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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

天才魔法使いと天才剣士

作者: sst

--これは剣も魔法もモンスターもある異世界のお話。 

住民の平和を守るために結成された王立騎士団。

騎士団の大多数は剣士と魔法使いで構成され、前衛後衛バランスよく所属している。


だが、元々は全く毛色の違う組み合わせ。

この二つは基本的な感覚が全く違った。

その感覚の違いは時折戦闘中の連係ミスを引き起こす。

それはモンスターのいる戦場という場所では致命的な問題だった。

そこで騎士団は剣士と魔法使いの相互理解を深めるため、この二組でバディを組ませ、任務中はおろか私生活も共に過ごさせるようにしたところ、戦闘中の連係ミスが大きく改善したという。


また魔法使いが一人、そんな騎士団の扉を叩いたのだった。


◆ ◇ ◆ ◇


「たのもー!」


騎士団の入り口に響く大音声。

何事かと団員たちがわらわらと出てくると、そこには少女が一人。

育ちが良いことが解る上品な服装に低い背、サラリとした長い金髪に遠くまで見据えられそうなぱちくりとした碧眼。

少女は居丈高に腕を組み足を広げ、団員たちを睨みつける。

その様相に団員たちは近寄りがたく、遠巻きに様子を見る。


そこに一人の女性が進み出る。

美しく整えられた銀髪に吸い込まれそうな黒い目。

一見、どこぞの国の王女とも取れる淡麗な風貌であるが、物々しい鎧からそれが騎士団員だと解る。


二人が相対する。

こうして向き合うと子供と大人の様な体格の差だ。

もちろん、金髪碧眼の少女の方が子供側だが。


金髪碧眼の少女は銀髪黒眼の女性の圧に負けることなく、その眼を睨みつける。

一触即発、といったところに女性が口を開く。


「お嬢さん、こちらは遊び場じゃありませんよ。」


女性が諭すように言うと、少女の碧眼がつり上がる。


「何ベタな勘違いしてくれてんのよっ!あたしはアンネ・クライスト!今日からここに赴任する魔法使いよ!」


そのアンネの台詞に周囲がざわつく。

無理もない。騎士団に赴任するには養成施設を出る必要がある。

この養成施設は王立騎士団というエリートを養成するだけあって厳しく、かなり長期の訓練を強いられる。

卒業し騎士団に来ることには20代中盤に差し掛かっていることがほとんどである。

だが、目の前の少女はどう見繕っても17歳が良いところだ。

そんな年齢で養成施設を卒業し騎士団に赴任してきた人物など、今まで一人しかいない。


「ああ、失礼しました。アンネ・クライスト嬢。お話は聞いております。」

「解ればいいのよ。で、あんたは?」

「私はシャーリー・ベイカーともうします。以後お見知り置きを。」

「ふーん。で、シャーリー。早速だけど案内頼むわね。」

「解りました。ではひとまず騎士団長と魔法使いのリーダーのところにご案内いたしますね。」


こうして大人と子供、シャーリーとアンネは周囲の喧騒を一切気にすることも無く、建物へと入っていったのであった。


◆ ◇ ◆ ◇


「はぁー、何なのよあいつたち…。」

「まぁ、あの様な態度をとればそうなるかと。」


どうやらアンネは騎士団長と魔法使いのリーダーに対しても威張り散らかしたようで、こってりと叱られたようだ。


「ではこれから騎士団への叙任の書類を書いていただきます。これを書けばあなたも騎士団員です。よろしいですね?」

「良いから早く寄越しなさい。」

「ええ。ではどうぞ。」


アンネはさらさらと書類にサインしていく。

一通り書き終え、シャーリーへと差し出す。


「はい。書けたわよ。」

「…確認しました。よろしい。では今から君はお客様ではなく騎士団員だ。」


突如シャーリーの口調が丁寧なものから乱雑なものに変わる。

アンネはそれに驚いたのか一瞬体をびくりとさせるが、すぐさま平静を装い返答する。


「何よあんた!」

「もう丁寧に対応してやる必要もないということだ。解らないか?」

「ぐっ…うるっさいわねぇ!そんな態度なら私だって考えがあるわよ!」

