SHIEN
高校三年間の部活動で書いた作品中で一番好きな作品を少しだけ成長した(と思いたい)未来の私がちょこっとだけ書き直してみました。初投稿となりますので至らぬ部分多々あると思いますが目を瞑っていただけるとありがたいです( ˘ω˘ )
『文化祭終了間際、ステージ上での告白に成功したら一生幸せになれる』
僕の通う高校で言い伝えられているこれを信じて告白しようとする人は少なくない。成功した人が大人になるまで別れず生涯を共にしたという話もよく聞く。そのカラクリを知る人は今のところ僕以外にはいない。そのカラクリは……
「やっだもう、何この二人かぁわぁいぃいぃ〜!美男美女とかマジうらやまぁ!しかも逆告白とか萌えさすわぁ〜!どーしよっかなー、んー、ふふふ、結んじゃう!」
そう彼女だ。ステージ上のど真ん中で、男女を眺めながらテンションMAXで赤い糸をぎっちぎちに結びつけている、僕の彼女。名前を「しえん」という。「私縁」と書くらしい。皆彼女が気にならないのかって?実は彼女は人の縁を操るお化けなのだ!なお、霊感持ちの僕には彼女がはっきりと見えている。お化けと付き合ってる理由が気になる?それは僕がビビったからだ。去年の文化祭で友達に煽られて、僕も同じクラスの子に告白をしたんだけど、私縁が背丈と同じくらいにもなるすごいデカいハサミで僕の糸を切り落とそうとしていたから。何を思ったのか僕は、
「きっ、君に言ってるんだよ!」
って言って私縁に手を突き出した。皆には空気に向かって言っているように見えただろうが。そうして交際はスタートし、今に至る。
「えー、ブサメーン。なんで君がこんっっっなに可愛い子にOKもらえるとおもったのかなぁ〜?んー、今後あんまり関わりなくなるように、中サイズで切ってあげるね〜」
私縁はそう言って、普段僕達が使うのと同じサイズのハサミで糸を切った。ハサミのサイズが小さければ小さいほど、切った二人の関わりあえる機会が少なくなるらしい。
「お疲れ様、私縁」
人気のなくなった校庭の隅の木陰でそう言った。
「今年は、皆高スペックだったなー!楽しかった!君と出店回ったのも楽しかった!なんだっけ?たぴ…たぴなんとか?っていうの美味しかったな!」
彼女は食べ物の味の概念を食べているらしい。どういうことかはよく分からないが、ふわふわと浮いた身体をぴょんぴょん躍らせながら興奮気味に言った。
「じゃあまた来週。しっかり休むんだぞ、私縁」
「はーい、ばいばぁーい」
彼女との生活はまぁ楽しい。いつも明るくて好奇心旺盛で、見てて飽きない。……でも正直に言うと不満の方が大きい。目立たない、冴えない、科学部の僕(霊感あるのがもう非科学だが)に彼女がいるだけで恵まれているとは思うがそれでも不満は拭い切れない。肉体がないから手も握れないし、浮遊しているから移動スピードが尋常じゃなく速いし、俗に言う地縛霊だからそもそも学校から出られないし、傍から見れば空気に話しかけている奴だし。私縁と話してからの家路は、いつもこんなことが頭を駆けて巡る。
翌日、科学部室で一人SF小説を読んでいた時。コンコンとノックが聞こえ、返事をすると、一年生の女子が見学したいと入ってきた。その子の可愛いこと、可愛いこと…
「文化祭の展示であった星の研究にどうも心惹かれてしまって。私もあんな風に何か研究してみたいと思って、見学に来てみたんです」
「それ……僕の研究発表だね」
待て待て。
「そうなんですか!ぜひ詳しくお話聞かせてください!」
何だこの展開は。かくして、彼女は科学部員の仲間入りをした。その中でもなぜか僕をよくリスペクトしてくれているようで、よく相談を持ち掛けてくるし、班ごとに活動という時には率先して僕と同じ班を希望してくる。……可愛い。とことこ追いかけてくる小動物みたいで。
「来週末、天体観測しに行こうと思ってるんだよね」
