遠方から来た客なら楠本酒店で情報は得られまい。

 客が申込書に書いた住所が至って近場だったから

 悠斗は自分を呼んだのだ。

 「金原」に心当たりがあるかもと。



 「シロ、帰ろうか。黒いのも、一緒に来るか?」

 聖は外で待っていたシロに声を掛ける。

 心も視線も「黒犬」を追いながら

 二匹の側に。

 黒犬に触りたい、けど、

 近づくと、さっと逃げてしまった。


 


明くる日の夕方、聖は楠本酒店へ車で行った。

駐車場に他に車は無い。

店は開いている。

酒と駄菓子、ちょっとした日用品が整然と並んでいる。

奧に広い座敷があるのは

かつて食堂もしていた名残だ。


「セイちゃん、久しぶりやなあ。ゆっくりして、お茶飲んでいってと言いたいところやけど。アンタ、丁度ええ時に来てくれはったなあ」

 楠本の婆ちゃんは、黒いワンピースを着て、黒い靴を履いて、出てきた。


「お葬式?……村の、俺の知ってる人?」

「丁度な、タクシー呼ぶとこやってん。ほんまに丁度いいときに……」

質問には答えないで、店先のカーテンを閉じ、戸を閉め、

<本日休業>の札をかける。


「御通夜やで」

 と言いながら、聖のロッキーの助手席のドアに手をかけている。

 なんで?


「焼香するだけや。今晩は顔出すだけや。15分で戻るからな、待っててや」

「えっ?……あ、そっか」

 セイに通夜の会場まで送迎して欲しいと

 そういう事らしい。


「ごめんやで。ありがとうやで」

 老人の意図がやっと分かった。

 聖は助手席に座るのに手を貸した。


「で? ……どっち?」

「まっすぐ行って、ほれ、お地蔵さんがあるやろ、あれを入って行くねん」

 そう遠くない。

 県道を駅までいく途中の

 ここから一番近い集落だ。

 ど田舎の、古民家とよばれるような家が十数軒。

 セレモニーホールも寺も無い筈。


 昔ながらの様式、自宅で葬儀かも。


「誰が亡くなったの?」

「お友達やで。随分会ってないけどな」

「近所なのに?」

「ハルちゃんはな、長患いや」

「病気だっだのか」

「動けんようになってから、かれこれ20年かな」

「そうなんだ」


 これだけの会話で、もう、お地蔵さんまで到着。

 村の中、細い道を数人が歩いてる。

 そして軒先に提灯が下がっている家があった。


「前で降ろして。ほんでこの先に池があるから、そこいらにおって」

 婆ちゃんは車を降りた。


 その家の表札は、

「金原」

 で、あった。





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