「ほう。聞かして貰おうか。」


先ほどの続きとばかりに二人はにらみ合う。


「私は17で養成施設を卒業した天才よ!?すぐさま出世して騎士団の重要ポストに就くこと間違いなし!そうなったらあんた覚えてなさいよ!?」


アンネがそうわめき散らすと、シャーリーは一瞬きょとんとした顔をした後、大きな声で笑い出す。


「何!?驚き過ぎておかしくなったのあんた!?」

「はは、いやすまない。アンネ。五年前ここの騎士団に君と同じ17で剣士として赴任し、今や剣士側のリーダーに立った団員がいるのを知っているか?」

「知らないわよ。でもあたしみたいな天才は剣士の方にも居るのね。」

「そうだ。ちなみに、それは私だ。」

「はぁ!?」


目を白黒させるアンネを見てシャーリーはまた愉快そうに笑う。


「気がつかなかったか?トップの騎士団長、その下につく二人のリーダー。その片方しかいないことに。」

「そんなの…あたしが魔法使いだからだと…。」

「私がもう片方だからだよ。くっくっく、まさか気がつかないとはな。」


さすがのアンネも衝撃を受けたようで、少し落ち込んでいるように見える。

そんなアンネを見てニヤリと笑いながらシャーリーは追い打ちをかける。


「まぁ、私をクビにしたいのであれば、ささっとリーダーになって、さらに騎士団長にまでなって貰えるかな?アンネ。ああ、そうそう、私は入って三年でリーダーになった。もちろん、追い越してくれるよな、天才サマ?」


シャーリーからの容赦ない追撃を受けアンネは俯き、ぷるぷると震える。

その様子にシャーリーはやり過ぎたか、と慌ててフォローしようとするが--


「やーーーーーーーってやるわよ!ばかぁぁぁぁぁ!」


途端アンネは上を向き、自らを奮い立たせるようにそう叫ぶ。

その騒ぎにまた団員たちがわらわらやってくるが、二人はそれを意に介さない。


「一年!一年でリーダーになってやる!そしてそっから三年で騎士団長になってあんたをクビにしてやるから!!」

「そうか、良い意気だ。」

「うるさいっ、バカ!」


少しバカにする感じを含むシャーリーの相づちに苛立ったようにアンネは罵倒する。

その罵倒もシャーリーは愉快そうに受け止める。

その様子にアンネはさらに苛立ちを募らせるが、自らを落ち着かせるように一つ深呼吸をする。


「ふぅ。まぁいいわ。それより、あたしにもバディとやらが居るんでしょ?そいつはどこ?」


アンネの問いにまたシャーリーは笑う。一頻り笑ったあと、息を切らしながら答える。


「それも私だよ。」

「はぁぁぁぁぁぁ!?」


◆ ◇ ◆ ◇


「はぁ。なんであたしがこんな奴と。」

「女性団員は少ないからな。それとも男とバディが良かったか?」

「一緒に住むんでしょ!?絶対嫌よ!?」

「なら文句を言うな。」


二人は街道を歩く。

美人二人組のタッグともあって人目を集めるが、その剣呑な雰囲気に人々はすぐさま目を反らす。


「ましてや、何で初任務に街道警備なのよ。もっと派手なのはなかったの?」

「街道警備だって立派な任務だ。…前方、10時の方向にスライム。やれるか?」

「あたしを誰だと思ってんのよ。…ほいっと」


アンネが軽く指を振ると、遠くスライムの居るところに突如として轟雷が降り注ぐ。

スライムは跡形もなく吹き飛んだようだ。


「ほう。」

「あたしの実力、見たか!」


アンネは無い胸をここぞとばかりに張る。

その様子にシャーリーは苦笑しながらも答える。


「アンネ。君の魔法は変わっているな?詠唱も無ければ威力も射程も凄まじい。」

「詠唱?…ああね。サンダー!とかファイヤーボール!とかいうやつでしょ?」

「そうだ。うちの魔法使いは皆あれを唱えているが。」

「要らないのよ。むしろ威力も射程も落ちる。非効率ったらありゃしないわ。」

「ほほう。それは何故だろう?うちの魔法使いたちにも出来るだろうか?」

「難しいわね。出来ても数人かしら。魔法ってのは、体の中の魔力って力に指向性を持たせてそれを具現化するものなんだけど--簡単に言えば、サンダーと詠唱することによって、頭の中にサンダーの魔法が思い浮かばれて、魔力がそれに沿って指向性を持ち、具現化する。ここまではわかる?」

