とある姉妹のヘタ結び
その日、ノウムベリアーノにあるレム家屋敷での出来事。
「あら、これってチェリシアじゃない?」
長女であるケイトがテーブルに置かれた丸みを帯びた赤い果実を見て声をあげる。
チェリシア、というのは地球で言う所のサクランボに相当する果実である。
そのまま食べたりジャムにしたりと様々な用途がある。
特別な栽培を行ったものには状態異常の回復や魔力を少量ながら回復する効果があるものもある。
「今年はたくさん収穫できたましたので是非みんなで食べようと思いましてね」
末妹のリムが嬉しそうに語る。
彼女は農業を趣味としており育てた野菜の一部は商会に卸すなどしている。
「へぇ、良く育てわね。リム。凄いわ」
次女のリリィが褒め
「うんうん。さっすがリム!」
三女のアリスもそれに同意する。
ふと、四女のメールがある事を口にする。
「そう言えばチェリシアのヘタ結びってあるじゃん。みんなあれ、出来る?」
チェリシアは果実から長いヘタが突き出ている。
それを口の中で舌を使って器用に結ぶという遊びがやはりこの異世界でも流行りつつあった。
さて、ここにいる5人はヘタ結びが出来るか?
その1.長女ケイトの場合
「なるほど、ヘタ結びね……」
ケイトはチェリシアをひょいっと摘まみ上げると口に含み実を取り除くと下手を口に含み。
「はい」
突き出した舌の上にはこれまた見事に結ばれたヘタがあった。
彼女は恋愛以外は万能なのでこれくらいの事は朝飯前である。
その2.次女リリィの場合
「それじゃあ次はあんたの番ね、リリィ……ってあんた何をしてるの?」
見ればリリィは本を読みふけっている。
しばらくして……
「よしっ!ヘタ結びの傾向と対策はばっちりだわ」
「いや、ヘタ結びの傾向と対策って……というか何なのよその本……」
「ん。書庫にあった」
「う、ウチの書庫ってどうなってるんですの……?」
傾向と対策を立てて物事に挑む次女リリィ。
そんな彼女のヘタ結びは『平均的』な出来栄えであった。
その3.三女アリスの場合
「うぇぇ……ボク、こういうの苦手なんだよね……」
アリスは口の中で下手をもぞもぞするが元々不器用なので中々結べない。
上の姉二人が結べていたのに自分は……そんな事を考えながらふと視線を逸らすとその先には鏡が。
『情けないなぁ、アリス。『わたし』が手伝ってやるよ。身体のコントロールを貸しなよ』
アリスの中にいるもうひとりの自分、『チェシア』が表に出てくるとあっという間にヘタを結んでしまい口から吐き出す。
「に、苦手と言っておきながらこの出来は……凄いですわアリス姉様」
その4と5.4女メールと5女リムの場合
「まあ、こういうのは慌てない事が肝心ですのよ」
そう言いながらリムは少し苦労しながらも下手を結んでいく。
「何ていうか、あんたが一番つまらないよねリム」
「そ、そんな風に言うのでしたら言い出しっぺのあなたはどうなんですの?結べますの?」
「あはは、そんなの簡単に極まってるじゃん」
メールは笑いながら実を口に含み。
ゴリッ!ゴリッ!
音を立てながら種迄かみ砕いてしまった。
「いや、あんたねぇ。種はかみ砕くものじゃにでしょ。それに何か毒とかなかったっけ?」
長女が呆れながら母親が同じ妹を見る。
「とりあえずヘタ結びですわ!さぁ、早くなさったらどう?」
「うるさいなぁ……妹の癖に……」
割と粗雑な四女はぶーぶー文句を言いながらヘタを口に含み。
「うん、美味しかった!」
そのヘタも飲み込んでしまった。
「ちょっと!誰が下手を飲み込めって言いました!?あなたは脳みそ迄筋肉で出来ているのですか!?」
「うるさいなぁ。大体ヘタなんか結んで何か意味あるの?」
「あなたが言い出しっぺでしょうが!この脳筋!!」
「くーっ生意気だぞリム!言っていい事と悪い事があるだろ!今のは言っていい事だけど!」
「意味が分からないですわ!!」
成人しても尚時折行われている掴み合いの喧嘩が始まった。
姉達はその様子を『まただよ』と言った顔で見ているのだった。