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ハルの恋

 結月薫は、単車で動物霊園から戻って来た。

 割合、すぐに。

「セイ、一緒に楠本酒店に行こう。アポは取った。

ハルのことは、昔を知ってる婆ちゃんに聞くのが一番や」


「そうなんだ」

 <子犬殺し>の謎も

 婆ちゃんが知ってるの?

 なんかモヤモヤするが、

 カオルが動いてくれているのだから

 黙って従うことにする。


「歩いて行くで」

「へっ?……歩くの?」

「うん。ビール飲みたいもん」

「そっか」

「たいした距離ちゃうやんか。ツトムの話しながら仲良く歩いて行こ」

 と、釣り橋を先に

 さっさと渡っていく。


「すぐ出発なの?……ちょっと俺は用意が出来てないんだけど」

 電気消して

 留守電にして

 財布握って

 

 県道に出た辺りで、カオルに追い付いた。

シロは?

 付いてきていない。


「セイ、ツトムはな、

 20年前に妹が池で溺れるのを

 見てたんやて。ススムと二人で」

「見ていて、どうして助けなかった?」


「サオリの様子が異様だったので、怖かったと言うんや」

 サオリは最初に獣のような奇声を発した。

 その次にピョンピョン跳ね

 片手を高く上げ、池の上を指差し、

 (奇妙な踊りのようだった)

 池に入って行った。

 

「ツトムは妹の名を叫び、池に入ろうと、助けようとした。

 しかしススムに蹴られた。

 ススムは、『アレはハルの生き霊や』と、

『ツトム、そこに亀がおるで』と、笑って言った」

 

 サオリはどこに居るかと、 

 大人達は最初にススムに聞いた。

 ススムは、知らない、

 池の上にハルの生き霊を見たと

 答えていた。


 ツトムはススムの言い分を否定出来なかった。

 

「時々会う年上の従兄弟は怖い存在やったらしい」

「友好的な関係では無かったのか」

「唐突に殴ったり蹴られたり……さっきまで優しかったのに

 突然人が変わったように、何かが取り憑いたように凶暴になる」

「取り憑いたように?」

「うん。ススムの母親も……そうやった」


「たとえば?」

「突然目つきが替わり、心当たりの無いことで罵声を浴びせられ、叩かれた事もあると」


「交通事故起こしたのも、突然おかしくなったせいなのかな」 

「そうかもな」


「カオル、突然目つきが変わって分けの分からない言動を……それって、病気でしょ?」

「おそらくな。解離症状の可能性はある」

 ハルは狂っていたと、誰もが言う。

 サオリは異常行動で自ら入水。

 スズカも突然異常行動。

 ススムにも同じ症状があった。


「ツトムは医療系の専門学校出てるねん。医療の知識を得てな、祟りや生き霊やと、

 金原家が振り回されてきたもんが、要するに精神疾患やと、分かったと言っていた

 ススムの母親スズカは色狂い、ハルの血筋やとな、村の評判やねん」


スズカは高校を卒業した後、

家事手伝いの名目で職を持たず、自由に暮らしていた。

その間、村の男数人と関係を持ち、揉め事になり

とても村に置いておけないので、東京に出したという。


「元々芸能界に興味があって、東京で声優学校に行ってたんや。

 しかしすぐに妊娠してやめた。その子がススムや。

 東京で結婚して離婚して戻って来たんやない。

 最初から母子家庭。金原家が全面的に面倒見ていた。

 スズカは1回も働いたこと無い。

 働かんと贅沢に暮らしてた。

 ススムの学費も金原家が出す予定やった。本人が不登校なって

 大学には行かなかったけどな」


 金原家は

 自立できない長女が子と二人戻ってきて

 入れ替わりのように

 長男夫婦が亡くなった。


 ツトムにとっては地獄の始まりだったのかも知れない。


 ハルが死んでも終わらない。

 狂人ハルより、 

 発作を霊能力だと、ほざく拝屋の方が

 たちが悪い。

 イカレた息子の後ろには

 同じ病の母親。

 