「ああ。要は頭の中の物を現実にしているってことか。」

「そういうことね。で、サンダーって唱えれば簡単なのよ。だって、私たちはサンダーってどんな魔法か解っているから。でも、それだとどこまで行ってもサンダーという魔法そのものの威力や射程といった枠組みは越えられない。だってそんなものはないのだから、想像出来ないわね。」

「ということは、君の今の雷の魔法はサンダーではない。」

「そう。物わかりが良いわね?今の魔法は、私が頭の中で、どれくらいの雷がどこに、どうやって落ちるか思い浮かべて、それを魔力で現実化したわけ。つまり、コレとか、コレとか、全部同じ私の空想っていう魔法ね。」


アンネはそういって指から火を出したり、水を出したりしてみせる。

それだけでなく花火を出したり、色の変わる明かりなど、半ば曲芸じみている。


「それだけならまだ多少の人が出来そうだが。」

「確かにね。でもそれで普通の魔法使いがじゃあ雷を出しますってなったときに、それはサンダーを越えないのよ。情報の彩度が足りないのね。質感だったり、音だったり。たくさんの細かい部分まで想像して初めてああなるの。もし小さな子の落書きレベルの想像をしてみなさい?多分変な風に暴発するわよ。」

「なるほど。」


シャーリーが興味深そうに頷くと、アンネは自慢げにそれを見る。

だがそのアンネの表情は、シャーリーの発言で一変する。


「つまり、私は剣の天才。そしてアンネは妄想の天才というわけだ。」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