「そうなんですか!?ご一緒したいです!」
なんて調子で二人で星を見に行ったこともあった。……意識しないわけがないよなぁ?私縁とは違って、一緒に話し合っていても不自然じゃないし、出かけることもできるし、触れることだって可能だし、そして何より可愛いし。
三年に進級して僕は心に決めた。ラッキーなことに僕は私縁を味方につけている。失敗なんてするはずない。
「なぁ、私縁。話したいことがあるんだけど」
「ん?何なに?そんなに改まって」
放課後、校庭の隅の木陰に座って声をかけると、私縁はどこからともなく滑り出してくる。
「僕、今年で三年になるんだ。留年でもしない限り今年いっぱいで僕はこの学校からいなくなる。だから僕、後悔しないように、文化祭でまた告白しようと思うんだ」
「ふぇ?」
私縁は変に高い声を漏らして、背中を向け俯いた。軽く震えているようにも見える。僕は自分でも驚くくらい小さな声でごめんと呟いた。聞こえてないらしかった。
「だっ、だだだっ、大胆ねっ……。にっ、二回も大勢見てる中で告白してくれるっていうのっ……?」
ヤバい、履き違えられた!と思って私縁を見上げると、その横顔は、手で口元を覆って、目には潤みを持たせ、お化けとは思えないほど顔を真っ赤にしていた。その姿にドキッとしたのは事実だが、それは今彼女という立場にあるからだ、と自分に言い聞かせた。
「ごめん、私縁にじゃなくて、後輩の女の子になんだ」
今度ははっきりと伝えた。
「……え?」
ちゃんと聞こえたみたいだ。さっきより震えが増している気がする。
「私縁、ごめん。でも、協力してほしいんだ。僕らを結んでほしい。お願いだよ」
震える私縁に追い打ちをかけるように言った。一瞬自分が嫌いになりそうになった。
「……あのね」
数秒の沈黙が通り過ぎて、私縁がゆっくりと口を開いた。
「私が初めから持っていたハサミってこれだけなの」
彼女が振り返り僕に見せた手のひらに乗るハサミは小指の長さよりも短い。今まで一度も見たことがない大きさだった。そして、それが意味することは長い付き合いで何となく分かった。私縁は見せてくれたハサミを握りしめ、切ない顔を見せないようにとまた僕に背中を向けた。
「私の名前は『しえん』、文字通りの『私怨』なの。告白したことをずっとからかわれて、好きな人の目の前で死んだ可哀想な子。本当は、この学校で起こる恋愛を許さない、怨念なの。このハサミは切った人の好きな人を、二度と会えないように物理的に離れさせる、場合によっては命まで奪ってしまう、そういう代物なの。怖いでしょ?私は嫌だった。私が上手くいかなかったからって、恨んで誰かを不幸にさせるなんて。だから私は、自分で糸を操る能力を修得して、自力で新たなハサミを作った。でもこれは本来なら許されないことなの。怨念は怨念らしく、自分に課せられた復讐をしていなきゃいけないのに私はそれを破ったから。つらいの。たまに掟破りの罰を与えられて、胸が苦しくてはち切れそうになって痛くて……生きてた頃みたいで怖くて……。でも、もう報われると思ってた。君が愛してくれていたから。今年の文化祭終了まで君が愛してくれていたら、成仏できたのに。まさかこんなギリギリで、この世界に遺らなくちゃいけないなんて……。……ごめんね」
僕はあっぱ口を開けたまま聞いていた。私縁が手のひらに乗せていたハサミをつまみ上げたのが見えて我に返った。
「待って!私縁!僕が悪かったよ!冗談だよ、冗談!やだなぁ、本気にしないでよ、私縁〜」
焦って、笑ってみたけど、私縁は靡かないようだった。
「私縁、君が成仏するまで、君を愛すよ。だから、そのハサミをしまってほしい」
誠意を持って言ったつもりだった。
「ありがとう、嬉しいよ」
私縁の声はさっきより明るく聞こえた。……自分の気持ちを取り繕って、無理をしていることに気付いてあげられなかった。