「ツトムは子犬を殺したときに、スズカとススムを始末しようと決めた」

 心決まれば、決行は焦ることもない。

 完全犯罪のチャンスは、きっとやってくる。

 

「初めから俺を利用する目的で近づいたんじゃないのか?」

「それは違う。当初は二人を泥酔させて、屋敷に火、つける気やった」

「……すごいな。何もかも灰にしたかったんだ」

「そう。セイと語り合う課程で、心中偽装プランが浮かんできた」

 サオリと両親を、

 間接的であるにせよ、過失であるにせよ

 殺したのはスズカとススム。

 二人は人殺し。

 

「二人が人殺しやと、公表したい気持ちもあったんや」

「そんで俺も始末か。やっぱ人殺しがバレると思って? 

 うさん臭い霊感剥製士の戯言で済ませられるのに。

 何も危険を冒して口封じしなくても」


「口封じだけやないで。ツトムはセイの存在が許せないと、思ったんやて」


「え、なにそれ、どゆこと?」

 存在が許せない、なんて、初めて言われた。

 ちょっと酷すぎない?

 俺が何した?


「ツトムは祟りも生き霊も、そんなもの無いと信じてる。

 迷信、心霊、予知、非科学的やと一切認めてない。霊能者は敵や」

「俺も憎むべき霊能者か、そんで駆逐?」


「ちょっと違う。憎むべき霊能者は詐欺師で有るはずなんや、ツトムの理屈やと

 ところが、神流聖は、違う。詐欺師では無い。では何か? 本物の霊能者?」

 

 本物の霊能者など

 存在しない。

 あってはならない。

 ……存在してはならない。


「と、まあ、これがセイの殺害動機かな。……分かった?」

「さあ……まあ、いいさ。殺されてないし」

「そうやな。……あれ、婆ちゃんが手を振ってるで」

 楠本酒店は、すぐそこ。

 

「アマゴ(川魚)と椎茸、焼いて待ってたで」

 座敷のテーブルには

 瓶ビールも数本、待っていた。


「そうか。白い犬の子をなあ、捧げモンにしたんか。惨いことやなあ。因縁やなあ。

 そうかあ、セイちゃんは聞いてなかかったんや。神流とハルちゃんの因縁やなあ」

 

 楠本の婆さんの呟きに、

「い、因縁?」

  聖は上ずった声で聞き返す。

  神流とハルの?

  ……………?


「始まりはな、ハルちゃんの一目惚れ、やってん。神流剥製屋の1代目は、

 セイちゃんの、お祖父さんは、ほんまに男前やったからなあ」

 

 (へえーっ)

  聖は驚きすぎで、声も出ない。

  そ、それで?

  二人は付き合ってたとか?


「いいや。1代目は嫁さんおったもん。ハルちゃんの片思いや。最初から諦めるしか無い恋や。そやのに

な、狂ってしまってん」


「ストーカーでもしたんですか。つきまとったとか」

 薫が興味深げに聞いた。


「そのようなふるまいもあったなあ。そんでも剥製屋は殆ど工房にこもりっきり。

滅多に顔は見れない」


「それでも、しつこく家の前に立ってはったんか?」


「それもあった。着飾って化粧して」

「俺の祖父ちゃんは? 迷惑がってたんでしょう?」


「全く相手にしなかったけど、きつく追い払うような仕打ちは無かったらしい。

優しい性分やから」


ハルなんとしてでも恋しい人の顔が見たい、

言葉を交わしたいと……とんでもない行動に出た。


「どこからか紀州犬の子を、手に入れてな。剥製屋に持っていったんや。

 剥製にして欲しいとな、客として……会いに行ったんや」

 

生きた子犬を剥製にする筈は無い。

 持って行ったのは死んだ子犬。

 犬の死骸を手に入れた?

 もしかして殺したのか?


「そんでな、しばらくして剥製の出来具合を見に来たと、

それを口実に、1代目に会いにいったんや。

そしたらな、なんと死んでいた子犬が

一回り太って元気に走り回ってたんや」

 

ハルは、

ひええええええ

 と

長い悲鳴の後、失神した。


「そっから、本格的におかしなってん」 








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