アンネの顔色がみるみる赤くなる。

その様はまるで茹で蛸のようだ。


「どうしてそうなんのよ!?」

「聞いていた話を総合するに、そういうことだと理解したが。」

「違うわっ!あんた雷でも落とされたいの!?」

「その雷はゴブリンに頼む。2時の方向。」

「もうっ!」


アンネが腹立たしげに指を振ると、ゴブリンに先ほどより凶悪な轟雷が降る。

その場には骨すら残らない。


「あいつ、絶対にクビにしてやる…。」


恨みつらみの籠もった声でアンネがそう呟くと、シャーリーはカラカラと笑いながら先へと進んだ。


◆ ◇ ◆ ◇


街道警備も佳境に至る。

シャーリーとアンネはたまたま山賊に襲われている商人の荷馬車へと出会う。


「あの馬車、襲われているようだ!救助に入るぞ!」

「言われなくとも!」


二人は走り馬車の側へと駆けつける。


「王立騎士団だ!神妙にしろ!」

「神妙にしろって言われてする悪役は居ねえんだよ!」

「たしかに、あたしもそう思うわ…。」

「君が同意してどうする。」


などと間の抜けたやりとりをしながらも、さすがの二人、しっかりと陣形を組む。


「私が君に寄ってくる山賊をすべて抑える。アンネ、君は手当たり次第に片づけていってくれ。」

「了解。殺して良い?生け捕り?」

「出来れば生け捕りで。」

「だったらロープで縛っちゃおう、かし、ら!」


アンネが山賊の一人を指さすと、その体に急にロープが出現し体を縛る。


「良いぞ!その調子で頼む!」

「あんたこそ私のもとに山賊を通したりしないでよねっ、と!」


アンネが一人一人魔法で縛り上げ、襲いかかる山賊をすべてシャーリーが制圧する。

30人は居たであろう山賊を二人が押さえ込むのにそれほど時間は必要としなかった。


◆ ◇ ◆ ◇


「主人、怪我はないか?」

「え、ええ…。」

「あたしの心配はないの?」

「私が守ってやったんだから怪我しているはずがないだろう。」

「守って貰う必要ないわよっ!」


シャーリーとアンネが揉めていると、商人はその隙に逃げ出そうとする。


「待て。どこに行く?」

「ひぃっ!?」


すぐさまシャーリーが商人を捕まえると、商人はこれほどにないくらい動転する。


「怪しいな。荷馬車を改めさせて貰う。」


シャーリーたちが荷物を確かめていくと、出るわ出るわ禁制品の嵐。

合法な商品のが少ないくらいだ。


「主人。騎士団まで同行をお願いしようか。」

「わかりました…。」


シャーリーが商人を締め上げていると、荷馬車の奥に入っていたアンネがひょっこり顔を出す。


「これ、何かしら。卵みたいなのだけど。」

「なんだ?」


シャーリーがアンネの方へ振り向いた瞬間、シャーリーの顔色がさっと変わる。


「アンネ!それを離せ!」

「えっ、えっ!?何よ急に!?」


アンネが困惑して固まっていると、二人の上を大きな影が通る。


「遅かったか…。」

「何よあれ!?」

「ドラゴンだ。そしてアンネが手に持っているそれはドラゴンの卵だ。つまり、私たちは卵泥棒だと認識されたわけだな。」

「それって…相当ヤバい状況よね。」

「だな。うちの騎士団長でも一人じゃドラゴン討伐は無理だ。そこに私と魔法使いのリーダーを加えて…なんとか。」

「つまり、騎士団の最強メンバー三人でギリギリってことじゃない…。」


二人はそれでも臆することなくドラゴンと戦闘態勢に入る。


「いいか、やることは同じだ。私が抑えてお前が魔法で火力を出す。それだけだ。」

「誰に言ってんのよ!」


アンネとシャーリーはそれは長年の付き合いの様に隙のない連係の取れた動きでドラゴンとやり合う。

にじりにじりと二人は優勢を取ってゆき、ついに均衡は崩れる。


「アンネ!今だ!」

「わかってんのよ!食らえ!」


シャーリーが作り出したドラゴンの大きな隙に、この世の終わりかのような雷をアンネが降らせる。

正真正銘、二人の持てる力の全てだった。


「やったわね!」


立ちこめる土煙の中、アンネはシャーリーに近寄る。


「馬鹿っ!まだ--」


シャーリーは何かを言うのをやめ、走る。

そしてアンネを突き飛ばしたかと思うと、そのシャーリーの横腹に土煙から出てきたドラゴンの前脚が刺さり、吹っ飛ぶ。


「えっ?」


訳の解っていない様子のアンネに、重傷を負ったシャーリーは息も絶え絶えになりながら叫ぶ。


「態勢を立て直す!援護してくれ!」

「あっ、あたしがやらないと!」


シャーリーに追撃しようとするドラゴン。

アンネが援護しないとシャーリーはこのまま死を待つだけだろう。

だが、そのアンネの手は震えて。


「あぁぁぁぁぁぁーっ!」


アンネが繰り出した牽制の火の魔法。

それは確かにドラゴンに届き、シャーリーへの追撃を妨害する。

だが。


「アンネ!!」

「だい、じょうぶ…。これくらい…!」


アンネの右腕も同様に焼けている。

動転して魔法のコントロールに失敗したようだ。

その様子を見てシャーリーは意を決したように叫ぶ。


「撤退だ!アンネ、どこへでも良い、ひたすら逃げろ!」

「無理よ!!どこに逃げたって追いかけられる!」

「一秒でも長く私がここに足止めする!だから逃げるんだ!」


紛れもない、心からの哀願。

命懸けでアンネを助ける。そんな気持ちが声に籠もっていた。

それを聞いてアンネはキッと目を見開く。


「一分!」

「一分!?」

「一分でいい!ドラゴンをそこに足止めして!」

