モノクロ
たまにね、何もわからなくなることがあるんだ。
何もわからないというのは正確じゃないかもしれない。
けれど確かに何もわからないんだ。
頭から言葉のようなものが抜け落ちてしまう。
ものを積み上げて形を作るのに、すべて溶け出すような感覚。
砂山だと思ったらいきなり液体に変わり、砂場だった水たまりに波紋となって消えるんだ。
だけどね、そんな時にわかってくれる誰かがいてくれれば。
水たまりの波紋を砂山だと言ってくれれば。
その何もわからないが理解されれば、世界の色はあざやかに映るんだ。
花は、美しいと感じる心の中にしか存在しない。
美しいから花なんだ。だから、花は咲くんだ。
ゆらゆらとただよう海月のように。
水面に映る雲のように。
そこにあるけど分からない。どこにでもあるのに気づかない。
そんな物に心を奪われる。
過去だけじゃなく今も尊い瞬間だと、気付くのはまだ遅くない。
進むに足らぬ体でも、振り返れば足跡がある。