「でも、大っ好きな人が、自分を好きじゃないと知って、誰が愛し続けられるっていうの?」
振り向いた私縁は、眉を垂れさせ、大量の涙を溜めながら、引き攣った笑顔を見せていた。胸がズキズキして苦しくなった。僕が何か言おうとしても心がそれを許さなかった。僕は……私縁を好きだったんだろうか。この場で何も言えない僕が感じていた私縁といる時の充実感は嘘だったのだろうか。僕が思考を巡らせているのを他所に、私縁は僕の前でかがむようにして、手を握った。僕は驚いた。手が触れただけじゃない。触れたその手が、温かかったから。
「不思議でしょ?私が今本当に大切だと思ってる人にしか感じられないんだよ」
切ない声色の私縁は、僕の指から二本の糸を手に取っていた。
「し、私縁?」
片方は私縁の指に繋がっていた。もう片方は、簡単に予想できた。
「ありがとう、楽しかったよ」
私縁は不自然に笑って、小さい小さいハサミで二本の糸を切った。その瞬間、私縁は目の前から消えた。そして僕はなぜここにいるのか、今一瞬視界に写った女の子は誰だったのか、何も分からなくなった。
数日後、科学部後輩の女の子が引っ越す予定だと言ってきた。残念だった。二年前文化祭で破れ、「彼女ナシの」高校生活に終止符を打とうと意気込んでいたのに。
それから何年もして、母校には新たな言い伝えが追加されたらしい。
『文化祭終了後、校庭の隅の木陰には毎年、後悔の恋文が綴られている』
最後まで読んでいただきありがとうございます!いかがだったでしょうか!後書きを自分で語っていい場所と信じて語らせていただきますが!!
私縁ちゃん可愛くないですか!?可愛いですよね!!否定は受け付けません!!純粋一途なおなごって可愛いですよねぇ〜〜あー可愛い。それで傷ついてもまだ思い残すことがあって文化祭が来る度にそれを思い出して、でも吐ける場所がないから思い出の場所にポエムみたいに残してるんですねー。でも所詮校庭ですから風が吹くなり雨が降るなりすればその恋文も消えちゃうわけで…あぁ…セチュナイ…
過去についても触れましょうか。私縁ちゃんは生前勇気を振り絞って同級生の男の子に告白したわけなんですけど、その男の子なんとカースト上位(性格悪いタイプ)の女の子が狙ってた男の子なんですね。それを知らずに告白し、敢え無く失敗。その光景をカースト上位女子に見られていて、告白した翌日からもう周りの人達みんなにからかわれるみたいな生活が始まっちゃいまして。カースト上位女子とその取り巻きには虐めとも取れるような所業をされます。そしてある日事件が起こります、移動教室かなんかで階段を降りようとした時でした。たまたま好きな人とすれ違い、目で追っちゃってたんですね(当然やんね好きなんだしカワイィ…)。それをまた見られちゃった私縁ちゃんなんと、カースト上位女子に突き飛ばされちゃいます(は?階段よ?ここ?普通やらんよね?はさておき)。私縁ちゃん真っ逆さまです。しかも当たりどころが悪くてそのまま命を失ってしまいます。それでもう思い残すことしかなく、高校の地縛霊として遺り続けているわけです。
ドキッとしたでしょうね、僕に告白された時。僕がどんなキャラかは皆さんのご想像次第でしょうけど。周りで自分を庇ってくれる人がいない生活を送り、命落としてからはもう誰も見向きさえしてくれなかったんですから。状況的にはゾッコンになってもおかしくない、てかこういう女子キャラが好き……基本上手くいかないやつ…おっと癖が出てしまいました。
てことでまだまだ語れますがこれより先に行くと止まらなくなりそうなので、この辺で!後書きまで最後まで読んでいただきありがとうございました!!投稿頻度はさほど高くはないと思いますが、それでも読んでくれる方がいるのなら私としてはこの上ない幸せです!それではまた次の作品でお会いしましょう!!