「任せろ!だから君は--」

「あたしが声を掛けたらその大岩に飛び乗って!良いわね!?」

「アンネ!?君は、何をするつもりだ!?」


アンネは伝えるべきことだけを伝えると、その場に座り込み瞑想を始める。

それは隙だらけで、攻撃されれば一溜まりもないだろう。

アンネなりの、最大の信頼。


「ふふ、怪我人に無茶を言う!私が天才じゃなきゃ無理だったぞ!」


シャーリーは怪我を物ともせず、今までにないような動きでドラゴンの攻撃をすべていなしていく。

当たらない攻撃にイラついたドラゴンはアンネの方を向くが--


「そうは私が通さんよ!」


シャーリーが全力でドラゴンの尾に剣を刺し地に縫い止める。

ドラゴンは痛みからか鳴き声をあげる。


「アンネ、そこに縫い止めたぞ!」

「解ってるわよ!シャーリー!今!」

「了解!」


シャーリーは大岩に飛び乗る。

その様子を見たアンネは大火傷を負った右手で指を振る。


「天才、なめんなぁーーーーーっ!」


アンネが叫んだ瞬間、ドラゴンの居る辺り一面に熱線としか表現しえない何かが降り注ぐ。

その熱量は地面さえ溶かしてゆく。


そうして熱線が降り終えた後、その場にはシャーリーの乗った大岩と、溶けて赤くなった地面だけがそこに残った。


「さすがは妄想の天才!」

「その名前で呼ぶなっ!」


二人は笑いあった。


◆ ◇ ◆ ◇


「シャーリー、アンネ。お前たちが何故呼ばれたか解るか?」

「もちろん!あたしの昇格よね?」

「そんな訳ないだろう。私の昇給だな?」

「どちらでもないわっ!」


後日、騎士団長の部屋に二人は居た。

天才コンビ、二人でのドラゴン討伐に成功す。騎士団はその話で持ちきりだ。

当然、二人はその件についてお褒めの言葉を貰えると思っていたのだが。


「討伐対象でもねえ天然記念物を倒したところで何の評価にも繋がんねえよ。そんなトラブルに巻き込まれて生きて帰ってきたことは褒めてやるがな…。何なら違法商人を逃がした挙げ句、その証拠は全て魔法で溶かしてくれたと来たもんだ。」


ドラゴン討伐は業務対象外。評価されるのは街道警備という任務を終えたということだけだ。それも悪い方に。


「じゃあ何で呼ばれたのよ?あたし、忙しいんだけど。」

「アンネ、お前はもっと言葉づかいを直せと…」

「相変わらずごちゃごちゃうるさいわね、小皺が増えるわよ?」

「ごほん。静かに。今回呼び出した件だが…お前等の部屋がゴミ屋敷みたいになってるって両隣から苦情が来てんだよ!!どうなってんだ!!」


バディは共同生活。つまり部屋も同じだ。

なので怒られるときも同じ。


「あー…なるほどね…。」

「アンネ、お前と来たら散らかしっぱなしで…」

「シャーリー、アンネが来る前からお前の部屋は問題になってんだよ!!!」


シャーリーの部屋はいわゆる汚部屋だった。

元々良いところのお嬢さんだったアンネが初めて入った時の叫び様は想像に難くないだろう。


「アンネもアンネだ!!シャーリーの前のバディが結婚でやめてから散らかり放題の部屋を何とかしろって言ってんのに何でさらに散らかってんだよ!!お前良いところのお嬢さんだろ!!」

「団長。お言葉ですけど。」

「なんだアンネ!?」

「住めば慣れるわよ。」

「お前等減給!」


◆ ◇ ◆ ◇


「はぁー…怒られたわね…。」

「お前が余計なことを言うから私まで減給になったじゃないか。」

「たぶん私が言わずとも減給よ?だってシャーリー、あんた片付ける気ないでしょ?」

「ないな。」

「そういうことよ。」


二人はその場でため息をつく。


「減給か。今月はパスタ祭りだな…。」


パスタ祭り。それは先月のこと。

騎士団に新しく赴任した新人はまだ給料が払われていない間、先輩だったりバディだったりに食事代を出して貰うことが慣例となっている。

だがシャーリーは金遣いが荒く、アンネと二人分の食費となると安い乾燥パスタを毎日茹でては食べるくらいしかなかったのである。


「せめて、ソースは買わない…?」

「アンネの金ならかまわないが。」

「なら、今月も素パスタね…。」


とぼとぼと肩を並べて歩く様はとても息が合っていて、仲の良さが伺える。


「…そうだ、聞きたかったんだけど。」

「なんだ?」

「何であの時、あたしを命懸けで助けようとしたの?」

「動転して自分の手を焼いちゃう可愛い新兵を助けてやるのは先達の義務だと思うが?」

「それを覚えてる限り絶対クビにしてやる…」

「昇格どころか減給されてるような天才サマに果たして出来るんだろうかね?」

「それ、あんたもだからね?何、自分を客観視出来ないタイプの人?」


二人はまた一触即発の雰囲気で睨み合う。

だが、シャーリーの表情が先に緩む。


「まぁ、だがそうだな。強いて言うなら、お前と居るのが楽しかったからかもしれないな。」


--これは剣も魔法もある異世界で、後に王立騎士団初の二人組の騎士団長として語られる恋人たちのお話。

お読みいただきありがとうございました。

好評、不評共に真摯に呑み込んでいければなと思っておりますので、気軽に評価感想いただければ幸いです。

また、評判がよければ連載化も考えております。


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もご覧になっていただけるとこれまた幸いです。

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